第二話
村から馬を使って約十数分の場所に俺がマンドラゴラで作った薬を売る街がある。
ここは王都から最も遠い街にも関わらず、隣接する国との境にあるため交易が盛んなのだ。
俺から買い取られた薬は王都では三倍くらいの値で売られているらしいから恐ろしいものである。
街の入り口に馬置き場があり、そこに馬を置いて俺は営業に行くのだ。
まずは最もお得意様の薬屋だ。
街の宿屋街にあり、町医者代わりに利用する人も多い。
俺の知合いはこの宿屋街の中で旅人やここを拠点に活動する人たちを相手にしている。
宿屋街に入ってすぐのところに、知り合いの薬屋はあった。
「商売繁盛しているか?」
売店風に薬を売っている薬師兼売り子のミラに声を掛ける。
風邪薬や滋養強壮に効く薬草など数種類を扱っていた。あまり多くは扱わない代わりに量をそろえている事でそこそこ信用が高い。
ミラはボブカットで目がクリっとした人懐っこい雰囲気の女性だ。
見た目ではとても薬師には見えん。
「あー、ルイスー。いつもの鎮痛剤の三袋ほしいんだけどー」
少しのんびりした口調もこの子の特徴でもある。
鎮痛剤は結構売れているようで毎回三から四袋は買ってくれるベストセラー商品だ。
「ああ。ほら鎮痛剤だ」
鎮痛剤の袋を三つ、カウンターに置く。
袋の中を確認して、金貨を六枚カウンターに置いてくれる。
「確かに金貨六枚だな」
「こっちも確かに三袋、受け取ったよ」
「で、ミラ。今回は頭痛薬を少し買わないか?」
そう言って俺は頭痛薬の入った袋を取り出す。
「一袋、銀貨二枚だ」
「うーん。いいよ、頭痛薬は他のとこから買ってるし。それにルイスのお客の分は買えないから」
決まったものは即答なのだが、どうも他の商品は俺が元々売っている客の分が減るからといつも遠慮するのだ。
「そう思ってこの一袋は、ミラに買ってもらう分だ。まあ、お試しでミラにも使ってもらいたいわけだ」
「そういう事なら、買うよ」
銀貨二枚をカウンターが置かれた。
ようやくミラにも頭痛薬を売ることが出来たな。
本当にミラの客用に余分に作ったものだ。価格も控えめにしてある。
「じゃあ、俺は行くよ」
「あ、ちょっと待って。相談に乗ってほしいことがあるの」
相談?
ミラが珍しいこともあるものだ。
「いいぞ」
「ありがとう。ちょっと上がっていって」
ミラがそう言うと勝手口の方に向かっていく。
はてさてこのマンドラゴラ売りの俺になんの相談があるのやら。