66 リサ、空に向かって
階段を降りながら、全ての視線を浴びる快感に打ち震え、私はステージに降り立った。
「ほらやっぱ嘘だろ、ちゃんとリサ様は居るじゃないか。街にリサ様が居たとか、パートナーを選んだとか誰かが騙しでやったんだよ」
「だよなっ、俺も嘘臭ぇって思ったんだ。おれのリサが誰かの物になるなんて許せねぇよ。あー安心したっ。リサ様あぁぁぁぁぁ」
(汚い歓声が聞こえる。はっきり言って苦痛、白馬に乗った王子様、早く私を迎えに来てっ)
ロゼッタが軽やかに階段を降りて来て言った。
「さぁ、始めましょう」
ロゼッタの声と共に、案内係がプレイヤーをステージに誘導して来る。
「はじめまして、僕はサファイアサーバーから来たD・mzと申します。魔法を極める修行の身ですが、この度麗しき姫君とお会い出来る栄誉が、私のような一般市民にも無条件で与えられると聞いて、馳せ参じて参りました」
「お疲れ様ね」
そう言ってロゼッタが椅子に腰掛けた。仮面の奥からの興味の無いロゼッタの声を聞いて、D・mzが今度はリサの前に移動する。
「はじめまして、僕は……」
「ディー、エムズィーさんですね、私はリサ。難しいお名前ね。ディー・エヌ・エー……」
「あっ、いや、違う、違います。D・mzです。本当の名前は、ドラゴナイト・ミューズ ツェッペリンです。名前が長過ぎるので頭文字だけを取ってD・mzとなりました」
(ごめん……パス。リアルでもパスするわ、ドラゴナイト! あはは、笑える。ミューズでもツェッペリンでも良いけど、どっちか1つにすればいいのに)
「そう……リサ、お名前が呼びにくいのは少し嫌なの。頭文字を取ったらドラミツなのにD・mzって……まるでどら焼きに蜜をかけたようなお名前。太りそうだからパスするわ。どら焼きに蜂蜜はかけてはいけないのよ、ホイップクリームと餡を挟み込んだり、プリンを挟んだり、あっ、リサは粒餡よりコシ餡派よ。いくらでも食べれるんだから・・」
「リサっ、リサっ、もうおやめなさい。D・mzは下がって良いわ。リサはこっちに来なさい」
ロゼッタが仮面の下から睨んでいる……みたいだ。
「なあに、お姉様」
(はっ! この世界に無いどら焼きの事を、リサが詳しく語ったのは不味いって事なのかな? うっかりしてた。よく考えたらリサはこっちの人だった)
「人の名前を馬鹿にするのは駄目なのよ。絶対に駄目。例えD・mzがDARK MAN Zだったとしても、弄っては駄目なのよ」
「えっ、D・mzさんってダークマンZだったの? そうなの、リサ信じるっ」
(どら焼きじゃなかった……てへっ)
相変わらずのロゼッタの毒舌と、リサのあっちに行った系の会話は観客席のスピーカーから垂れ流されていて、いつもの大合唱が始まっていた……
「ダークマンゼーッ! ダークマンゼーッ! ダークマンゼーッ!」
「どうしてっ、ねぇ、どうしてなの? 何でみんながダークマンさんの本当の名前を知っているの? ねぇ、謎よっ、リサはこの謎を解かないといけない気がするのっ」
ステージの中央に躍り出て、空に向かって言ってみる私。
(本当のリサに私がされたもの。やっても良いよねっ……つか爽快だわっ)
がっくり肩を落としてステージの階段を降りるD・mz。
恐怖のお披露目会場は、別の意味でも恐怖を体験出来る場所であった。