第一話
マンドラゴラという物は知っているだろうか?
土に埋まっており、引っこ抜くと叫び声を上げる植物だ。
叫び声を上げるが、一応分類上は植物である。
紫の綺麗で可愛らしい花を咲かせ、観賞するだけなら良い花だろう。
しかし叫び声はかなりの高音で耳を突き、心臓の弱いものはその叫び声だけで失神、最悪の場合は死をも招く。
効能は鎮痛剤と使用され、外科手術では麻酔としても使用できる。
根っこを小指の爪の先ほどで鎮痛剤として頭痛を始め、腰痛、肩こり、生理痛等様々な痛みに効くという。
しかし抜くだけでも叫び声を上げるマンドラゴラは切り刻むとなれば、更なら叫び声を上げるため薬として世に出る分は非常に高価なものだ。
当然、栽培する農家も少なく薬として栽培するものはさらに少ない。
水を一週間あげずとも生き永らえ、外に出している限り叫び続けるとなれば非常に厄介だ。
マンドラゴラという植物は貴重なくせに誰もが扱いたがらない珍しい植物である。
天を切り裂くような叫び声をうんざりした顔で聞きながら俺はマンドラゴラを引っこ抜いていた。
近くにいた鳥たちは一斉に飛び立ち、虫たちさえも森へと逃げていく。
稀にもぐらが地面から出てきて伸びていることもあった。
「いつ聞いても嫌な声だ」
耳栓をしていても耳を突くのだから相当だ。
俺はマンドラゴラを地面に置くと持っていた短剣で半分に切り裂いた。
耳栓すら役に立たないんじゃないかと思うようなガラスさえ割れそうな甲高い断末魔に耐えると、マンドラゴラは力尽きたように動かなくなる。
耳栓を抜くと息を吐いてリラックスをする。
「毎回、これは慣れないな。これで植物ってんだから世の中は分からん」
血が出るわけでもない。
ただマンドラゴラが泣き止むだけなのだが、まるで生き物を殺しているようで気分は最悪だ。
だが、これがかなりの値が付くのである。
この一本で金貨五十枚は下らない。
贅沢しなければ半年は何もせずに暮らせるのだ。
この地域でマンドラゴラを栽培するのはうちともう一軒くらいだ。
俺はマンドラゴラを刻んで薬として、街の薬師に売る。
相場は刻んだマンドラゴラを親指ほどの包みに入れた鎮痛剤用が金貨二枚ほど。更に刻んで水に浸し布に染み込ませて乾燥させたものが外科手術の麻酔薬として金貨十枚になる。
いつも鎮痛剤が二十袋程生産し、麻酔薬は三枚生産する。
あとは麻酔薬を生産する過程で出た麻酔薬に使えない残りを小麦に混ぜて小指の半分くらいの大きさにすると、ちょっとした頭痛薬が出来上がる。
こっちは銅貨一枚で近所の人や街の貧困層の人たちに売っている。
「よし、これでいいだろう」
俺は薬を作り終えると背を伸ばした。
午前中から作業を始めて、昼を挟み結局作業を終えたのは夕方だ。
マンドラゴラの鳴き声さえ我慢すればとても楽な商売というわけである。
明日は街まで売りに行くとしよう。