109 行方不明
「か、神様、じゃあこれは?」
「ガチャッガチャ」
マッテオが見た方からマネキンの白鳥が崩れ落ちる音がした。
「それは私の分身、本人がここに来たから元の人形に戻したよ。遅くなって申し訳ない、なにせ城には歩いて来なければならなかったんだ。直接プレイヤーに侵入されない様にチート対策が厳重に施されているので、任意に飛び込むことが出来ないんだ。それで街の噴水広場からここまでずっと走って来てね……走りながらの白鳥の操作は、なかなか面倒で大変だったよ」
「わざわざ人形を使ったのはどうしてだ? お前自身が来ればこんなに面倒な事をしなくても良かっただろうに」
「俺もそう思う」
マッテオがスワンをジロジロ見ながら言った。神様と言われても、見た目はその辺に居る街のオッサン……お兄さんの姿だ。
「いや、無理だったんだ。もし私があの場に行ったとしたら、穴に落ちていた2人と同じように私もクエストに参加した扱いになってしまっていた。あの世界から出るにはクエストをクリアするか、死ぬかの2択しか無い。だからこの人形を使って君達にこちらの世界に来てもらったんだよ」
「人形でも喋れただろっ、あそこで話をしても良かったんじゃないか?」
(あの場所でロゼッタの事、ラヴィアンローズとリサの事、色々言いたい事があったんだ)
「そうでもなかったんだ……色々あってね。まだ試験段階のクエストプログラムは、ゲーム本体とはリンクしているけれど、別に用意した記憶媒体で展開しているんだ。詳しくは言えないけど容量で言えば、今いるアクエリアのワールドと同じ大きさを確保している」
「それで?」
「はっきり言おう、ラヴィアンローズが行方不明だ。彼はまだログアウトしていない、それにあのワールドから死ぬ事による強制退出もされた形跡がないんだ。原因を探ろうとはしたけれど、予想外の変化の連続によくわからんバグが生じているみたいだ。ラヴィアンローズという認識コードがあるんだが、なぜか書き換えられてしまっていて、本人を捕まえて認識しない限り直接アクセスしようが無い……あのままあそこに止まると、君達もどうなるか分からなかった。だから急いでワールドから脱出を試みたんだ。クエストクリアという順序通りのルートを使って、違和感をワールドに与えないようにね」
「ラヴィちゃんが行方不明? リサと死んだんじゃ無いのか? だったらそう言ってくれれば良かったのに……」
「マッテオ、君はあの世界の住民だった。何というか、あの世界を構成する1つであって君をきっかけに何かの変化が起きる可能性が、いや起きてしまうんだ。もしあの場所で君にこの事を話した場合、ラヴィアンローズが行方不明という事が確定されてしまい、永遠に見つからないなんて事にも繋がったかもしれない」
「ちょっと待てよっ、今ヤベェことを言わなかったか? フルダイブ式のVRMMOで問題提起されているあれじゃねえのか? 帰って来れない……もしかしてそうなのか?」