29 僕は女に興味がないっ
「白刃のロビー、あなたはリサと姉様のどちらの騎士になりたいの?」
ロビーは首を横に振った。
「僕はあなた方お二人の騎士になるつもりはありません。僕がこの身を捧げるのは王子のみっ……ふっ、どうか若造の戯言と思って聞き流してください」
(完璧な返答……これでここに王子が登場すれば、もう最高なんだけどな)
「あの、あ、あのね、リサ、あなたが何を言っているのか分からなかったの。だから白刃のロビーさん、取り敢えずもう1回言って」
「断る。男に二言はない」
(その使い方は間違っている……)
と、つっこみを入れたかったステージの下のラーズ。
「姉様、リサは振られたの?」
今まで黙っていたロゼッタが椅子に座りながら従者を呼んだ。
「リサ、この話は深い問題を抱えているのよ。見てごらんなさい、ロビーは美しいエルフ、彼女の話す声は変成器を通していない元々の女の子の声」
「うん、可愛い声をしているの。だからリサも少し変な気がしていたの。どうして、ロビーは女の子なのに男の子の話し方をするんだろうって……それは確かに深い問題と言えるの」
「ちょっと待ったー」
慌ててロビーが2人の姫に近寄る。従者が間に入ろうとするが、ロゼッタがそれを許した。
まじまじと近寄って見つめ合う3人。
「すまぬ、気遣いが足りなかった」
ロゼッタが口を開いた。
「確かに僕の外見は女だけど、心は男なんだ。だから声の事とか言わないでよ。なんでエフェクトを掛けていないって判ったんだよ」
ロビーはロゼッタとリサにだけ聞こえるように小さな声で言った。
「エフェクトを通した声は特徴があるから全て分かる。貴殿の声はまるっきりそのままではないか、その声を聞けば、貴殿を男と思う方が少ないと思うが……」
ロゼッタもロビーに気を遣って小さな声で返事をした。しかし、高性能集音器が観客席のスピーカーに音を増幅して流してしまう。
「ロビーってもしかして女の男なのか? おいっ、ネカマのラヴィちゃんっていたよな。白刃のロビーって初日にあいつと一緒に居たぜ。俺は南門の所であいつらを見たし」
観客席での1人の会話はあっという間に広がっていった。
「ネカマの次はオナベか? 類は友を呼ぶって言うけど凄え組み合わせだよな……ガヤガヤ」
観客席がざわつくのを尻目にロゼッタとロビー、そしてリサは公然のヒソヒソ話をステージの上で始めた。
「リサ、私も最近知った事だけど、外の世界では "LGBT" という社会問題が起きているの」
「「JGBT?」」
リサとロビーが同時に声に出した。
「父上にお願いして私は外の世界の情報を沢山見せてもらっている。その中にあったわ……ロビー、あなたはLGBTのT、トランスジェンダー、つまり体は女、頭脳は男、女の子よりも男の人が好きだからGもあるのね。TGのロビー、ただのロビーじゃなくて、そう呼ばせて貰うわ」
「絶対に断るっ」
頰を膨らませて断固拒否したロビーを見て
「可愛いエルフさん、ねえ、ロビー、あなたはなぜエルフの男の人の姿を選ばなかったの? リサは不思議に思うの、男の子になれたのにどうしてロビーは女の子のままなの? ねえ、ねえ」
(くっ、痛いとこを突いてくる。それは確かにキャラメイクの時に悩んだ事なんだ。でも万が一、王子さまとゲームの中で会う事があった時に、やっぱり男よりも女の姿の方が近寄れる確率が高いかもなんて悩んでしまって……結局、僕は自分に負けてしまったんだ)
「現実に負けてしまって……」