77 ゴブリンの目
獲物を狩るなら確実に効率良く、そして獲物に気付かれずに……
大きな獲物を狩るならば、その仕掛けは大きく大胆に。
アクエリアのエルフどもと人間、罠を張るならこのベルクヴェルク全てを罠として誘い込め……
騙せ、上手くいったと思わせろ、油断をさせろ。
ベルクヴェルクの街を見下ろすには最適な場所がある。ドワーフ達が掘った鉱山の通気口がベルクヴェルク山の上の方にいくつもあって、そもそもドワーフの技術によって、近くに行ってもなかなか見つける事の出来ない穴であった。
暗く小さな穴は、身体の小さなドワーフなら通る事の出来る大きさで、身体の大きな敵の侵入を防ぐ事が出来た。しかしこの穴も、身体の小さなゴブリン達にとっては自由に出入り出来る大きさ。暗い穴は隠れるには最適で、麓の街から見上げてみてもそこに穴があることすら気がつかれる事は無かった。
ベルクヴェルクの中央広場に現れた2つの人影。
予想通り、奴らはやって来た。あの無敵という面倒な奴らだ。今頃奴らは我々が居ない事に嬉々としているに違いない。
さあ、仲間を呼んで来い。この街はガラ空きだ……
△▽ △▽ △▽
ベルクヴェルクの鉱山の入り口へは、これからは登りの道が続く。通りの両側に並ぶ貴金属の店と、武器屋、防具屋、本来ならば商品が並んでいる店先は何も残っておらず、街の住民も当然だが1人も居ない。
「ピクシー、体力はどうだ?」
「持ってきた携帯食料を食べて満タンにしておきましょう。結構キツイですよ、ずっと登りですし」
走るのをやめて、歩きながらミリ飯を食べるピクシー。
「それ何だ?」
「ミリ飯のパクリですけど、ピクシーオリジナルです、これ、トパーズサーバーで僕が実験的に導入しようと思って作っていたやつです。ポールはミリタリー糧食って聞いた事がないですか?」
「知らなかった、お前そんな事を考えていたのか……」
ピクシーがポールに濃い緑の包みに入ったミリ飯を渡しながら、腰のポーチに手を突っ込む。
「凄いんですよ、何がって言うと味がちゃんとするんです。まさか僕のミリ飯がこんなに美味しいなんて……これ絶対売れますっ!ポール、それ食べてみて。もち米と鶏肉を醤油ダシで炊いて更に、細く刻んだタクアンを混ぜ込んだスティックタイプの栄養食」
ピクシーの手には茶色と、黒色の包みも握られている。
「美味いなこれっ、モチモチしていて冷えていても美味いっ!タクアンの食感もいいし、味のアクセントもある。何でこんな味がするんだ??・・お前天才か!」
「こっちも試してみてくださいよっ、トパーズサーバーの時はしなかった味がするんです、まさかの激ウマで。大概ミリ飯って美味しくないって言われているのに……こんなに僕のミリ飯は美味しいなんて、感動モノですっ」
もりもり食べながら坂道を歩く2人に、緊張感はもう無い。山から湧き出る水を利用した上水道がこの街にはあり、通りのあちらこちらには水飲み場が設けられていて、その周りにはベンチもある。
茶色の包みを開けて、出てきたピーナッツバターを挟んだビスケットに噛り付いて、冷たい水を飲む2人。
その様子を食い入るように見つめる目がある事に、ピクシーとポールは気がつく事は無かった。