106 オーブの色
男3人が仲良く手を繋いで鏡の中に入って行った。顔を上げれば目の前に自分、焦点が合ってしまえば次の鏡の中の同じ自分と目が合う。
(この籠手があの刀になるのか……見事な龍が彫られているな)
さんざん脅されたマッテオは、最初から目を伏せて視線をモフモフうさぎの手に当てていた。まじまじとモフモフうさぎのガントレットを見ていたので、鏡の中の鏡の中に入っていくという貴重な体験は、モフモフうさぎの籠手に当たる光の向きが何度も変わるだけの体感するものがないまま唐突に終わった。
「もう手を離しても良いよ」
白鳥がマッテオに言った。
3人が今立って居るのは淡く光る丸い玉が、円周を描く周囲の壁の受け皿に、淡く光る丸い玉が置かれた部屋。出てきたはずの鏡が消えてしまっていた。
「水、水だ、天井が水だよな……」
大して広くない丸い部屋の天井を見上げてモフモフうさぎが言った。波立つことの無い水の底辺が真上にある。
「今から少し泳ぐ、30m程の深さなんだがね。普通なら自力でなんとかなる深さを泳いで行くが、あの光る丸い玉、オーブと呼ぶんだが、あれに触れると一時的に便利な魔法がかかるので楽に行ける。いいかい、例えばこれ、このオーブをよく見ると光の中にオレンジが渦巻いている、このオーブに触ると身体の周りを暖かくする魔法がかかるんだ、。部屋の壁に沿って5個のオーブがあるので、一つずつ触って魔法がかかった状態で泳いで登って行く……」
「水に潜るじゃ無くって、泳いで登るのか?」
「よ〜く上の方を見れば分かる、出口が見えるはずだ」
マッテオとモフモフうさぎが水の天井の先を目を凝らして見てみる。円形の部屋のまま壁が上の方まで続いていると思っていたマッテオとモフモフうさぎは、水の中に小さな光点と、時折光を遮る何かを水の中に見つけた。
「オーブに触る順番があるんだが分かるかな? ちなみにこの順番にも正解があって、ちゃんと解かなければ先に進めない、普通の人ならね」
「俺達は?」
「心配しなくてもマッテオとモフモフうさぎには、正解を教えてやるよから大丈夫だ、まず……」
「待てっ待て、簡単に教えて貰ったら勿体無い」
周りのオーブを1つずつ見て周りながら、モフモフうさぎが白鳥を遮った。
目の前に現れた謎解き要素は、モフモフうさぎにとってはアンタレスONLINEに入ってから、おそらく初めてと言えるゲームらしい展開だった。
ゲーマーとしてモンスターを倒す強さへの欲求とは別の、謎を解き明かして行くという楽しみは、純粋にモフモフうさぎを素のままの自分に戻していた。
「いいだろう、ヒントは要るか? 目的はここの謎解きでは無いから、時間はかけるなよ」
(さっきオレンジがヒート系の魔法って言ってた。水に潜るって事はブレス系の魔法があるはず、泳ぎの補助魔法も要るだろ、あと上の方に魚が何かでかいのも見えた。あいつのエサにならないようにインビジブル系の魔法、又は擬態系、えっと今何個だっけ? 1、2、3、4、5……4個か5個か。オーブの中の渦の色は、オレンジ、色無し、ホワイト、ブルー、ブラックの5色。ブラックって何だろ)
「ブラックって何だろ、分からん」
「ヒントだ、ブラックは最後」