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LPS計画  作者: 永瀬聲
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1 少女、目覚める




 誰もが夢を見たことがある筈だ。

 ああなりたい、こうなりたい、将来の夢、理想の自分。

 自分の夢を叶える為に努力をすることは、とても素敵なことだ。

 その夢がどんなものでも、私は否定しない。

 私は誰の価値観も否定しない。

 だから、誰にも私の価値観を否定させない。



「ルル…大丈夫?お水は飲める…?」

「っ、は、はい、有難う御座いますお兄様…」

「えへへ」



 嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべるのはロイヤード・レメリック、十二歳。

 しっとりと濡れたような艶のある黒髪に、鮮やかな紅葉を思わせるルビーの瞳。

 陶器のようなさらりと白い肌は、今は僅かな高揚から朱に染まっている。

 私のお兄様だ、今の。

 グラスを持つ手が震えてしまい、お兄様が不安そうに眉を下げて私を見る。

 上目遣いなのでとてつもなく可愛い。



「ルル、やっぱり顔色悪いね…まだベッドで休んでいた方が良いよ」

「は、はい、そうさせて頂きます…。あの、ご迷惑をお掛けしましたお兄様…」

「可愛い妹が倒れたと聞いて、僕も心配だったんだ。君が目覚めてくれて良かったよ、何かあれば直ぐに呼んでね」



 こくこく頷く。

 微笑んだお兄様は静かに私の部屋から出て行き、ほっと胸を撫で下ろした。

 ベッドのシーツを握り、必死に現状把握に努める。


 私、ルルーシャ・レメリックが前世の記憶を思い出したのは、毎日の日課となっているお兄様とのお茶会の最中だ。

 記憶を取り戻した衝撃かは知らないが、突然倒れた私をお兄様が私の部屋まで運び、今の今まで介抱して下さったのである。

 有難う御座います。


 今までルルーシャとして生きてきた十年の記憶が強いので感慨も何もないが、精神年齢が一気に老けたのではないだろうか。

 妹が急に変わってしまったら優しい兄も困惑するだろう、今まで通りに過ごさなくては。

 過去の記憶を思い出したところで何も変わらないなとふんぞり返っていた私は、翌日のお茶会でお兄様に指摘されてしまう。

 ルル、昨日から様子がおかしいけれどどうしたの?と。



「うえっ!?い、嫌ですわお兄様、私は何もおかしくありません」

「けれど…その、あまり元気がないようだ」

「そ、そんなことありません!元気です!」



 倒れるまでのルルーシャは明るく元気な快活少女だった。

 本来の私とは少しばかり異なるので演じるのは難しいが、出来ない訳ではないだろうと高を括る。

 確かに昔は目が死んでるとは言われていたが、このルルーシャ・レメリックは美少女だ、中身が私になっても見た目に変化が現れる筈がない。

 ロイヤードはまだ腑に落ちないとでも言いたげな顔をしていたが、気を取り直したのか話を変える。

 私としても助かったので、喜んで乗っかった。



「僕はもう少しで学園へ入らなければならないから、ルルが心配だよ。昨日も急に倒れてしまっただろう?もしも君の傍に僕がいない時、何かあったらと思うと…」

「大丈夫ですお兄様!お兄様がいなくても私はしっかりと勉学に励みます!」

「そ、そう…」



 ふんす!と鼻息荒く言い放ち大丈夫アピールをしたが、ロイヤードは視線を落としてしまった。

 憂い気な眼差しが堪らん、眼福です。


 そんなに心配されるような妹だっただろうかと戸惑うが、特に問題のない妹だったと私の記憶が訴えている。

 何だ、何が心配なんだ。



「あ、あの、もしや私の学力では学園へ入学出来ないのでしょうか?」

「そんなことはないよ、ルルは座学が得意だからね。とても頑張っていると思う、心配ないさ」



 だとすれば、何がそんなに気になるんだ。

 困って目の前の顔を眺めた。


 長い睫毛が目元に影を作り、ロイヤードの顔が精巧な作り物のように見えてくる。

 我が兄ながら美少年だわ。

 ほう、と美しい生き物に見惚れていると、お兄様が眉を下げた。



「ええと、ルル。眠いのかな、やっぱりまだ体調が万全じゃないとか…」

「え?いえ、体調はとても良好です」

「本当に…?」



 気分悪そうな顔をしているつもりはないんだけど。

 あ、あれ?まさか、まさかとは思うけどまさか。


 思い当たる節があり、やっぱりもう少し寝ます!と席を立って自室へ走る。

 後ろから「こら!危ないだろう、走るんじゃないルル!」と叱られてしまったが、何よりもこの問題を解決したくて無視をした。

 御免なさいお兄様!


 部屋へと駆け込み、姿見の前まで勢いをそのままに移動してがっと両手で鏡の縁を掴む。

 今日も身嗜みを整える為に見ていたが、寝起きは暫く眠いので顔まではじっくりと見ていなかった。



「……あぁぁっ」



 予想通りのものが映り込んでいて、思わず膝から崩れ落ちる。

 色素の薄い、ミルクティー色の長い髪がカーペットの上に拡がった。

 見た目はルルーシャだからと油断していたが、中身は私なのだ、もっと考えるべきだった。


 かつての私のニックネームを代表する眼が、ある。

 デッドアイ。

 死んだ目をしていると言われ続けた半目が可愛いルルーシャの魅力を半減させていた。


 あああああ!鏡を見る度に目の保養だぜとか言えると思っていたのに!何で!何処までついてくる気だこの死んだ魚の目は!せめて生きろ!死ぬな!

 頭を抱えて自分の顔に絶望する。

 他のパーツは完璧なのに目だけ駄目だった…いつも通りの顔だと思って油断していた…嘘だぁ…。






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