36 シイタケ味のトリュフ
モフモフとラヴィはしばらくの間、外壁の上の遊歩道を歩きながら話をしていた。たまにすれ違う人々も、黄色い光の街灯で照らされた2人を気にすることも無く、足早に通り過ぎて行く。
外壁の上から見える街の中の様子、相変わらず大勢人々が寄り集まって、店に並び、何かを食べ、飲んで……
「ラヴィちゃんっ、聞こえるか?」
「何?」
「あそこっ、あれ、ほらっ何か食べてる連中があそこに居るだろっ」
「うんっ、でもガヤガヤしていて良く聞こえないよ」
「そうか、俺は聞こえるんだけどな。美味いって言ってんだ。凄え美味しい、味がするって。今まで味がするような気がするってレベルから、一気に味を感じるレベルが上がったって騒いでるんだ」
「それってもしかして、僕の味覚が反映されてる?」
「そうなんじゃないか? ストレイとゲートも開いているんだし、さっきの話からするとさ、ラヴィちゃん、ラヴィちゃん自身があっちのワールドって事だろ。そのワールドがここに居るんだ。そういう事じゃない?」
「モフモフさんて、凄いね。良くこんな話について来れるよね」
ラヴィがフンフン言って鼻で息を吸っている。
「ラヴィちゃん、匂ったか?」
「いや、匂わない。僕って鼻炎だからかな」
「そりゃ無いだろっ。行こうぜ、マッテオの店の厚切りステーキが待っている」
「そうだそうだっ、美味いもん食うしか楽しみが無くなったし、俺は美食家になるっ!」
「何を成すにもまずは飯を食わねばならぬ。ゲームの中で美味い物が食べられるってさ、それだけでユーザーが増える要素になるんじゃない? これってスワンが喜ぶと思うよ」
「色々アイデアが湧いて来たよ。王様になって利権でガッポガッポのつもりだったけど、もっと別のやり方もありそうだ」
「まじかっ、ラヴィちゃんの王様になるって話はもしかしてその為だったの?」
「ギクッ、ち、違うよ。僕が王様になったら、この街の市政は民に平等で公平を目指し、安定した治世を続けて行く事で民を安心させ、それが後の世代に受け継がれて行く。そんな国にしていこうかと少しは思ったりもしていたけど……」
「まあ、それも今日の飯を食えてからの話だなっ。もうすぐ街の中に降りるよ。マッテオの店は通りの真ん中辺りにあるからさ」
もうすぐと言ったモフモフうさぎの先に、大きな門が見えてきた。あの門の手前で下に降りるみたいだ。木の根っこが絡みついたレンガの階段を、軽く飛び降りながらモフモフうさぎが言った。
「ラヴィちゃん、俺トリュフが食べてみたい。あと、フォアグラとキャビアと……」
「モフモフさん、残念なお知らせが……俺、トリュフの味を知らない。ついでに言うとフォアグラとキャビアも食った事が無い。という事は、この世界でトリュフって出されてもトリュフの味はしないってわけだ。よしっ、トリュフの味はシイタケにしといてやる。間違いないっ、トリュフの味はシイタケの味……」
他の人が聞けば何を言っているのか分からない、田舎者のたわいない会話で盛り上がる2人。
しかし、これからもラヴィアンローズはトリュフの味を知る事は出来ない。それだけは確かな事だった。