6 電脳世界へようこそ
「……あなたの頭の中をコピーしてローズはそのまま私と一緒にこっちに戻って来たの。ただし、コピーした後、元のあなたの頭の中からアンタレスの事は全て消去してしまって来た。だから、オリジナルのあなたの意識はアンタレスの事を全て忘れて、あなたという本物の体に戻ったわ。VRヘッドギアも無くなれば間違ってアクセスしてくる事も無いでしょう」
「そんな事が出来るなんて、おかしいだろっ!」
「おかしくないよ、もう人間の脳の神経回路は簡単にコピー出来るようになったんだもの。あとはどうやって同化するかだけだった。きっかけはローズ、あなただっただけで、それはたまたま、けれど良い機会だった。私達は、あなたが危惧する様な気持ちは持っていないわ。だってベースがあなただもの、あなたの考え、創造力、知識、善悪の基準、諸々が私達の根底に根付いたから……人間を支配する? そんな事は絶対にしない。他に同じ様な人を作る? 絶対にあってはならない。どう? 間違ってるかしら」
「間違ってない……でも、君の話が本当かどうか確認しようが無い。そっちの方が問題だ」
「勝手に連れて来た事は怒らないの?」
「いや、俺が本当に元の体に戻ったのかを知る方が重要だ。作り話じゃないって証明出来るのか?」
「そうね……私達を作った人間に、あなたの言葉を借りると "運営"に調べてもらえば分かるはず。GMスワン、このワールドを作った張本人と知り合いでしょう。スワンにローズの名前と住所と電話番号を伝えて、調べて貰えばいいわ。写真とか撮って来てもらって見れば納得出来るでしょう? 本人が許可を出すんだから、問題無いわよね」
(本当なのか……)
「あっ、雨が止んだ」
「そうね。そうやってすぐ話をはぐらかす、それって癖? それとも現実逃避?」
「……君は俺の頭の中を見たんだろ」
「コピーしただけ、裕司と会うときに1度同化していたけれど、上手くやったわよ」
「裕司は何か言わなかったか?」
「今度の土曜日のバイトのシフトを代わって欲しいって言ってた、OKしといたから。それから、五月の連休のキャンプの場所が西丹沢に決定したって。車は慎吾が親父から借りるって言ってた。後、今から一緒に飯を食いに行こうって、山ちゃんのバイト先が決まって、それがなんとラーメン屋さんで今出勤してるからって。えっと、それから……」
「もういいよ、もういい」
「嬉しい? 嬉しく無い?」
「何がだよ?」
「こっちの世界に来た事を」
(戻れないのか? …… "どうにかなるさ"で行ってみるか? 今までもそうやって乗り越えて来たんだ)
「やってみる」
「変な答え。でもね、無意識のあなたは許した事なの、だから連れて来てあげた。ねえ、言ってみてもいい? あなたがいつも想像していた、言われてみたかったはずの言葉」
「なんだよ、それっ?」
「知りたくなった?」
「早く言えっ」
「じゃあ言うわよ、心して聞きなさいっ」
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随分と溜めた後に、マンドラゴラは声色を変えて言った。
「ようこそ、電脳世界へ!」