30 ロビーの公開処刑
「ロビーはあんなに強いのに、現実っていう何かに負けてしまったのね」
(あれっ、僕、何を吐露させられているんだろう? 本当の僕はBLが大好きな正真正銘の女の子なんですけど。LGBTみたいなデリケートな話を持ってくるぐらいなら、いっそBLのロビーって呼ばれた方がマシだわ)
「TGのロビー、父上に言っ・・」
「TG言うなっ、それを言うぐらいならBLのロビーって呼べよ」
(あっ、つい口が滑った!)
「BL? BLって何? ねえ、ロビーさん、BLってどう言う意味なの、リサ全然分からないの。お姉様みたいに外の事をリサは知らないから、BLがなんだか分からないのよ。ねっ、ロビー、早く教えて、リサは知りたいの。とっても知りたくなったの」
スピーカーからリサの声が流れてくる。いつものお披露目会よりもリサが話す声が沢山流れて来て、それが皆を満足させていた。
お付きの従者がステージの下で順番を待つプレイヤーに向かって、座って待つように合図を送る。しかしロビーとロゼッタ、そしてリサの様子が気になるのか座る気配は無かった。
「ねぇ、ロビー、ちゃんとお話ししてくれないとリサ帰してあげないの。とにかくBLの謎が解けない限りリサは次に進めないんだから……」
「わ、わかった、わかったよ。ちゃんと説明する」
だんだん声が大きくなって来ているリサを抑えるように、ロビーが眉をひそめて言った。
「TGで良いのに……」
「まだ言うかっ! あのなっ、BL、BL、B、L、L・・」
「リサっ、ロゼッタは謎が解けたわ」
「えっ、姉様ずるいっ。リサは相変わらず謎が謎のままなのに、姉様だけ分かるなんて……」
「今、ロビーがヒントを漏らしたのよ。ロビーはBLの次にもう一度 " L" を加えたわ。ちゃんと聞いていた私はそこで、ピンッと閃いたの、聞きたい?」
(あの……僕はまだ閃いてもいないんですけど)
ロビーをそっちのけに、姉妹で謎解きを始めたロゼッタとリサ。どうでもいい話をただ聞かされている観客席の人々、刻々と時間だけが過ぎて行くステージの下の面接待ちのプレイヤー達……
「ゴクリッ」
誰もが固唾を飲んでロゼッタの言葉を待っている。
「正解は、ロビー、あなたのサイズよっ!」
「はいっ」
(あっ、間違って返事をしちゃったし。サイズって何よ)
ロゼッタが身を乗り出して、さらに小さな声で話し出した。
スピーカーの担当者が音量を上げる……普段尖った口調のロゼッタが普通に話しているのを聞いて、隠れロゼッタファンが胸をときめかしている。
「デリケートな部分だから、余り大きな声で言えないけれど、リサ、BLLはね、ロビーのスリーサイズなのよ。いいっ、胸はBカップ、ウエストはラージ、ヒップもラージ。これ以上は言えないわ、ごめんなさいねロビー、気がつかなくて……」
ロビーの息が荒い。 "はぁはぁ" 言ってそれが収まる様子も無かった。
「ご、ごめんねロビー。女の子だから可愛いドレスをさっき助けてくれたお礼に差し上げようと思ったのに、リサの持っているドレスはサイズがどれも合わない訳なの。残念なの。ロビーはきっと似合うって思っていたのに……」
(いや、それ現実の方だから……じゃないっ、現実もBLLなんかじゃないっ、はうっ。くびれだってあるんだから……)
「BLL! BLL! BLL! BLL! 」
左の観客席から声が上がり、お祭り好きな彼らは一気に声を合わせて盛り上がる。それを聞いた右側の観客席も負けてなるものかと、BLLの連呼が始まった。
「違う……」
力を振り絞って否定の言葉を言ったロビー。しかしそれ以上の言葉が続かない……
「どうしてっ、ねぇ、どうしてなの? 何でみんながロビーのスリーサイズを知っているの? ねぇ、謎よっ、リサはこの謎を解かないといけない気がするのっ」
リサがステージの中央に躍り出て空に向かって言った。
(だめだこりゃ、あたしゃこいつらの父親だって言う "初代アラネア公爵 スワン" つまり、GMスワンに会えるかと思って来ただけなのに、居やしない。挙句に公開処刑を喰らうなんて……あぁ、なんて僕は不幸な星の下に生まれたんだろう。星の名前はアンタレス、そう、僕はアンタレスに生まれたちっぽけな男さ。シクシク……)
「BLLのロビー、先程のお礼を改めてするわ。従者に案内させるから後ろで待っていて。こんなにうるさかったら話もまともに出来ないしねっ」
(犯人はお前だっ)
何故か目を拭って係の者に案内されて行くロビー。
熱い涙は堰を切ったように流れて、それを笑いながら見ていたラーズも思わず目頭を押さえた。
ロゼッタがステージの前方に出て来て、両手でスカートの裾を摘んで優雅にお辞儀をしてみせた。その瞬間一気にBLLコールが静まる。観客席は、今度はロゼッタの胸元に釘付けのようだ。
「聞いての通りよ、また誰かに剣を振り回されると皆様の時間を余計にとらせてしまうわ。だから今度から武器は預からせてもらう事にします。もう既にだいぶ時間が過ぎてしまったみたいだし、休憩にしましょう。始まりは30分後よ、それまで皆様は左右に広がる庭園でゆっくりお寛ぎくださいませ」
そう言ってロゼッタはリサの手を引いて城への階段に向かって行った。ロビーも皆から見えないように警備の者に囲まれて、彼ら専用の通用口から城内に入って行くのであった。