第6話:菊一文字と初めての旅路
更新が不定期で申し訳無いです…;
「…さて。
門を出たは良いですが、これからどうしましょうか。」
「とりあえず街道沿いに歩いていけば良いよ、お姉様♪」
「うん!!わたしの住んでいた村はあっちだから♪」
「では出発しましょう♪」
「はい、先導はミーシャさんにお任せしますね?」
「はい♪これでも伊達に受付嬢や元・聖職者をしてないから安心してください!
…ただ、私は近接戦は苦手ですので…
「そっちはアタシとお姉様に任せといて!
カノンとミーシャさんはアタシ達が守る!!
ねっ?お姉様!!」
「そうですね、ボクの剣技と希夜ちゃんの銃術、治癒術があれば大丈夫だと思いますよ。」
「…お姉ちゃん、わたしは?」
「カノンちゃんはエミリーさんに習った事を生かして遊撃して、敵を撹乱してください。」
目的地と其々の役割を再確認したボクたちは、改めて街道を歩き始めた。
…と、時間はたっぷりあるし、歩きながら改めてミーシャさんの事を訊いてみようかな…?
“元・聖職者”、と言っていた事や今のミーシャさんの服装の事も気になるし。
ボクは隣を歩くミーシャさんに話しかけた。
「―あの、ミーシャさん。」
「はい、何でしょうかキクちゃん?」
「ボクたちが貴女を保護しましたし、この街から逃げなければならないのも分かるのですが…それにしても、えらくあっさりと、荷物も取りに帰らずに出発しましたよね?
この街にミーシャさんのお家や、大切な人は居なかったのでしょうか?」
そんなボクの質問に、ミーシャさんは一瞬、感慨に耽るような仕草をして、
ボクに向き直った。
「ええ。
この街の、冒険者ギルドの受付嬢になってからは住み込みでしたし、私自身の荷物は何時も“ストレージ”に入れていますからね。
家族は遠い所に住んでいますし、私には夫も、恋人も居ません。」
「なるほど…あ、ならどうして獣人好きな貴女が、人間至上主義な冒険者ギルドの受付嬢何て似合わない仕事をしていたのですか??」
「・・・見た目が良いから…だと思いますよ…それと、正にその獣人さん達の為、です。」
ミーシャさんは、そう自嘲する様に言って、詳しく教えてくれた………
どうやらミーシャさんは元々、教会のシスターだったらしい…
まぁ、職業が【ビショップ】な位だし、街を出てからは白くて縁に金糸で装飾がされている修道服に身を包んでいるからそれは納得できる。
で、そんなミーシャさん、巡礼の旅の途中でシスターの業務として【治療の施し】の為に立ち寄ったシュレイドの街の冒険者ギルドにて不意打ちを喰らって気絶している間に【強制奴隷化魔法】をかけられた、とか…
理由は…ミーシャさんがとんでもなく美人で高等な治療も出来るシスターさんだから。
尚、治癒魔法の効能が薄れるという理由から無理矢理アレとかはされなかった。
確かに、草原の様な若草色の髪をポニーテールに纏めていて、二重瞼のたれ目、宝石の様な紅い瞳、スッとした鼻梁にふっくらした唇なミーシャさんは10人居たら9人は振り返る位の美人さんで、出るところは出て絞まるとこは絞まっていてスタイルも良い。
更に、春の日差しの様な暖かい雰囲気。
母性の塊みたいなこの人は冒険者ギルドでも人気の受付嬢だったとか。
まぁ、奴隷魔法をかけられた…と言っても、ミーシャさんの場合は【魅了魔法】や【結界】も護身術として習得していたから奴隷化魔法自体無効化していたし、それである程度自身を守っていたし、ぶっちゃけ何時でも逃げれたけれど(あの誘拐した状況もナイフや剣は無効化できたとか)、ほぼ“自分を慕ってくれる獣人さん達”の為に受付嬢を続けていた様なものらしい…
…不意打ちを喰らったのは、治癒魔法使用中は物理結界が邪魔になるから、らしい。
因に、仮に奴隷魔法で奴隷になっていた場合はどうなっていたかと言うと、『強制奴隷化魔法』は本人以外の魔力でしか解除出来ず、自分で解除しようとすると…死んでしまう…とか。
本当に…この世界の冒険者ギルドは真っ黒だね。
大体、高位聖職者であるミーシャさんを襲ったら教会が敵に回るとか思わなかったのかな…?
