76 ベルクヴェルクの探索
「わかった。よしっ取り敢えず鉱山の入り口から降りて来る道と合流するまで、この街道を真っ直ぐ走ろう。ゴブリンが居なければ、市街地を走り回ってあそこまで行くってのもありだと思うけどな。本部に映像を送る事が出来るし」
ガラスの割れた窓から家の中を覗き込んでいたポールが言った。
「見る限り、暴れまくった痕が残っている。街路樹もぶった切られてるし、木で出来た扉はボコボコだ。安全性を考えると、広い街道を行く方が良さそうだ」
「はい、行きましょう、市街地の中はトラップが怖いです」
そう言ってピクシーが走り出した。チラッと左上方を見上げて煙を確認する。
(もしかしてだけど……あれがゴブリンじゃ無かったら?)
走りながら考えるピクシーの前方に、噴き上がる噴水と、その中央に何かを持って振り下ろそうとしているポーズをしたドワーフの石像が立つ広場が見えて来た。
「広いなぁ」
「そうですね、ここがこの街の中央広場ってなってますね。ゴブリンって金とかに興味が無かったんでしたっけ?」
「えっ、どうして? あぁ、あれか? あのドワーフの王冠」
「ええ、あれって金でしょ。持って行って無いし……あれだけ目立つのに」
「そう言えば、ここがハルトとミュラーが襲われた場所か?」
「確かそうです。本来ならばここがベルクヴェルクの街のスポーンゲートですからね」
「何か痕跡でも残ってないかな、元々のハルトのアバターはウェイト状態が続いているって話だし、まだ生きてるのかもしれない」
「あれから何日も経ってますよ。ハルトさんが中に居ないから、ご飯を食べてないですよ。普通なら死んでます、なのにウェイト状態が続くって事は……」
ピクシーが、串刺しにされた頭の映像を脳裏に浮かべた。
「保存食の話か」
「はいっ、恐らくハルトさんもここに来る前に見た、食料にされた冒険者達と同じ事になっているんじゃなかろうかと」
「見つけて串から頭を外ししたらいいんだよな」
「はい、それで保存食ってシバリから解放される事になるので死亡扱いになります」
「面倒臭いシステムだなぁ。って俺達が言っちゃ駄目なんだけどな」
「これを回避するのが課金アイテムなんですからねっ」
"強制帰還スクロール" このアイテムを持っていれば、誰かの、この世界の何かの時間軸に捉われた自分の状態を捨てて、新たにログインし直す事が出来る。
要するに死んだ自分の体はそこに残したままで、自分とは切り離して違う物体としてしまう事で、新たにログインする事が出来るようになるアイテムだ。
βテスト中は、街の道具屋で販売される事になるが、本サービスが始まれば、有料アイテムとして実際にコンビニなどで課金しなければ買う事は出来ない。勿論、ゲーム内でユーザー同士で受け渡しする事も可能であるし、稀にモンスターからのドロップアイテムとして手に入る事もある。
ハルト達はそれを持っていなかった。まさかゴブリンが居るとは思っていなかったからだ。
(しかし、ベルクヴェルクの街をこの世界に設置してからそんなに時間が経ってはいなかったはずなのに、なんでゴブリンはあっという間にこの街を落とす事が出来たのか?)
それもこれからの調査する事の1つだ。実際に現場に来てみて街の広さを感じると、少ない人数での攻略が難しいと思ってしまうピクシー。
だとすれば、ゴブリンの数は一体どれほどのだったのか?
街に残る傷跡を見ながら、ポールもゴブリンの規模が思ったよりも大きかったんじゃないかと思えてきていた。