14 降って湧いた災厄
皆が感じ取っていた。
「何か音がしないか?」
ガルフが言った。ガルフがそう言った後に、メンバー全員が動きを止めて耳を澄ました。注意して聞くと確かに山鳴りの様な音が聞こえて来る。
「近くなっていない? この音って」
「確実に近づいて来ている」
エルフの巴御前に、同じくエルフのロイ・クラウンが返事をする。
「地面も揺れている、尋常じゃないぞ」
地面に槍の柄を立てて、揺れの方向を確かめようとしているのはダークエルフのスタンガン。
「ガルフはヒューマンなのによく分かったね」
「勘?」
「危険察知能力と言って欲しいな」
ナイトパンサーの隣に立って、同じ方向を見ながら呟く様に言ったガルフ。
「俺は何も感じないけど……」
自分もなんとなく異変を感じている風に、遠くを見ているのはヒューマンのAZニャ。同じヒューマンではありながら、ガルフやナイトパンサーの様に音や振動、周りの雰囲気という物に対しての感度が劣っているのは間違いなさそうだ。
「AZニャは、常日頃から耳と目を鍛えないとな。スキル値みたいにはっきり判る指標は無いけれど、実感として何もしていないのとではまるっきり違って来るぞ」
ギルド 【夜の豹】のギルドマスターのナイトパンサーが、小さな声で言った。
「ガル、今なら戦闘の合間だし直ぐに動ける。どうする? 俺は退いた方が良いと思う」
「ゲートまで戻るか? 退くなら今だ、こっちに向かって来るスピードが早い。寧ろさっさと引こう、嫌な予感しかしなくなって来た」
「決めたの? 団長とガルフ、エルフの私の耳には凄い音が聴こえているよ。木とかを薙ぎ倒しているみたいだし、この音って脚が何本もあるモンスターか、複数のモンスターの群れ、どちらかよ。1匹だとしたら巨大モンスター決定ね。あー怖ろしや、怖ろしや」
軽く言いながら、弓と矢を背に納めて、走る準備を済ましてしまっている巴御前がゲートのある方向を向いて言った。
「えっ、準備早っ!」
「AZニャ、エルフは足も速いのよ。ヒューマンの君よりもかなりねっ。逃げるなら先に行かないと、途中で置いてっちゃうぞぉ」
可愛らしくAZニャをイジる巴御前に、ナイトパンサーが荷物をまとめて来て言った。
「俺もガルフもヒューマンだ。100数えたらスタートなっ、巴にはハンデをつけよう」
「えーひどいっ。こんな幼気な乙女にそんな仕打ちをするなんて……」
そう言いながら1番ゲートに近い方へさりげなく移動している巴御前。
それを見て、笑いながらパーティメンバー全員にナイトパンサーは指示を出した。
「ゲートまで全速で撤退。更に危険が迫っていた場合は、ゲートを使ってアクエリアまで戻る。ゲートからこの音の原因が見えた瞬間に、移動しろっ。もしもそうなってアクエリアに戻ったら、全員噴水の前で待機。まずは、走るぞ」
「団長、急げっ。話している時間が勿体無い、間に合わないかもしれないっ」
走り出したロイ・クラウンが焦った様子で言った。彼はこのパーティで常に索敵を担当して来た。元々耳の良いエルフであり、その中でも戦闘においてモンスターをパーティに引いて来るのも彼の役目だったので、1番耳を鍛えられているのも彼だったのだ。