28 抜刀禁止
「何だよっ、やるならさっさとやれよっ、ダサ坊がっ」
ステージの下に並ぶプレイヤーの中から声がした。言ったのはロビー。ロビーは生理的に陸みたいな奴が大嫌いだった。
誰かが止めに入ると思っていたのに、引くに引けない状況に追い込まれた陸に、ロゼッタが言った。
「剣を抜く、それは命のやり取りをするという事。それだけの覚悟も無しに口先だけで生きるのならば、ここで引導を渡してやるのがお前の為であるな。さぁっ剣を抜けっ。抜かねばお前の名前は今日からダサ坊じゃ」
「うう、うわぁ〜」
自分でも訳の分からなくなった陸が、情けない声を出して剣を抜いた。
「馬鹿だね、あいつ。最っ低」
ロビーが嫌そうに呟いた。それを聞いたラーズが人差し指を口の前に立てて、シーっと言った。並んでいる人の中に陸と同じギルドのメンバーが居ると、後で面倒くさい事になるからだ。
「ふんっ」
ロビーが腕組みをして鼻を鳴らした。ステージの上では、屁っ放り腰のアルカディアの陸が剣をロゼッタに向けたまま、固まっている。
「あっ」
ラーズが声を洩らした。並んだ列から離れてあっという間にステージの下にまで行ってしまったロビー、ついさっきまで目の前に居たはずなのに、気配を殺してしかも速さは尋常では無い。
ステージに勢いのまま飛び上がったロビーが、陸の首筋に手刀を落とした。
ガランッガラン、ドサッ
何が起きたかを気づく事もなく、陸はその場に倒れ込んだ。
「係の人、こいつ抜刀禁止のルール破りだ。さっさと懲罰房に叩き込めっ。邪魔だ、時間かけやがって」
「ウオォォォォォ」
どよめきが会場の左右の観客席から聞こえて来た。
観客席で見ている人々は、全員がスクリーンショットを撮るモードを使ってロゼッタとリサ、そして今はロビーを間近で観ている。
なぜそれが可能かと言うと、βテスト初日にユーザーの1人から上がった要望に "スクリーンショットにフォーカス機能を付けろ" と言うものがあって、それが実装されたので、遠くからでもズームアップして見る事が出来るようになっていたからだ。
── 実はリサの姿しか見ていない者が多かったのだが。
ロビーの声に、バタバタとステージにお披露目会の係りの人が集まって来て、倒れたアルカディアの陸を運んで行った。
「姉様、姉様、リサ見てたの。汚らわしい中身の汚れた情けないアルカディアの陸って言う害虫が、倒されたの、そこのエルフさんに見事に倒されたの。だから姉様とリサはそこのエルフさんの名前が知りたくなったの、リサは知りたいの。だから聞いても良い?」
椅子に座ったロゼッタの隣にリサが来て、小さな声でロゼッタに話しかけた。
スピーカーで拡大された声はしっかり聴衆にも聞こえて、皆が固唾を飲んで次の展開を待っている。
「あなたのお名前は?」
ロゼッタの返事を待たずにリサが聞いた。
「名乗る程の者ではありません」
そう言って踵を返そうとするロビー。
「どうせ列に並んでいたのであろう、先程下から声をあげたのも貴殿ではないのか?」
ロゼッタが立ち上がった。リサがロゼッタの右手に組みつく。
「僕の名前は "白刃のロビー" どこのギルドにも所属していない、ただのロビーです」
「ふーん、ただのロビー。私にはそうは見えなかったけれどな」
「リサは見ていたの、あの列の向こうからピューって走って来て、ストンってステージに飛び乗ってあっと言う間に倒しちゃった。見事なの、白刃のロビーは強いの、リサ、なんだか興味があるの……」
「ええぇぇぇぇぇ」
リサの声を否定したい声が観客席から鳴り響く。
「白刃のロビー、あなたはリサと姉様のどちらの騎士になりたいの?」