40 拉致されたハルト
サーバーの統合によって、プレイヤーを収納する箱としてのアクエリアが小さすぎた為に、GM達はまずアクエリアの街の拡張を行った。
しかし、今度は街が大きすぎる為に人がばらけて使い勝手が悪すぎると、運営に批判が殺到した。広くなって空いている土地はたくさんあるが、建物がある街自体はそこまで大きくなくて、イベントの運営やアイテムショップ、食堂や宿屋などが、完全にパンクしてしまった。
アクエリアの街の同時最大ログイン数が、昨日の夜に8000を超えた。
本来もっと後になってからサーバーの統合を行った際に、サファイヤ、トパーズ、ルビー、それぞれのサーバーのユーザーをアクエリア以外の街にスポーンさせようという計画があったのだが、この状況を打開する為に、今からでも希望するユーザーに他の街をホームタウンとして移動してもらおうという事になった。
「それで、どうなったんですか?」
アクエリアの公文書館の関係者以外、立ち入り禁止ルームにて、大型のモニターを眺めながらサファイヤサーバーGMリュークが言った。
彼は居残り組だ。サファイヤサーバーの他の2人のGM、ハルトとミュラーは先発隊として『鉱山都市 ベルクヴェルク』に設置したスポーンゲートで街の下見に行っている。
「連絡が途切れたんだ。その途端モニターに映像が映らなくなってしまった」
「機械の故障……というかバグか何かでしょうか?」
「いやそれが、連絡が途切れる直前にヤバイものが映ってたんだ。スワンのお抱えのラヴィちゃんの件もあるし、ハルトさんとミュラーさんが無事かどうかを1回見てきてくれないか?」
モニターを監視して、先程までハルト達と連絡を取り合っていたのはルビーサーバーのGMヨシロウだ。
ヨシロウに言われて、リュークはVR装置を現実世界のリュークの手で外して、一旦会社のVRルームに意識を戻した。
「あっ、ハルトとミュラー。どうした?何で起きてるんだ? ゲームの中で連絡が取れなくて見に戻ったら、VR装置を二人共外しているし」
「ああ、すまんリューク。でもお前行かなくて良かったよ。本気で殺されるかと思った。このゲーム、ちょっと手を加えないとヤバイぞ。NPCにリミッターを掛けておかないと、独立式AIが何をしでかすか分からない気がしてきたよ」
「何があったの?」
「拉致られた、ついでに拷問も受けた」
「ミュラーも?」
ミュラーは首を押さえて 「いやっ」 と、言った。
「俺はハルトの目の前で見せしめに殺されたんだ。喉をナイフで掻き切られて……」
「えっ、誰に? 何、それっ」
「ゴブリンだ。とんでもねえ数のゴブリンが居た。ベルクヴェルクはもう終わってた。あそこは元々ドワーフ中心の街の予定だったんだ、だけど俺とハルトがスポーンゲートに飛んで姿を現した瞬間、一気に襲われた」
「ドワーフにではなくて、ゴブリンに?」
「ああ、俺、拷問に耐え切れなくてアクエリアの事を喋ってしまったんだ。目の前でミュラーが殺されてびびってしまって……あんなのNPCじゃない、ちゃんと自我を持った悪魔だ」
人工知能をより人間に近づけていくとどうなるのか?
答えは、破壊、破滅、絶滅、支配、虐殺。全て悪い響きの行動原理に行き着いてしまう。調和や友愛と言った、現実の人間社会の大半の地域において美徳とされる結末に辿り着く可能性は、ゼロに等しい。
本能を理性で抑える事によって、人間社会は均衡を保つことが出来る。しかし、本能のままに、欲望のままに生きていくのであれば、自己の正当性を保つ為に人を殺すという原理に囚われる事になる。
理性を伴わない人間は結論として滅ぼすべし。それが人類の淘汰。野放しにすればいつか全てを巻き込んで消し去ってしまう害悪。