63 僕はロビーだっ
(あっ、あれっ、ロビーちゃんじゃ無かったの? 間違ったかな……)
オープンβテスト初日に会ってから、久々だった。今までロビーちゃんは何をしてたのか分からないし、俺のあやふやな記憶じゃ、ちょっとした装備の変化なんかあっても全然分からない。
「ロビーちゃんだよね?」
「……は、はい。僕はロビーです」
「誰?」
「えっ?」
「ちょっとだけ聞くけど、本当のロビーちゃんは無事か?」
「えっ?」
目の前のロビーちゃんが、オロオロしながら腰のポーチから手鏡を出してこっそり自分の顔をみている。
(あからさまに怪しい……んっ、鏡だ)
「ねえ、ねえ、その鏡、貸してくれない?」
自分の顔に安心したのか、何かブツブツ呟きながら鏡を差し出すロビー。
「ありがと」
遂に自分の顔の薔薇とやらが見れる。さて、どんなものか……
「えー、右の首筋からしっかり枝が伸びて赤い薔薇の花が俺の顔に咲いてるじゃん。ちょっとカッコいいかも!」
(スゲー、そりゃ周りの人も見るわっ。彫り込んだと言うよりは、写し込んだと言う方が正しいような美しさだよ)
「あのぅ、鏡返して」
ずっと自分の顔の薔薇を角度を変えて見てニヤついている俺が、鏡を取り込んでしまうと思ったのか、ロビーちゃんが鏡を奪い返そうとしてきた。
「返すよ、返すけど答えて。本当のロビーちゃんは無事なのかい?」
「返してよっ、本当のロビーだもん。返してくれないと教えてあげないんだから」
「はいっ」
俺は鏡を返した。返し際に、鏡を受け取るロビーちゃんを細部まで舐めるように観察する。
(黙っていたらロビーちゃんだけどな……似たような姿をした設定のエルフもチラホラ居るから、俺達の事を知っている誰かのなりすましって線もあるけど、心配なのは俺とモフモフさんに起こったような事がロビーちゃんにも起きたんじゃないかって事だ。もしかしたら記憶喪失……そうなのか!?)
「ねぇ、僕の名前は?」
「えっ、どなたですか?」
「僕ですけど……」
「……ぼ、僕は、あの、ちょっと忘れっぽくって、ごめんなさい、わふれちゃった……」
(動揺が隠せて無いよ、ちゃんと言えてないし。この子弄るの面白え〜!)
「本当に? あんなに深い関係だった僕の事を名前すら思い出せないって、何かあったの? 心配だよ、今までどこにいたの?探していたんだよ」
(嘘だよー)
「もう、帰ってもいいかな? あや、いや、違う違う、帰れない、どうしよ、どうしよ……」
(可愛い過ぎる、何じゃこのロビーちゃんは)
「ク、ク、ククククッ」
ちょっと抑えきれなくなって笑い声が漏れた。
「何で笑うんだよっ、僕を困らせてそんなに楽しいの、のかっ!」
「へ、変だし、もう君が女の子だって事バレてるよ。それでね、本当のロビーちゃんはそんな時は真っ直ぐこっちを見て物を言わないんだよ。こんな風に首を傾げて、胸キュンポーズを取るんだ」
俺が首を傾げてみせると、目の前のロビーちゃんも真似して首を傾げて怪訝な顔をしてみせる。
「そこで口を閉じて笑ってみて」
(あぁ、ロビーちゃんだっ。このポーズをされたら俺は騙されてたよ、きっと)
「もういい?」
「いいよっ。俺の名前はラヴィアンローズ、見ての通りの無職の聖騎士。自分で聖騎士って言っても何かおかしいけどね、いずれなるつもりだったのかな。で、君は?」
「私は、じゃないもうリサの馬鹿馬鹿馬鹿、僕は白刃のロビー、BLLのロビーだっ」