7 監視ルーム
関係者以外立ち入り禁止の扉を開けて、中に入るとそこには外の世界、つまりアンタレスのアクエリアの街の世界観からかけ離れた光景が広がっていた。
入り口だけを繋いだ巨大なPCルームと呼べば良いか……小部屋と思われた部屋の中は、別の空間に用意された制御室となっており、10人分の椅子の前の壁に、それぞれ600インチのモニターが用意されていてリアルタイムで監視が行われていた。
「何か新しい情報はありましたか?」
「スワン、お前なんて物を用意していたんだ。余りに広すぎて、まだ入り口辺りしか見れてないよ」
スワンの問いかけに返事をしたのは、サファイアサーバーから応援に駆けつけたGMのミュラーだ。他のGMも居るが、微妙に苛立っているのか、そっちからは返事すら無い。
「すいません、独自のクエストフィールドの構築の為に用意した領域なんですが……」
「エメラルドサーバー自体の10倍以上の容量って、どんな権限があってこんな事が出来たのかが、みんなの疑問なんだけどな。まあ実際羨ましいのも半分ある」
トパーズサーバーからの応援GMのピクシーが画面から目を離さないまま、マイクを通して言った。
「モンスターからのアイテムドロップの大盤振る舞い、お祭り騒ぎ、姫さまのお披露目会? 挙句にユーザーの行方不明、最後の行方不明を除けばお前のサーバー、ちょっとズルすぎ。ユーザーの人気が上がるのも分かるわ」
「行方不明者 "ラヴィアンローズ" 。霧の谷ストレイに崖から飛び降りた所までは映像記録を引き出せた。だけど雲の中に入ってしまってロスト。それ以降の足取りが掴めなくなってしまっている、でいいわね。スワン」
一元管理されたマイクの音声で、天井のスピーカーから女の声がした。彼女はルビーサーバーから応援に来たGMソフィーだ。
「本来なら辿って行けるはずの "ラヴィアンローズ" がそこで消えた。即ちログアウトしたと判断出来る筈だった、けれどログイン中のままなんです。不味いと判断したのは、ラヴィアンローズと一緒に崖から飛び降りたのがユニークキャラクターのリサであった事と、リサが崩壊するタイミングにラヴィアンローズが居合わせた事。リサとラヴィアンローズのそれまでのコンタクトにより、2人になんらかの融合のような変化があった、そう思われるんです」
「そんな事が可能なの? このもう一個のフィールドって」
「環境変化型AIを入れただけの、常に進化するタイプのアルゴリズムであって……」
スワンの説明を遮る様に、1人のGMの声がスピーカーから流れた。
「んなこと分かってんだ。要するにダイブしたまま戻って来ないって事なんだからな。このままじゃ運が良くても廃人、悪けりゃ人が死ぬって事態が起きる、と言うかもう起きてる日数が経ってるんだ。どっかでケリをつけないといけない……って、おい又だ。モンスターに殺されかけて、あと少しで死ぬっていうプレイヤーが全復活したぞ」
きつい事を言ったサファイアサーバーのもう1人のGMハルトがモニターから振り向いた。
スワンがハルトのモニターの方へ急いで行く。他のGMも集まって、たった今全回復したばかりのプレイヤーの周辺に何か無いか、誰か居ないかと、モニター越しに探し始めた。
「やっぱりおかしいよね。私の担当しているとこでも、もしかしたらって感じの光景が何度かあったの。ラヴィアンローズって回復系の聖騎士でしょ。しかもスワンのせいで、回復系の最終魔法アナヴィオスィが使えちゃうっていうチーターだし。彼じゃないのかな、こんな事してるのって。ハルトさん、今回復したユーザーを呼んで話を聞いてみましょうよ」
ソフィーの提案に、即座に反応を見せるモニターの画面。ハルトの思考と直接繋がっているので、ハルトの頭の中で全てが動いて行く。
ユーザー名 "ハンマーボキッ"
「ビーコンに直接指示を出したよ。今すぐ戻って公文書館に来るように頼んだ」
画面に映る "ハンマーボキッ" が、キョロキョロと周りを見た後に、霧の谷ストレイに用意された帰還ゲートのある方へ走り出した。リアル感が溢れる仕様はどのユーザーにも適用されていて、体は無傷に復活しているが着ている服はズタボロで半裸の恥ずかしい姿、笑ってはいけないが、口元が緩んでいたのはスワンだけでは無かった。