尤も…不幸な事にそこそこ大きかったシュレイドの街には、教会が存在しなかったんだけど…
盗賊ギルドが善人ばかりってのも、中々にこの世界の理って奴はボクの前世の感性は通用しないみたいだ。
まぁ、当然の様に悪い盗賊も居るんだけど。
そうゆうのは『はぐれ盗賊』、何て呼ばれ方をするらしい。
…ボクたちはちゃんと【ブレッドファミリア】所属の証であるバッヂをつけている。
これにはジェイクさんとステラさんの魔力が込められているから、その魔力が【ブレッドファミリア】のメンバーである事を保証してくれる。
【ブレッドファミリア】のメンバーは、お父さんが“ぐう聖”なお陰で何処に行っても歓迎されるんだ、と言うのはミーシャさんの言。
「…では、ミーシャさんはこのまま巡礼の旅も続けるのですか?」
「…今の私は最早、ステラさんと同じで帰俗した様な身なので…
・・・いえ、正確には、還俗…でしょうか…。
私は、自らの意思で冒険者ギルドの受付嬢をしていて、今は、義賊とは言え盗賊団の団員です。
教会は、私を赦してはくれないでしょう…
「そんな…
「キクちゃん、別に私は、それを不幸だとは思いませんよ?
そのお陰で私は貴女達と旅が出来るのですから♪
これもまた、神の思し召し…なのでしょう。」
そう言いきったミーシャさんは、確かに晴れ晴れとした笑顔で…
だからこそ、ボクから言う事はもう、何もなかった。
「もう…そんな悲しそうな顔をしないで下さいよ…;
私は、私の意思で貴女達と共に在る事を選んだのですよ??
なら、そこは笑顔で“ありがとう”と、言ってくれれば良いんです!!」
「・・・凄いですね…ミーシャさんは。」
「…凄い、ですか…??」
…ミーシャさんは、首をかしげているけれど、この世界での『聖職者』は、そもそも簡単になれるものじゃない。
才能もあるけれど、それ以上に努力をしなければなる事が出来ないんだ。
聖職者になれたとしても、そこから上に行くにはいくらお金を積んでも、不可能だ。
そんな中で、『高位聖職者』を名乗る事を許されたミーシャさんは、きっと、並々ならぬ努力を積み重ねてきたのだろう…
それを…捨てたのだから…
余談だが、似たような職業に『賢者』がある。
こちらもビショップと同じく攻撃と治癒、両方が使えるが、“貞操”で無くとも、聖職者で無くてもなれる。
それを踏まえてもミーシャさんは、清い…と言うか、このパーティ、全員清い。
寧ろユニコーン大歓喜では??
尤もカノンちゃんがあの年で既に清くなかったら大問題だが。
とにかく…ミーシャさんはミーシャさんで、正にシスター…だね。
「…ありがとうございます、ミーシャさん。」
「はい♪
貴女達は、私がしっかり面倒を見ますからね~?」
因に、この少しだけ重い話の間、希夜ちゃんがカノンちゃんの相手をしてくれていた。
良くできた妹だぁ…!
「…それにしても、さっきから全く魔物に遇わないですね…?」
「この辺りは定期的に騎士団が魔物を間引いていますから、街道からそれなければ基本的には魔物に遇うことは無いですよ。」
「わぉ。」
旅路 (イージー)…?;
それはそれでつまらな―おっと、これじゃあ戦闘狂じゃないか…;
「ただ、魔物に遇わないからと言って安全ではないですよ?
