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LPS計画  作者: 永瀬聲
7/29

7 少女、失敗する




 ポチが家に住み始めてから五日後、私はうっすらとだが、目を閉じた状態でカードだけを透かして見ることが出来るようになっていた。

 下着だけを見たり、裸を見たりも出来る。

 ぐふふ。

 


「また私の勝ちですね!」

「あら~…悔しいわねぇ、勝てないなんて。ルルちゃんには今まで負けたことなかったのに~」

「奥様でも勝てないのでしたら、これは完全に伏せたカードが見えていますね。そろそろ目を開いても制御出来るのではないでしょうか。ルルーシャ様、今度は目を開いて勝負しましょう」



 目を閉じてると絶対にドライアイにならないし楽だったから気に入ってたんですけどね。

 それで外に出たら完全に不審者だから家から出なかったが、元々そんなに出歩かないから不便でもなかった。

 そっと目を開け、自分の掌を見下ろす。

 あまり日焼けしていない肌が見え、安堵の息をもらした。



「大丈夫そうです」

「では、能力を使用して私達に勝って下さい」

「うふふ~、手加減しないわよ~?」



 お母様とココアさんを相手にトランプゲームで連勝すれば、能力を使いこなせていると判断する。

 実際に透けて見えているかどうかは私にしか解らないから、家族で一番強いお母様を混ぜて勝負をすることになった。

 それでも本当に透けて見えるので、生まれて初めてお母様に勝てた時は嬉しくて調子に乗った。


 そうしたら策を練られて負けた。

 何で。


 私が透視をして手札を見るのなら、手札を見せながら戦うのと同じだから簡単よとお母様は言っていたが、全く理解出来ない。

 えええ、ココアさんもお母様にはついていけてませんよ?やっぱり別格じゃないんですか?わからーん!

 頭を抱えながら必死の形相で戦うが、完全に掌の上で踊らされてしまう。

 カードを重ねて一枚に見せるとか、戦法を変えるとか、とんでもないギャンブラーだこの人。



「ルルちゃんは猪突猛進なところがあるのよね~、考えてることが通抜けよ~?」

「ぐっ…!」



 簡単にあしらわれる私だが、お母様以外には勝てる。

 つまり、お母様がおかしい。

 肉体労働はお父様、頭脳労働はお母様と役目を分けているのはやっぱりお父様がイケメンゴリラ故に馬鹿で使えないからかと思っていたけど、単純にお母様の頭が良いからか。

 あーあ、悔しいな。


 まあ良いや、透視能力もそれなりに扱えるようにはなったし、もう人間の断面図とか見なくて済むだろう。

 休憩にしましょうとココアさんが紅茶を淹れてくれて、お母様が作ったクッキーを一緒に流し込む。



「…ごほっ」

「あらあら~、そんなに慌てて食べなくてもクッキーはまだまだ沢山あるわよ~」

「は、はい…」



 くっそ苦い!つーか不味い!

 とんでもない味のするクッキーは甘い紅茶で流し込むしか食べられず、無心で頬張る。


 お母様は料理が得意だが、淹れるお茶や作るお菓子には薬草をふんだんに使うので味がおかしいのだ。

 健康に良いから~。とにこにこ優しく微笑むお母様を見ると、何も言えなくなってしまうので我慢して胃に詰め込む。

 良薬口に苦しと言うし、健康に良いのは確かだろうから食べて損はない。



「そうそう、ワイド君のことなんだけれどね~?あの子やっぱりアーグナー家の子みたいなのよ~」



 ん?何の話だ?

 顔を歪めないようポーカーフェイスを保ちながら、聞き耳を立てる。



「やはりそうでしたか…黒髪と黒目でしたので、王都でも見なかったことから隠れ住む一族であろうとは予想していましたが」

「そうね~。アーグナー家も後継者争いとかあるから、ワイド君も居心地が悪かったんでしょうね~」

「今の頭領は確か、王の護衛をしているアマンダ様だった筈です。見かけただけですが気難しそうな方でしたし、ワイドさんも戻るに戻れないのかもしれませんね…」

「えっ!?ポチを帰す話ですか!?」



 アーグナー家とか何とかは聞いたことないですけど、ポチは私が拾ったんですからね!駄目ですよ!

 ポチは私のものですとアピールをすれば、お母様はあらあら、と笑った。



「もしかしてワイド君が気に入ったのかしらルルちゃんったら~」

「勿論ですよ!何でも言うことを聞いてくれる犬…ごほごほっ!ポチは初めてのご友人ですから!」

「ご友人…そ、そうでしたね、ルルーシャ様は、その、そうでしたね…っ」



 ココアさんが急に気を遣い始めた。

 止めて。

 殆ど家の敷地内から出ない私に友人と呼べる相手は確かにいないけど。

 家庭教師のココアさんを友人と呼んで良いならココアさんを初めてのご友人という枠にぶちこむぞ。

 とにかく、そういうことですから!とお母様に念を押す。



「う~ん、うふふ~」



 えっ!?何その笑い!?何ですかお母様!?めっちゃ怖い!

 含みを持たせた笑みを見せる母に慄き、背筋に冷たいものが走る。


 そんなことがあったせいか、現在ポチをじーっと眺めてばりぼりとお煎餅を噛み砕いているだけでも母からの視線が気になってしまう。

 何とかしてくれとポチに視線を送っているのに、何を勘違いしたか駄犬は薪割りのペースを上げた。

 急げとは訴えていないぞ。


 真っ二つになった木の片方が勢いよく飛び、怪我をしないよう離れていた私の額へクリーンヒットする。

 うぐおおお…!?。

 あまりの激痛に、地を這うような声を出しながら膝をついた。

 両手で額を押さえつけ、くの字に体を曲げる。



「る、ルルーシャ殿!?すまん!見せろ!」



 貴方はそろそろ私への敬語を覚えたらどうなんですかポチ…!私が敬語で貴方がタメ口って逆でしょう!

