16 緊急依頼
その頃、アクエリアの公文書館にあるGMの管理室は慌ただしくGM達が動いていた。
「スワンっ、さっき帰って来いって指示を出した奴がモンスタートレインを起こしている。どんどん規模が大きくなっているぞ」
ハンマーボキッが映るモニターを監視していたハルトが叫んだ。それぞれが持ち場のモニターの前で異変に気付く。
「こっちに居たタミメータが一斉に走り出したの。多分そっちに向かってる」
天井のスピーカーからソフィーの声がした。
「おいおい煽りを喰らって、こっちのプレイヤー達がやられたぞ。固まって居たグループが全滅した」
ピクシーが見ているモニター画面は、ゲートから直線距離で約2キロ程の場所にある開けた草原、奥に探索に出掛けた冒険者達の集合するのには最適な場所だった。ハンマーボキッは、見事にこの場所を突っ切って行ったのだ。
「どうするっ、スワン? このハンマーボキッ、やられそうになると他のプレイヤーにモンスターを擦りつけて、上手いこと生き残って来ている。これでいいのか?」
ピクシーからそう言われて、頭を抱え込むスワン。
(どうして人が絡むと上手くいかないんだ? ここに帰って来て何があったか報告してもらう、ただそれだけじゃないか……)
「誰だこれっ? スワンっ見ろ、もの凄い武器を持った奴がいるぞ。うわっ、なんじゃこりゃぁ、こいつメチャクチャ強いじゃんか。チーターじゃ無いのか?」
そう言ったミュラーが監視しているのは、ゲートから谷底の台地に向かって左側の崖に近い一帯だった。
スワンがミュラーのモニターを見に行くと、そこに映っていたのは鱗粉が舞い散る様な金色のオーラをその剣に纏う双剣のダークエルフ。画面の中央に映る彼に駆け寄る1人の男も映り込んでいた。
彼の周りにはモンスターの残骸、切り刻まれた周辺にあったであろう諸々の草木、岩、その他モンスターからドロップしたであろう武器や防具、宝石などが転がっていた。
「スワン、セキュリティに抜けがあったのかな? VR系のオンラインに入り込むような、馬鹿な事をする輩が居るとは思わなかったけど」
「名前を出してくれますか? プレイヤーならビーコンを付けていますよね」
(モフモフか? というかモフモフうさぎも探索に行ってくれてたんだった。なんとかなるかもしれない)
「おっ、ちゃんとビーコンが付いてる。この人普通にプレイヤーじゃないか。なんでこんな武器を持っているんだ? こんな武器ってあったっけ? えっと……」
ぞろぞろとミュラーのモニターを見に来る他のGM達。皆、モフモフうさぎが装備しているユニーク武器、ライジングサンの双剣の姿にガヤガヤ言い始めた。
「すいません、ミュラー、そのユーザーの名前はモフモフうさぎでしょう? 間違いないですから、ビーコンとこっちを繋いでくれませんか? 急ぎで」
「知っているのか? 知り合い? ……あぁ、確かに名前は "モフモフうさぎ" だ。また色々秘密な事をやってんだな……後でちゃんと説明しろよっ。ほらっ、繋いだ。強制通信だ、自分で話せよっ」
ミュラーが席をスワンに譲って後ろに立った。他のGMも何か言いたげだったが今は黙ってくれている。
「こちらスワン、聞こえるか? モフモフうさぎ」
「なんだなんだ、また何か変な事を俺にしたのか? お前と直接話せるなんて……このフィールドってそっちとアクセス出来なかった筈じゃないか。つーかどっかその辺に居るのか?」




