102 黒幕は誰だ?
(マッテオは何を思うのだろう? リサやロゼッタのように、複雑な心境を持っているようには思えない彼が、今の俺を引っ張って行っている)
2階に先に上がったマッテオが、立ち止まって手摺りに腰を預けると、右の方から指をさして順に数えて行く。
「1、2、3、4、5、そこだっ!」
階段を上がって来たモフモフうさぎも、マッテオが見ている1番左の部屋の扉を見た。
「開いてるな」
「ああ、開けっ放しだ。俺は閉めたはずだけどな」
モフモフうさぎが確認の為に写真を取り出した。マッテオが写真を覗き込む。
「うさぎ、やっぱこの女の子、俺の娘なんかじゃねぇよ。だいたいなんで俺が娘をこんな目に遭わせるんだ? んなわけねぇだろっ。誰だ? あの子は」
床に放射状に埋め込まれている黒と白のタイルは、羅針盤の目盛りをモチーフにしたのか、北を指す針が無い代わりに、足で踏んだタイルの色が逆転するようになっていた。マッテオが階段を登り終えてから先に進まない理由は、誰かが先にここを通った跡が残っているからだった。
「この足跡を残した奴があの部屋のドアを開けたんだな」
「1人の足跡じゃ無いぜ、2人だ」
「引き返した跡はないな」
「先に行こうか? 」
「いや、俺が行くよ。俺の役目だしなっ」
マッテオが部屋の前、半開きになったドアの隙間から中を覗き込んで中に入ろうとした。
── その少し前、部屋の中に空いた穴の中では
「カル、今声が聞こえたよなっ」
「しっ、静かに」
「どうする?」
小声でRがカルに聞いた。
ドン、ドン、ドンッ
階段を上る足音が壁を伝わって穴の中に響いて来た。
「間違いない、近くに来たらヘルプコールだっ」
「わかった」
「ナギサっ?」
マッテオが部屋の外から声を掛けたが、床に寝転がった女の子は反応しない。
「おーいっ、助けてくれー」
「おーい、お願いです。そこに居る方、どうか助けてください!」
2人が部屋に入ると、穴の中から男達の声がした。部屋の床の中央部には、横に広がった穴が開いていた。
(今の声、どこかで聞いたような)
マッテオは声がした穴の方をチラ見して、女の子の方へと駆け寄った。急いで猿轡を外し、両手と両足を縛っていたロープをほどいていく。
「違う、やっぱこの女の子は俺の娘なんかじゃねぇ」
そう言ってマッテオは女の子を床に放置したまま立ち上がり、後退りをした。
「どうした?」
床に開いた穴を覗きながら、マッテオの様子を見ていたモフモフうさぎが言った。
「人形だ、この女の子は人間じゃねぇ。血塗れのの人形だ。今、動いたんだ。目がギョロッと俺の方を見た」
ギー、ギッギー、ギッギッギッ
確かに動き始めた人形は、両手をついて身を起こすと
ぎこちない動きで立ち上がって、モフモフうさぎとマッテオを見据えた。ガラス玉の目玉は光を反射していて、ブルンッと震えると白目を通り越して1回転して元に戻る。
バラバラと身体の表面から色が剥げていき、顔までヒビが入って表皮が落ちた時に、人形は話を始めた。