何故なら―
「よぅお嬢さん方!!女だけで旅かぁ~?」
「俺達が一緒に行ってやろうか~?」
「―こうゆう輩が居るから、ですか。」
「はい♪では、お手並み拝見!!」
「任せて下さい。」
「アタシもやるぞ!!」
なんともまぁ狙った様なタイミングで現れたはぐれ達。
すぐに抜刀したボクと希夜ちゃんは、二手に別れて挟撃に出る。
…流石、『アタシはアンタ、アンタはアタシ』と言っただけあって、示し合わさなくても連携は可能みたいだ。
「抜刀術【刹那―
「― 一文字】。」
「ぐぼぁっ!?」
「いきなり攻撃かよ!?」
―先ずは一人。
Xを描く突進で斬り裂き、残った一人に、ボクは刀を首筋に当て、希夜ちゃんが銃の形にした手の指先を額に当てる。
「ボクたちをなんだと思ってるんですかね?」
「アンタらがマトモな人間じゃ無いのはお見通しだ。
【指弾】。」
「くはっ…
こんなもの、かな。
弱すぎてアクビが出そうだけど。
「―なぁんて、ねっ!!【疾風迅雷】ッ!!」
「―ホゥ?俺の存在に気付いていたか?」
「当たり前ですよ。
今のはぐれ盗賊、あまりにも出現するタイミングが良すぎましたから。」
「…キクちゃん、40点です。【範囲混合結界】!」
「―え?」
苦笑いしたミーシャさんがボクたちを囲む結界を出すと同時に全方位から飛んできた魔法や弓矢等が結界にぶつかって甲高い音を出した!!
「―潜む敵はその人だけではありませんでした。
尤も、キクちゃんが一人に気をとられている間に数人を撃ち倒していたキヨちゃんの方は気付いていた様ですが。」
「へへっ♪アタシは今まで一人で戦ってたからな。
気配察知は多少得意なんだ。」
「わぉ。」
「キヨちゃんすごぉい♪」
「・・・・・;」
因に、カノンちゃんは戦闘開始とほぼ同時にミーシャさんが抱き寄せていた…
と言うかミーシャさん、敵を察知した上に大量の物理攻撃も魔法攻撃も防ぐなんて、やっぱりチートじゃないの!?;
この世界のシスターってなに!?;
聖職者ってなにっ!!?;
キヨちゃんもキヨちゃんだよ!!;
本物であるハズのボクより強くない!?;
ただ、敵だってバカじゃない!!
「やはりビショップであるお前は敵に回すと厄介だな。」
「お褒めに与り光栄ですね。」
「だが―
男がニヤリと嗤うと、ミーシャさんの結界が溶ける様に消えた…!!?
「クッ…!;
『結界封じの煙』…ですか…!!」
「ああ、お前が結界を使ってくる事は想定済みだ。
これで、結界はもう使えない。
更に此方には50人以上の冒険者が居る、
これで、チェックメイトだな。」
男が言い終わると同時に再び殺到する魔術と弓矢!!;
これは…!!
「希夜ちゃん!」
「お姉様!!」
「不動【守護神】!」
「治癒術【エコーヒーリング】!!」
ボクがカノンちゃんとミーシャさんの前に仁王立ちで立ちはだかり、刀を地面に突き立てると、攻撃は全てボクに突き刺さった!!
そして希夜ちゃんがボクに向かって連続で回復する程効果が上がる治癒術をかけてくれた!
痛い…なんて程度じゃない。
焼け、痺れ、抉られ、貫かれ、ボクたちの身体はあっという間にボロボロになり、刀も削られて行く…
が、希夜ちゃんの治癒術の方が上回っているから実際はかなりの余裕がある。
しかし相手の攻撃は止まない…
寧ろ激しくなり―――
―ギリギリ間に合ったっすか!?【七星障壁】!!」
「「…!」」
と、その時…
誰かの綺麗な声が響く…
それと同時にボクらを囲む様に現れた七色の光の壁が魔法や弓矢を防ぎ始めた…
「(!)―――【リザレイン】!」
更に、丁度詠唱が終わったらしいミーシャさんの声で黒い雨が光の壁の外に降り始め、ボクらには白い雨が降り注ぐ…
すると、敵が次々と倒れた。
白い雨は治癒術なのかな?尤も、希夜ちゃんの治癒術で体力的には一切減ってなかったから何とも……なんかごめんなさい……?;
「「…ミーシャさん…!
「それにエミリーさん!?」
「…と、誰?」
「おおっと!キヨっちは初めましてっすね?
