12 見捨てられた"あいつ"
グアナコの目、茶色い渦が固まったようなガラスのように透明感のある丸い石。男はそれを拾うと、踵を返して走り去って行った。
(よしっ、俺もあいつに付いて行こう。そうすれば街に行けるはずだ)
そう思った俺が男の後を追おうとすると、再び頭の中に声が聞こえてきた。
(ローズ、至る所にモンスターにやられた人が居るよ)
(こっちに居る)
(ここにも居るよ)
(すぐ近くに、2人居るよ。あっ、消えた)
消えたのは死んだって事で、そいつらはリスポーンゲートに自動的に飛んでいくから心配は無い。
ギリギリ生きている人たちを助けていく? どうしようか悩みながら走っていると、またしても倒れている人を発見した。まだ生きているからアナヴィオスイの魔法を使って復活させてあげる事にする。
そうやって倒れている人を見つけると、助けてあげてを繰り返しながら進んで行くと、どうやら皆んなは俺が飛び降りた場所の方向へ帰って行く事が分かって来た。
かれこれ5、6人助けた所でサイみたいなモンスターの群れと遭遇した。タミメータって言う名前のモンスターで、1匹1匹がデカイ。近くの木の上に糸を伸ばして登ってやり過ごすと、また1人誰かが倒れていた。
"ハンマーボキッ"
(……俺、こいつの名前知ってる。アンタレスの初日に文字チャットで俺の事を性騎士とか言ってた、あいつだ)
ハンマーボキッは、タミメータに跳ね飛ばされたのか、無残な姿を晒している。
「自業自得だなっ、お前はそこでくたばれっ」
(そんな事を言わないのっ、その人は可哀想だっのよ。私達の蔓に足を引っ掛けて転んで、持っていた剣を飛ばしてしまって、その先に居たモンスターに剣が刺さって、タミメータに気づかれてしまった。一緒に居た他の皆んなは急いで逃げたんだけど、慌てた彼は蔦に絡まってタミメータの餌食になったの。彼の最期の言葉は、"俺を置いて行くなー" だったわ。結局、誰も戻って来なかった。タミメータも角で弄んだら飽いたのか、彼を放り投げて何処かへ行ってしまった。死ぬ程のダメージは受けていないけれど、動けないみたい)
確かによく見ると、ハンマーボキッは生きている。
(そっか、あいつもログアウト出来ないんだ。面倒臭い設定だよな。帰還スクロールでもあれば帰れるのに、このワールドじゃ死ななきゃ帰れない……いやっ、こいつらが来る方法が出来たんだ、そこから帰れる、そうだった、そのつもりでこっちに来ていたんだ。なんか忘れてたよ)
「しゃーない、お前も生き返れっ」
木の上からアナヴィオスイの呪文を唱える。距離はあったけれど、ちゃんとピンポイントで魔法陣が出現してくれて、ハンマーボキッは復活したみたいだ。
他の人と同じ様に、キョロキョロした後にダッシュで走り去るハンマーボキッの野郎。
「お礼ぐらい言って行けっつーの」
奴を追いかけながら、愚痴る俺であった。