23 ラヴィとうさぎ
立ち上がった讃岐ドンが、感動した目でラヴィアンローズを見た。
「その顔って、どうしたんですか?」
「えっ、あはは。気にしないで、飛び散った樹液とかモンスターの血とか付いちゃったかな」
ラヴィアンローズが森の方を振り返って言った。
「ここに来る途中に沢山のアイテムが落ちていたよ。みんなを、草木や森を復活しながら途中途中で集めておいたから、今から取りに行ったらいいよ。宝の山が多分30ヶ所はあると思う。全くこんなゲームは見たことがないよ」
「いいのか? 行っても」
ダッジがモフモフうさぎと、ラヴィアンローズに聞いた。他の皆も返事を待っている。
「勿論だよ、頑張った報酬だよね。お宝万歳! 取り残しもあるかもしれないけど、モンスターも今は居ないから探し易いはずだ」
そういう事ならと、現金な冒険者は我先にと森の方へ駆け出して行った。気がつけばハンマーボキッの死体が消えている。
「ダッジは行かないのか?」
「沢山あるんだろう、お礼もちゃんと言わないで行くなんて出来ないぜ。助けてくれてありがとう、モフモフさん。それからあんた凄いぜ、ラヴィちゃん・・て、呼んでいいかな? その顔の薔薇のタトゥー、凄えイカしてるぜ、惚れちまいそうだよ。まっ、モフモフさんが相手なら諦めるけどな。ありがとなっ。また街で会おう」
(そもそも、モフモフさんもラヴィちゃんも俺と同じプレイヤーの1人のはずだ。なんでこの2人は特別な力を使えるんだろう?)
ダッジは、モフモフうさぎとラヴィアンローズと握手をした後、森に駆け出して行った。フレンド登録が自動で行われたようだ。
ダッジを見送った後、残った2人。
「先に行った奴もダッジと同じ事を思っただろうね」
ダッジが去り際に言った、『あんたら特別だろっ』という言葉を聞いて、ラヴィが言った。
「そうだよな、ただ俺の場合はこいつのせいだって理由もはっきりしてるけど、ラヴィちゃんの方は難しいな。どうやってその力を手に入れたのかって聞かれても、説明に困るよ」
モフモフうさぎが左手のガントレットを触りながら言った。
「まぁ、他の奴はダッジと違って速攻、アイテム拾いに行ったけどな」
モフモフうさぎがそう言って笑うので、つられてラヴィも笑う。
「ところでさ、ラヴィちゃんその顔どうした?」
「俺の顔? 何か変なのか? さっきの人も何か言っていたけど」
「あぁ、ラヴィちゃんの右肩から右の頬まで鮮やかな赤い薔薇のタトゥーが入ってるんだ」
「えっ……顔にタトゥー? しかも薔薇?」
右の頬と言われて触ってみるラヴィアンローズ、しかし触ってみても感触があるわけでも無く、何か鏡の代わりになる物を探してみても、周りにあるのは森となった木々や草花の集まりだけだった。
「俺がぶっ壊した森を元に戻したのは、リサの力なんだろう? 姿が見えた時に解けていったのはリサの糸みたいだし。なぁ、大丈夫なのかラヴィちゃん。俺達はリサが消えてしまったのを知っている。だけどラヴィちゃんが見つからなくて、消えてからもう何日も経っているのにログアウトもされていないし心配してたんだ」
「そっか、もう何日も経つんんだね。心配してくれてありがとう。でもログアウトはもうしているはずだよ。それについては話をしないといけないんだ。モフモフさん、スワンと話をしたいんだけど何処に居るかわかる?」
「うん、分かるよ。俺もスワンに頼まれてラヴィちゃんを捜していたんだ。ラヴィちゃんがもしかしたらハマったんじゃないかってスワンに言われてさ。でも少し安心したよ、今までどうしてたんだ? VRギアをログインしたま、頭から外して放置でもしてたのか? スワンがさ、ラヴィちゃんの認識コードが消えてしまったって騒ぐもんだから、本当に心配したんだぜ」
モフモフうさぎが、ラヴィの肩を叩いた。
「良かった、死んだかとちょっと思ったぞ。洒落でも言うまいと思ってたけど、本人の前だから良いよな」
「ありがとう、モフモフさん」
明るく返事をしたラヴィアンローズの顔が、言葉とは裏腹の翳を見せていた事が、モフモフうさぎの心に何か少しだけ引っかかりを残した。