68 歪んだ世界で足掻かなければ
結果的に良かったのかもしれない。
アクエリアの郊外約10kmの場所にある、森の聖堂。ここをベルクヴェルクへの出発ゲートに設定したのは、もしものゴブリンにこのゲートを逆に利用された場合に、直接アクエリアの街に入り込む事態が起きない為の対策だったから。
アクエリアの冒険好きのプレイヤーの中には、積極的にワールドの奥の方、例えばアクエリアからベルクヴェルクに向かう約200kmの街道沿いを、旅をしながら地図を開拓して行く者も沢山いた。
アクエリアの街の公文書館が発行するクエスト、
『未開の地の地図作成』
順次アップされて行く地図は、必要とする冒険者のマップに直接アップデートされる。このマップには一人ひとりにキーが設定されているので、他の人に見せたり転送したりする事はゲームの中では出来ない仕様だった。必要な地域のマップをそれ相応の価格を支払って購入する。
勿論、地図の内容を話して説明する事は出来るけれど、実際に現場に行くとなると、視界の隅にマップを表示した状態で動くのと、黒く塗りつぶされたマップを表示して歩くのとは、時間の無駄を大幅に減らす事が期待出来るし、危険なモンスターの出現場所の情報を買って、それもリンクさせておけば、それはもうなくてはならない物となるわけだ。
情報収集クエストの報酬は、その難易度に応じて通貨レイで支払われている。その原資となるのが切り売りされる情報なのであった。
着々とベルクヴェルクに向かう街道は踏破されている。ところどころで出現する宿場町では、また新たなクエストが発生して、そこを拠点として周辺を探って行くという、ファンタジーの王道とも言える活動をしている者も増えてきた。
そしてそれは、おのずとゴブリンの王国に近づく事となって行くのである。
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周りが森に囲まれると、街道の見通しは良くない。と言っても、拓けた場所や疎らな木立には小さな道も伸びていて、そこがまたどこに続くのか? 冒険心を掻き立てられるアンタレスの先駆者達。
おそらく自分達かマップ競争のトップを走っている自負がある、4人組のクエストパーティが全滅した。それが判明したのは、彼らの変わり果てた姿が発見されたからだ。
杭に串刺しにされた頭が、森の奥の空き地に立っていた。その杭は焚き火の跡を取り囲むように並べて立てられ、何者かの食事としての時間軸に捉われてしまって姿を残してしまったものだった。
つまり、杭に刺した頭もいずれ食べるつもりだという事。
発見した別のパーティが杭から頭を引き抜いた事で、やっと彼等は解放された。ウェイト状態から再度ログインする事が出来たのはラッキーだったかもしれない。
見つからなければ、食料としての役目を終えるまで、食料としていなければならなかったからだ。
いずれ実装される有料アイテム、強制帰還スクロールを持っていれば、この世界の時間軸に捉われたアバターを放棄して、彼等も新たにログインし直す事が出来ただろう。
βテストの段階で最も導入が心待ちにされているアイテムは、今日明日にでもアクエリアの街の道具屋で販売される事になった。
串刺しにされた頭のスクリーンショットが、アクエリアの公文書館で公開されたからだ。
危機感を煽るこの写真と、写っていた当の本人達の話があっという間に街に広がり、その食事にされたおぞましい体験談からゴブリンと言う雑魚キャラが、アンタレスでは狡猾で残忍なモンスターであるという認識が広まっていった。