62 運命の歯車は再び回り始める
マッテオの店に行ってみた。昨日の今日だから、遠慮しようと思ったけれど、やっぱ他に行くところも無いし、もう昼も過ぎたからお店もゆっくりしてるんじゃないかと思ったし。
でも、マッテオは居なかった。店の扉に今日は北のベルクヴェルク討伐隊の所で露店を出してますって、吊り札が掛かっていて、中を覗いても誰も居る様子が無い。
「あ〜あ、腹は減れども高楊枝……じゃなかった、武士は食わねど高楊枝だ。武士じゃないしなぁ〜」
切り出した岩で組まれた壁が続く路地の床の部分に、光る石が埋め込まれている。アーチ型のトンネルになっている場所は床が光ってほのかに明るい。
俺にも普通にアイテムボックスって言われる、容量が決まった小袋があって、その中に鍵が1個入っていた。腹が減るっていうか口淋しい時に美味いものが入っていたら便利じゃんって、イベントリを開いてアイテムボックスの中身を確認……なんてせずに、手を突っ込んで何が入っているか探してみたんだ。
やってる事がアナログ。
むしろ言われてみればその通り、近代便利道具が存在しないんだから、生活様式も何となく一昔前のような気がするんだ、何となくだけど。
で、鍵を見つけたので忙しいスワンの事を思い出して、家の話を思い出した。覚えてたけどね……昔の話だし、もういいっかなっと思いながらもメールを確認したら、家の座標ってのをスワンがメールしてくれているじゃないか!
AQ [12.-4]
アクエリアが中心の座標軸で表されている場所に向かっている。視界の片隅にマップを表示させて、それを見ながら進んでいるんだけど、えらい中心部に近いとこなんだよな。
人通りが多くなって、俺の顔をジロジロ見る奴も増えてきた。なんかローブでも被っておいた方がいいかも知れない。どうやら俺の顔の薔薇のタトゥーは人目を惹くみたいだ。可愛い子ならいいんだけどね、オッさんも見てくるし声も掛けて来られて面倒くさいんだ。
取り敢えず、座標 AQ [0.-1] に辿り着いた。目の前にあるのは、街を代表する噴水。そう、ここはみんなが最初にスポーンしてくる噴水広場だ。
「すぐ近くじゃん、めっちゃ人居るじゃん。ここなの?どこなんだ?」
俺はオロオロしながら、東西南北に伸びる大通りの東に向かって、と言っても円形の噴水広場の面積はかなり広いから東口の方へ、座標が12になるまで歩いた。
ちょうど噴水広場を取り囲むアパート群と同じ位置が12だった。それから-4になる様に南に下がると、3階建のアパートの前に立つ事になる。
「ここか。これが家? くれるって言ってた家かなぁ」
立派な古い建物。街のど真ん中。郊外の一軒家を期待していた俺を裏切るまさかのアクエリア中心街。
「家賃高いんだよね? この辺りの物件って、スワンもそこを考えたのかなぁ」
部屋が余りそうだし、本当の意味でここに住むのは俺1人なんだから
(モフモフさんも、ロビーちゃんも住むわけじゃないんだしね。こっちの住民の俺が優先だよね〜)
空いた部屋を貸して家賃収入ゲットだぜっ。不労所得……なんていい響き。スワン、グッジョブだぜっ。
「あのぅ、ここは……あなたはここに住んでいるんですか?」
俺の背後から声が聞こえた。聞き覚えのある可愛い声……
「ロビーちゃん?」
振り返ると、そこにやっぱりロビーちゃんが居た。
「うわぁ、ひっさしぶり! 元気だった? ロビーちゃん」
キョトンとしている声を掛けて来たエルフの女の子。
(あっ、あれっ、ロビーちゃんじゃ無かったの? 間違ったかな……)