17 GMが仕事を始める
ラヴィ達が最初にスポーンした街の名は [水の都アクエリア] と言う。
── すり鉢状の底を持ち、魔法の力で水に浮かぶ巨大都市。街の外周は高い壁で囲まれていて、壁の上部は幅10mの遊歩道になっている。壁は三階建ての学校の屋上と同じくらいの高さだ。
今、その遊歩道をゆっくり回る街のスピードに合わせて、街の回転とは逆に歩く男達が居た。
「おうおう、やってる、やってる。ルミワームクエスト大盛況だな」
「R、あんまり覗き込むな」
「何人か抜けが出たけどいいのか? カル」
「いきなり想定外だったが、すり抜けたユーザーが上手い具合に働いてくれたよ」
「まぁ、そうだな」
「だが、PKは必要だったのかなぁ? あの畑に居る人数ではクエストを消化するのに必要なルミワームのポップが足りないだろう。バーチャルの世界で身体を使いこなすために用意したシナリオが、上手く回っていないんじゃないか?」
話している男は3人。その名をGMカル、GMスワン、GMバッドムRと言う。
── そう、奴らはこの街を仕切る3人組だ。
「そもそもこの街が回るってアイデア、歩いても歩いても前に進まないという欠陥が判明したぜっ」
ダルそうに歩くRが言った。
「いや、それは最初から言ってた事で、了承済みのはずでしょう」
スワンが小さな声でRに言った。
「いざ、しゃがんで姿を隠そうとすると、立ち上がった時にはここはどこ? 私は誰? 状態になってしまう。だから今、俺たちは歩いているわけだ」
そう言って、座ってみせるカル。
「先程、ユーザーを煽るような発言を俺たちがしたが、相手は誰だかを特定はしているのか?」
急に真面目になったRが、真面目を装った発言をする。
「勿論。シナリオ上のロールプレイであって、偶発的に起こり得る状況であったと後から伝える予定」
煽ったのはお前だろうがと思いながらスワンは言った。
「しかしネカマとはな、本人も辛いね。まだフィールドに彼は居るのかな?」
(お前も煽ってたじゃないか)
カルが当事者でないような言い草をする。
「特定は出来ますよ」
スワンは手元にある小さなモニターを操作した。
「今、街の中に入って行ってます」
「そうか。では、早めに対処しておこう。運営から個人的なプレイスタイルに対して、非人道的な扱いをされたと騒がれる前にな」
(やった本人がそれを言うか?!)
「もう周りが騒がしい、がははははっ」
Rが豪快に笑った。
「周りはほっとけ。人格を否定する行為に協力してもらったのは彼だけだからな」
(協力。響きはいいけど、巻き込まれ事故と言った方が正しいと思うけど)
「じゃあ行きますよ、付いてきてください」
少し呆れたスワンがそう言って、街の外壁から内側に降りていく階段に向かった。
「南地区のメインロードに入った所で動きが止まっています」
「おっそうか、じゃあさっさと行こうぜっスワン。さっきはすいませーんってな」
バッドムRが、その場でジャンプしてみせた。
「あのなぁ、俺たちがGMだとバレちゃ駄目だろ。プレイヤーの1人として生の声を拾って行くのが仕事なんだから、気をつけろよっ」
カルがバッドムRに突っ込みを入れる。
「バレたらRは退場な」
「まじすか、カル先輩」
「また電波やらせるからなw」
「それなら、いいっすよ。カルも一緒にやるよねっ!」
「お前だけ、ずーっと監獄に放置プレイだけどな」
「そろそろ聞こえますよ、気をつけてください」
スワンが小さい声でふざける後ろの2人に言った。
「あそこのヒューマンです。名前が……」
「ネカマのラヴィちゃん」
バッドムRが、あちらに聞こえそうな程のデカイ声でネカマを強調して言った。
「馬鹿っ、声がでけぇよR。お前、本人の前でそれを絶対言うなよっ」
「はぁ? 先輩こそなっ、あんた俺より煽ってたじゃねぇかw」
バッドムRがニヤニヤしながらカルを肘で突いた。
「俺が話すから、キャラになりきるように。行きますよっ」
スワンが先陣を切って歩く。
街を仕切る影の3人組、彼等の正体はアンタレスONLINEのエメラルドサーバーを管理するゲームマスター、略して 《GM 》なのであった。