60 生き残る者の条件
ロイとTAKAは思っていた。
(あまりに簡単に進めてはいないか? ……隊長は何を考えているんだ?)
隊長のエリックは森という身を隠せる場所から出て、部隊をベルクヴェルクに向かう草原に進ませている。
ロイは異変に気がついていた。森が静かだった。確かにこの部隊は隠密行動をするにしてはうるさすぎるし、周囲の虫や動物も警戒をして静かになるだろう。しかし、広い範囲で生き物の気配がしない……こんな時、アクエリア周辺の森の中でここまで静かな時は、危険なモンスターが潜んでいる時だけだった。
今の状況は、それに似ていた。ただモンスターの痕跡が一切見当たらない。余りに何もなさすぎるのだ。
当然TAKAも森の異変と、警戒するロイの様子に気がついていた。
私語は厳禁、手の動きでロイに確認する。TAKAが周りを指差してみると、ロイが頷いた。進行方向を指差すと首を横に降る。TAKAも同じ意見だ、2人して自然部隊の後方に移動して行く。こういう時は背後が危ない、ロイもTAKAも危険が増している気がしてならなかった。
数分後、事態は動いていた……
アサシンのTAKAが、今回配布された武器である 魔法のダガー " 眠り火 " を、森から弓を射るゴブリン達に放ち続けていた。魔法の短剣 " 蛍火 " から進化した " 眠り火 " の特徴は無限の数。両太腿に装備したダガーホルダーが空になる事が無いのだ。他に致命傷を負わさずとも、眠らせる効果を持っていて、ゴブリンに当たりさえすれば無力化する事が出来た。
ロイが魔法で敵の足留めを行う。
⌘ ミークロスピアース ⌘
ヒーラーのロイが、森から姿を現したゴブリン達に魔法を放った。針を刺す様な刺激は、ゴブリン達の足を止め、弓を射る手から矢を落とす。
矢に追い立てられて、身を隠す場所の無い草原をベルクヴェルクの城壁に向かって走るエリックの部隊。
森から出た所でゴブリン達に応戦しているロイとTAKAが、戻るよう声を出しても彼らにはもう届かなかった。
「典型的な挟み撃ちじゃないか。逃げ場の無い原っぱ、しかも下り坂だ。弓の飛距離も伸びる。わざわざ追い立てなくても出て行くなんて、大丈夫か? あの隊長は」
TAKAがワラワラ湧いて来るゴブリンにめがけて、ダガーを両手で放ち続けながら言った。
「こっちはもう食い止める目処がついた。なのに突っ込んで行っているよ……ああ、まじかっ。向こうの森から弓部隊が向かって行ってるじゃないか! TAKA、もう森に突撃しよう。各個撃破で頼む、フォローは任せろっ」
魔法の詠唱の合間にロイが返事をした。
TAKAがグンッと加速してゴブリンに突っ込んで行く。ロイが魔法を唱えてから、それに続いて行った。
近接戦闘に特化したダークエルフのアサシン、TAKA。 " 眠り火 " が形を変えて、一対のジャンビーヤとなった。湾曲した刀身を逆手に持って縦横無尽にゴブリンを刈り取って行く。離れた場所から弓を射ようとするゴブリンにはロイが魔法で足止めをして行った。
ほんの何秒かで2人の姿は森の中に消えた。森の中から辺りに響くゴブリンの悲鳴も、次第に少なくなっていった。