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47 街を彷徨うリサ

(はいはい、あたしの負けで良いですから、そろそろ服を着てください……)


「って、ちょっと、リサ! 今君は何をやったんだ? 僕の、いや、僕がこんな、こんな素敵なドレスを。魔法? 魔法? リサって魔法使いなの?」


「秘密なの」


 すこぶる真面目に答えるリサ。


「じゃあリサはロビーの服を着る事にするわ、まだ動かないでね、鏡を見るのは後からにして、ロビー。今からリサがロビーで、ロビーがリサになるから」


 そう言ったリサの顔がロビーに一瞬で変化してしまった。鏡に映したかのように、リサの顔はロビーの顔になってしまっている。


(あわわ、あたしの顔までコピーしたよ。リサってマジ凄い魔法使いだったんだ)


「もういいよ、ロビー。ベッドの向こうに姿見の鏡があるから見てみて。靴は履きやすい物をお好きにどうぞ、君達エルフのサイズは同じ規格だからどれもピッタリ合うはずだから。でもお披露目会の時は色を合わせたハイヒールにしてね。観客席の人々は凄く良く見ているんだから」


「……」


(話し方まで変えてきたよ。つーかやろうと思えば、リサって普通に喋れるんじゃないの?)


 リサが、ロビーの服を着終えた。ブーツまで履いてしまったリサは、ロビー。顔も姿も完全にロビーになってしまっていた。


(ということは……ぼくの顔は)


 △▽ △▽ △▽ △▽ △▽ △▽


(大丈夫なの、誰にもばれてはいないの)


 キョロキョロしながらアクエリアの街を歩くロビーの姿のリサ。


(きっとお姉様は羨ましがるに違いないわ、だから帰りに何か持って帰れば喜んでくれるし、そんなに怒らないとリサは思うの……きっと凄く怒られるの)


 首を振って嫌な考えを捨てたリサは、石畳の大通りに出た後、周りのプレイヤー達の多くが歩いて行くアクエリアの街の中心部、噴水広場に向かって歩いていた。


 色々な場所で立て札を見た。ゴブリンという魔物がアクエリアとは別の街を襲った事。街を取り戻すために兵隊さんを募集している事。それを書いたのが、お父様、アラネア公爵 スワンだという事。


(だから最近お父様がお城に帰って来ないんだ。お父様はゴブリンという魔物と戦争を始めるおつもりなのね)


 兵隊を募集しているのは、リサが向かう噴水広場とは真逆の方向にあるらしくて、城の方へは曲がらずに真っ直ぐ北に向かう冒険者達が多かった。


 城から一気に歩いてここまで来た。ここは噴水広場に近い食堂が連なる地区らしい。いい匂いが店から漏れてきて、リサの足が止まる。


「何なの? この芳醇な匂いは何? 初めてよっ、きっと美味しい物の匂いよっ……でも、リサはお金を持ってないの。だから食べる事が出来ないの……食べてみたいな。お金、そうだお金を取りにお城に帰ろう。そうすればリサ、たらふく食べる事が出来るのよ……」


 立ち止まっていたリサは、再び噴水広場の方へ歩き出した。


(お父様が居ないから、お金はお姉様に聞かないとどこにあるのかわからないの。帰ったらリサは怒られるの、そしてもう二度と外に出してくれなくなるに違いないわ)


 城で行われているお披露目会に集まる人々の数は、王宮広場の広さに限界があるので、リサは一定以上の人数を直接見る事が無かった。


 ありとあらゆる通り、店、街角、アパートを借りたのか、2階、3階のベランダから通りを覗き込む人々、とにかく人が多い。


 聞こえてくる話し声に耳を傾けると、どうやらゴブリン討伐に参加した際の報酬の話題が多いようだ。


(リサはリサでお金を稼ぐもん。でも兵隊さんになって戦うのは嫌なの。リサはお花屋さんがいいと思うわ……そんな気がするの)


 街を歩いてアクエリアを感じて、リサはある場所に吸い寄せられるように向かっていた。


── リサの記憶の香り、それは薔薇の匂い。


 全てが始まった場所。スワンが噴水広場を眺めていたあのアパートが、リサの目の前に迫っていた。

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