34 モフモフとラヴィ
「ラヴィちゃん、大丈夫か?」
「心配ないよ、モフモフさん。日本を離れて外国に移住したって考えれば、同じようなもんだからさ。しかも言葉も通じるし、周りは日本人だらけなんだから」
アクエリアの外壁の上の遊歩道に設置されたベンチに座って、夕陽が沈み薄暗くなりかけた遠くの山を見ながら、ラヴィアンローズは答えた。
「ここがこれからの僕の故郷って事。なんとご飯を食べなくてもお腹が空かないと言う。はぁ、まだわかんねぇや、こっちで暮らすっていうのがどんな感じなのか」
「スワンは見に行ってるんだな」
「うん、多分今頃チャリで帰って来た僕と会っているぐらいだよ」
「俺も近くに住んでたら、見に行ったのにな」
「いや、いいよっ恥ずかしい。普通の男だし、イケメンでもないし。モフモフさんはどこの人?」
「俺か? う〜ん、ラヴィちゃんなら話しても良いけど、基本秘密にしてくれよな」
「うん」
「俺は九州だ」
「ほう、九州ですか……で?」
「んっ」
「で、どこ?何県?」
「いや、それはちょっと」
「え〜、仕方ないなぁ。けちっ」
「分かったよ、福岡だよ」
「学生さん?」
「おいおい、ラヴィちゃん全部言わなきゃダメなのかな?」
「……寂しくて、押しつぶされそうなんだ。もしもモフモフさんが居なくなったら、僕は、僕は、ククククッハハハハハッ、無理、無理」
「もう、なんだよ。今芝居してたの?」
「えへへへ、モフモフさん福岡じゃないでしょ」
「……ま、まあ、もしかして誰かに聞いたの?」
「なんとなくね、でも九州だねっ。僕は東北出身だよ、海の近くで育ったんだ」
「おっ、俺の実家からも海が見えるよ」
「へぇ〜、という事は実家は九州のどこかの県で、福岡の学校とかに通っている春休み中の学生さんとかじゃない?」
「ぐっ、凄え。正解、福岡の隣の県だよ。それでいいか?」
「いいよっ、ありがとう。安心した、これでゆっくり眠れる」
ベンチから足を前に投げ出して、背もたれに頭をのせて空を見上げるラヴィアンローズ。その姿を見てモフモフうさぎも空を見上げた。
「星が綺麗だね。東京じゃ全然見えなかったけど」
(ラヴィちゃんが女の子だったら、俺抱きしめてるな)
モフモフうさぎも、ラヴィアンローズと同じように長い足を伸ばしてみた。
「これからどうするん?」
「俺って死んだらリスポーン出来るのかな?」
(俺が守るっ、なんて言った方が良いのかな?)
「だよなっ、俺は大丈夫なんだけど。何回か死んだけど、ちゃんと一応リスポーンは出来てるし、ログアウトも出来た。あっ、でも確か1回気絶してたような……」
「あははは、あぶねぇ。もしかしてモフモフさんもヤバかったんじゃないの?」
「だよなぁ、ゲームの中の体と本物の体の感覚がシンクロし過ぎていてヤバイって思っていたもん」
「そう言えばそんな事を言ってたよね、モフモフさん。スワンには話をしておくよ、僕達はさ、モーション、つまり体術のスキルがマスタークラスになっていたんだ。この設定をやったのがスワン、ロビーちゃんも僕達と同じだから言っておかないとね、まだ会ってないけど」
「な、何だそれ? モーションて」
ラヴィアンローズが立ち上がると、バク転をしてみせた。
「おー」
「ねっ、こんな事が出来ちゃう。やり過ぎなんだよ、だからこちらの設定が本体の方に影響を与えたって事。本当はバク転なんて出来ないのにね」
モフモフうさぎもバク転をしてみせた。2回後方宙返り、ラヴィよりも凄い。
「俺はこんな感じ……もしかして俺もラヴィちゃんみたいになる可能性あるのかな?」
「あるっ! けど、無いっ」
「どうして?」
「知りたい?」
「もちろん知りたい」