 今更キレそうになる。


 生理的な涙で視界が滲み、言葉が出ないので片手を上げて無事をアピール。

 その手を掴まれ、あろうことか頭部を鷲掴みにされて無理矢理に上を向かされた。

 首!首が!首がゴキッとか鳴ったんですけど!何するんですかこの駄犬!本当に私の犬のつもりでいるんですか!?



「…血が出てしまったな」

「ひええ」

「すまなかった、直ぐに手当てをする。俺の不注意だ」



 不注意と言うのなら私こそが不注意…。

 いや、もう過ぎたことを言うのも面倒だから良いけど。

 ひょいと持ち上げられ、水道の近くに運ばれた私は意外にも丁寧な手当てをされる。

 本当に意外だった。手慣れてる。

 でも痛い。



「て、てきぱきしてますね…慣れてます?」

「ああ、俺も昔はよく怪我をしていたからな。その度に自分で手当てをしていた、嫌でも慣れる」

「そうですかー…暗殺の仕事をするくらいですし、やっぱり厳しい特訓とかしてたんですか?」

「厳しいかどうかは知らん。あの場所では誰もが当然のような顔をしていた、俺も彼処から出るまでは当然だと思っていた」



 僅かに暗くなった表情を見上げ、あまり聞かれたくなかったかーと後悔する。

 うーん、私こういう探り探りな感じに接するのは苦手なんですよねー。

 取り敢えずポチの頭を撫でた。

 よしよし。



「すみません、話したくないなら話さなくて良いです。不躾でした」

「…あ、ああ」



 私よりもお母様やココアさんの方がポチを知っていると思ったら、少し悔しかっただけだ。

 最初に会って拾ったのは私なのに、私が一番何も知らないのではないかと思ってしまった。

 ううむ、末っ子気質が出てくるなー。

 あ、末っ子気質と言えば。



「ポチって弟ですよね、お姉さんは何歳ですか?」



 気軽にした質問だったのだが、警戒を含ませた眼差しで見下げられ怯む。

 な、何だ?聞いちゃ駄目だったか?



「何故…俺に姉がいると知っている」

「え?いや、末っ子っぽい雰囲気だなと。兄よりは姉がいそうだなって…な、何となくですが」



 そんなに気になる発言だっただろうか。

 昔から相手の兄弟編成を当てるのは得意だったので、ついつい自信満々に話してしまったが言われたくないことだったのかもしれない。

 それとも、違った?いやいや、アマンダ様?とかいう名前の姉はいるみたいだし。

 じゃあ何だ、姉が嫌いなのか。

 私はお兄様が大好きです!聞いてない。



「当たってました?」

「…ああ、俺には双子の姉がいる」

「おお、双子でしたか!」



 末っ子だと思ったんだけどなー、双子だと少し違うんだよなー。

 気づけないわそんなの。

 並んで似ていたら双子ですかって聞くくらいだよ。


 お姉さんと似てますか?と自然な流れに乗って質問を続ければ、とうとうポチは黙ってしまった。

 おおう…お姉さん関係の質問は駄目でしたか…すみません。

 話題を変えないと…話題…話題…。



「そういやポチはアーグナー家の人間だとか小耳に挟んだんですけど、アーグナーさんって有名なんですか?」



 瞬間、両肩を掴まれた。

 とんでもない怪力でめきめきと骨を痛めつけられる。

 ぎゃああああ!?痛いんですけど!?うら若きか弱い乙女に何たる所業!許すまじ!



「誰が言っていた!」

「ぅえっ…え、あ、お、親です…っ」



 般若の顔をしているであろう私も吃驚してしまうポチの形相に怯え、ココアさんを父親と入れ換えて吐露する。

 万力かと思う程に力強い握力で肩を痛めつけられている私は、また涙目になりながら離して離してと身動ぎをした。

 まだ詰め寄ろうとするポチに離せやと蹴りを入れたがびくともしなかった。

 泣きたい。



「話の内容は」

「し、知りませんよ…っ」

「本当か」



 ぎりぎりぎりぎり、肩が悲鳴を上げる。

 お前マジで許さんからな!痛いっつーの!離せこの駄犬が!

 涙を浮かべながら、もう一度蹴りを喰らわせようと足を振るう。

 寸前、唐突にポチが私を近くの物置小屋へ引き摺り込んだ。

 ぎゃあああ!?殺す気か!?大人しく殺されてなんかやらないからな!寧ろ私が殺してやるからな!


 ひええ、と情けない声をもらし、ポチを見る。

 様子を伺いながら離れたかったのだが、私の口を手で覆うなり彼は扉を鋭い眼孔で睨みつけていた。

 咄嗟に扉を透視して外を見ると、白い衣服を身に纏う三人の男が立っている。

 門の中だ、敷地内だ。


 不法侵入だ!誰だ彼奴ら!警察を呼べ!私よりも彼奴らを捕まえろポチ!いい加減に離せ!痛いわ!

 暴れようとした私はしかし、次に見えた光景を前に固まった。

 扉の向こう、先頭に立つ男が手に持つ紙。

 いかにも指名手配されています、みたいな感じでポチの似顔絵が描かれている。



「……」



 え?え、あれ?ポチ?どういうこと?





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