58 無理ゲーという声
スワンが討伐本部の奥で、大型モニターにエリックのポインタの場所を映した。クォータービューの画面は、エリックを斜め上から映し出しており、自在に映す角度と方向、サイズを変える事が出来た。
ただ、画面は真っ暗である。夜の森、森の中に潜むエリック達の姿を昼間の様に映す事は出来ない。
「今は小康状態だな、画面の動きが無い。エリックのポインタに強制的にシステム介入をして、帰って来るよう連絡を入れる事は出来ないのか? というか出来るよな」
ドワーフの王子スティングの姿をした、GMハルトがスワンに言った。
「一方通行になるけど、もう何度も連絡は入れているよ。こちらからの連絡が届いてはいるはずだ」
「スワンよぉ、いっそ俺達だけでも相互通信出来るようにしてしまえばいいじゃないのか……駄目か?」
(ハルトの言う通りだ。GM同士は遠隔チャットが出来るようにしておかねばならない)
「変なとこにこだわり過ぎていたよ。エメラルドサーバーのGMがバッドムRとカルと僕だったんだけど、ご存知の通り今は1人なもんで必要ないかと」
「まあ、バタバタしててスワンも忙しかったしな。GM同士が離れていても話が出来るように今から設定して来るよ。スワンはここを離れられないだろ」
GMミュラーがそう言って、一度ログアウトして行った。
「飯食ったのか?」
ハルトがスワンに聞いた。
「みんなは?」
スワンが討伐本部に戻って来ている他のGM達、今は部隊長達を見て答える。
「お前だけだろ、食ってないの。ここは見てるから、ちょっと休憩してこい。少しは俺達に任せろよ、なっ」
他のGM、今ここに居るのは
サファイヤサーバーから来た、ハルト、ミュラー、リューク。
ルビーサーバーから来た、ソフィー、ヨシロウ、ディーノ。
ミュラーはたった今、GM同士の会話の設定の変更の為にログアウトしたばかり。トパーズサーバーから来た、ピクシー、エリック、ポールの3人は、捜索隊の隊長としてベルクヴェルクの森の中のに居る。
部隊の編成を終えて帰って来ている他のGMは、それぞれ時間をずらして休憩を終えていた。
「行って来いっ、ついでに1つ変更もして来てくれ。これは現場からの要望だ。参加している面子、というかユーザーの兵隊に聞いたらさ、全員揃うのがやっぱ夜の20時以降なんだよ。今のアンタレスの時間推移は実世界と重ねているだろっ。不満も出てたし、今回の作戦にも不都合極まりない。よく考えたら、夜しかログイン出来ないユーザーは、いつも夜のアンタレスでしか遊べないだろ。上手いこと調整して来てくれよ」
急遽、騎馬部隊が作られてその隊長となったGMヨシロウが言った。それを聞いてGMソフィーも口を挟む。
「あのねスワン、1日を2日に変更して来てくれない。午前0時から6時までと、午後12時から18時までを夜に、午前6時から昼12時までと、夕方18時から24時までを昼間にしてくれればいいの。これで悪ければまた変更すればいいわ」
「まっ、行って来い。寝坊したら起こしに行ってやるからさ。飯食って休め、時間変更しないと外が真っ暗で何も出来ねえからさ」
「そういう事だ」
GMディーノの言うことに頷いてハルトが言った。
「捜索隊は何とかなるだろ、隊長は無敵設定だ。エリック達も何か考えがあってあそこに残っているのかもしれないし、それもミュラーが帰って来たら直接聞ける訳だから心配いらねぇよ」
「はぁ、すまん、ありがとう」
実際スワンは、気を張りっぱなしで疲れきっていた。
(会社の風呂に入って何か食べて仮眠を取ろう……)
そう思いながら、スワンはログアウトした。