27 アルカディアの陸
着々と順番が近づいて来る。外門から入る時に番号札を受け取るはずだったのに、ボーっとしていたロビーはそのまま通り過ぎてしまっていた。周りの人が番号順に並んで行っている時になって、その事に気がついてオロオロしたところで、ラーズがロビーの分の番号札を渡してくれた。
「貸しだぞ、これ。本当に札を受け取らないで入って行ったからなぁ」
「ぐはぁ、かたじけない。僕の分までちゃんと番号札を貰ってくれていたなんて。なんていい人なんだ、ラーズ。僕は君の事を勘違いしていたよ」
「へ〜、どんな風に勘違いしていたか知りたいな」
「間男、ストーカー、耳がすごく良い思春期の少年、大人の世界に憧れるウブな男の子、人の恋路を邪魔する余計な存在……」
「ほほう、痛い目に遭いたいらしいな、ロビー」
「しー、ほらっ始まったよ。1番の人が行った」
(あっ、まただ。この話の切り方って間違いなく女だよな)
しょうがないなっと肩を上げて見せて、ラーズもステージに目をやった。本日の第1番の人は、何やら懐から出して、お付きの従者に渡している様子だ。
お付きの従者がそれを持ってロゼッタ姫の元へ近寄る。会場はガヤガヤしていたが、ロゼッタが何かを手に立ち上がるとシーンと静まり返った。
「龍の目を持って来たのはそなたか? そこのエルフ」
「はいっ、私はアクエリアのギルド、 "アルカディア" に所属している "陸" と申します。本日は霧の谷ストレイより持ち帰った、子竜の欠片、形と模様はまるで目玉のような宝玉をロゼッタ姫に献上致します。これを持って姫の騎士となる事は叶わないでしょうか?」
「その竜はとても強かったのね?」
ギルド アルカディアの陸は、この子竜の欠片を霧の谷ストレイで拾っただけである。倒したのはモフモフうさぎであって、彼はモンスタートレインが終わった後に、ラヴィが再生した森にお宝を探しに行った人々の中の1人だった。
「は、はい、強かったです」
「陸、あなたはその竜よりももっと強いのね」
ロゼッタが椅子に座りなおして言った。右と左の観客席にはスピーカーが設置されていて、ステージでの会話はしっかり聞こえるようになっている。
スピーカーに照明、世界観にそぐわないという意見は実は少数派で、積極的に現代の仕様を世界に反映しても、その便利さ故に誰も文句が無いという事象の1つがこのスピーカーと、夜に城を照らす照明であった。
「返事っ陸。別にあなたが倒さねばならなかったとは言っている訳ではないの。ただロゼッタは、陸が強いか知りたいだけ……」
それを聞いた陸の顔に、自信がみなぎる。
「私は命がけで霧の谷ストレイに挑み、幾多の困難を乗り越えた結果、この子竜の欠片を手に入れる事が出来ました。まるで竜の目玉の様な形と模様は、まさしくロゼッタ姫の所望される竜の目玉。手に入れるべくして手に入れた私は、そう確信して今日この場に馳せ参じた次第であります」
「そう……ご苦労様、陸。ロゼッタはお前の高い自己評価の押し付けは金を積まれても欲しくないし、なぜかこの塊をドブに捨てたい気分になって来たわ。自分では気がついていないんでしょうけれど、陸のめでたい頭は腐りかけているわ、あっ、寧ろ1度腐りきれば、今よりはマシになるかもしれないわね」
強いかどうかを聞いたロゼッタが、ちゃんと返答出来ない陸に、もう終わりとばかりに子竜の欠片を放り投げた。
どうやらプライドの高い陸は、ロゼッタのその態度にキレた様で腰の剣に手をやった。
「自らを御せぬ男など下の下。このまま帰れば良いわ、お前はリサと話す資格すら無い……それともこの衆目に晒された場でその剣を抜くだけの度胸がお前にあるとでもいうの?」
腰の剣に手を添えた陸を見て、ロゼッタがからかうように言った。
このまま引き退るのは、ギルド アルカディアの中での自分の評価が下がる。そう考えた陸は、剣を抜くポーズをしただけ。
(誰かが止めに入るはずだ、そうしたら渋々引き退るフリをしよう)
ステージの下からプレイヤーの誰かが "止めろ" と叫ぶのを、ロゼッタのお付きの従者が駆け寄って止めに入るのを期待して剣に手を置いたまま、陸が動きを止める。
「何だよっ、やるならさっさとやれよっ、ダサ坊がっ」