8 愛らしい使い魔
俺はマンドラゴラに、自分を確かめてくると言って、別にあてはないままに、ロゼッタの館の方向へ歩いている。どうにかしてスワンと話をしなくてはならない。
(……今の俺が、何なのか? 元の俺が無事なのか?)
色々話がある。
雨が降り止んで、今は雲も無くなって陽が差してきた。かなり遠くまでマンドラゴラに連れて来られていたみたいだ。
今居る場所から遥か彼方の崖の上の方に、小さな白い点が見える、あれが多分ロゼッタの館。
(高っ! あんな所から落ちたのか……)
俺が上の方ばかり見て歩いていると、
(ローズ、気をつけて)
誰かの声が頭に直接聞こえた。俺は歩くのをやめて、姿勢を低くする。
「ズズッ、ズズッ、ズズッ……」
何かを引きずる音が、目の前の木々の向こう側から聞こえる。1度その音が止まった後、またこちらに向かって来る音が始まった。道は左手、俺は茂みのある右手から回り込んで音の主を確認しようと思った。
緑の茂みがスッと音もなく開いて、俺が通れる道を作っていく。
(えっ、どうして?)
(ローズ、こっち。ローズの力で私達は動けるの、あの変な奴をやっつけて欲しい。でもローズに怪我をして欲しくない……)
俺に話しかけているのは、たぶん今、左右に分かれた名も知らぬ細長い緑の葉が生い茂る草だと思う。
草達が身を避けて作った道を、そっと歩いていくと音を立てている奴の正体が分かった。体の中身、というか骨が透けて見えるほぼ透明な人っぽい奴が、馬鹿デカイ戦闘斧を引きずって木々の向こう側へ行こうとしていた。
(アンデットか? 骨だけになりきれていない……いや、まだボンヤリと濁って見える体が、そのうち透明になってしまうのかもしれない)
アンデット系に対して、俺は恐らく相性が良いと思う。回復系の聖騎士、真逆の属性だからな。
(魔法、魔法、おっ、相変わらず目の前に薄っすらとドラムロールが出現したぞ。回復系は……あっ、ドラムロールの色がオレンジ色に変わった。んんっ、回復系の魔法って……何種類あるんだっ! なんで覚えているのか知らないけれど、無茶苦茶あるじゃん。まいっか、ぐるっと回して……ストップ。1番最後が "アナヴィオスィ" か。これは確か復活魔法だったよな、使うとMPが1になるんだ……モフモフさんに使った時は、そもそもMPの総量が小さかったから、すぐにMPが満タン状態まで回復してたけど、MPが高くなったらおいそれとは使えない魔法だな……満タン状態じゃないと使えなくて、使うとMP1になるなんて。じゃなくて、今探してるのはあのアンデットに丁度良さそうな回復魔法だったんだ。えー、ドラムロールをグルグル、グルグル、おぉっ、蓮香石化。変な魔法の名前発見!よしっこれに決めたっ!)
⌘ 花開く時に君に会わん。来たれ光の友よ ⌘
俺の目の前の空間に縦に魔法陣が現れた。その魔法陣から姿を現して来るのは黄色い体、爪先と尻尾の先が白、クリッとした目のシェパードぐらいの大きさの狐っぽい使い魔 "ヒカキューン" だった。
「キューン」
「キューンって! 凄い可愛いっ! 超可愛い!」
「キューン、キューン」
フッサフサの尻尾をフリフリしながら顔をスリスリして来る愛らしい使い魔さん。
「ヒカキューン。初めまして、ラヴィアンローズです。よろしくねっ」
「キューンッ!」
頭を撫ぜると、ヒカキューンが背伸びをして来て、顔をぺロリッと舐められた。ってその向こうからアンデットのスケスケ骨野郎がこっちに向かって来ている。当然気が付くわな、キャーキャーうるさかったもん俺。
「行けー、ヒカキューン。蓮香石化だっ!」
とあるアニメの主人公みたいに、つい言ってしまう俺。
(まじ最高!!)
ヒカキューンが、戦闘斧を持ち上げて向かって来ようとしているスケスケ骨野郎に超速で飛びかかった。ジグザグに方向を変えながら、光の跡が空間に残る。はっきりと姿が見えない程に、ヒカキューンの動きは速かった。
「キューン」
「えっ」
俺の腰辺りに、頬ずりするヒカキューンが居る。スケスケ骨野郎を見ると、体じゅうに金色の長い針が刺さっている、長さが60センチぐらいある細長い針。
「凄く痛そうですね……」