アタシは【ブレッドファミリア】メンバーのエミリーっす♪」
「なるほど…よろしく!」
「…ありがとうございます…お二人とエミリーさんが時間を稼いでくれたお陰で、白黒魔法が使えました……
「それなら良かったっすよ!」
「いえ、ボクたちも仲間を守りたかっただけなので…
「…それは、私も同じです。
ですから、キクちゃんとキヨちゃんはそんな無茶をもう、しないでくださいね?」
「「…はい…。」」
「よろしい。では、仕上げです!!
降れ/氷雪/大地ににその顎を穿て!!【アイスバーン】!
業火よ/業火よ/畏怖を振るう業火よ/全てを焼き払え!!【フィアーフレイム】!」
ミーシャさんは、止めとばかりに氷の亀裂を地面に作り出して冒険者を半分葬り、更に半分を炎の海で焼き払った…
「後処理は任せろっす♪」
それから、エミリーさんが残党に止めを刺して、全てが終わった…
と、そのエミリーさんは冒険者達から何やら札を回収して御満悦の様子…
「ふんふ~ん♪冒険者タグ大漁ゲットっす~♪」
「…楽しそうですね、エミリーさん…;」
「そりゃあそうっすよ!!
アタシは人間の冒険者が大っ嫌いっすからね!!
…あ、ミーシャさんは大好きっすよ?
何時も獣人の冒険者をサポートしてくれて、ありがとうっす♪」
そう言ってミーシャさんにすり寄り、胸に顔を埋めるエミリーさん。
…見た目が男の子なので、なんとも…;
まぁ、声は間違いなく女の子のもの(しかも鈴を転がす様な美声)だし、性別も女の子…ではあるけれど。
彼女は…見た目で損してそう…;
「…あ、そう言えばエミリーさんは何故ここに?」
「そりゃあもちろん、皆に付いていく為っす♪
アタシももっと、広い世界を見てこいって親父に言われたっすからね~♪」
「なるほど…つまり、これから一緒に来てくれるのですか?」
「アタシはそう言ってるつもりっすよ~?
それにぃー…アタシはミーシャさん大好きっすからねぇ~!ずっと、そばに居たいっす♪」
「…それは、ありがとうございます///」
…おや?;
ミーシャさん今顔を赤らめなかった!?;
いや、確かにエミリーさんは見た目男の子だけどさ!?;
※因にエミリーさんは見た目が少年だが18歳の青年女性である。
金髪のショートヘア、茶褐色の猫目。
うすい唇でωな形の口からは八重歯が見えていて…
快活そうな印象を受ける。
頭からは同色の三角耳、腰当たりには同色の鍵尻尾。
服装は、頭に緑色のバンダナを巻いていて、白いシャツにショートパンツ、盗賊らしい動きやすそうな格好だ。
…彼女達の様な獣人は、特別な道具を使うと一時的に獣の姿になれるらしい。
尚、彼女は正確にはライオンの獣人なんだとか。
そうなると、カノンちゃんにも出来る…のかな??
「さてと、それでは改めて行きましょうか…
冒険者の襲撃…これは警戒していましたが予想以上に激しいですね…しかも、私の結界を無効化する手段を手に入れているみたいですし…
「大丈夫っす!その為にアタシが居るっすからね♪
アタシの“障壁”は『魔武具』である【七星剣】の効果っすから、これで結界の代わりにはなるっす!!
とは言え、ミーシャさんの結界には劣るっすから、過信は出来ないっすけど。」
【七星剣】…?
それも結構有名な刀剣じゃないの!?;
そっか…エミリーさんは剣と短剣、両方が使えるんだ…
っと、それはともかく。
「…魔武具…ですか?
ボクたちとは違う存在なのでしょうか?」
「そうっすよ?
キクっち達は『精霊武具』とも呼ばれるっす!!
魔武具とどちらが強いか、と聞かれると甲乙付けがたいっすけどね。」
「そうだな、アタシら精霊武具は武器に意思があるから、実質主と二人で戦えるっていう利点がある。
けれど、主が特殊な技能を覚えれる訳じゃない。
魔武具はその逆で、意思が無くて強力な魔力が宿っている武器だから自分で振るわなけりゃならないが、武器を使っている間は特殊技能が使えるんだ。」
「なるほど…
「まぁ、アタシの事は単純に結界封じ無効な結界が使える盗賊だと思ってくださいっす♪」
はい、充分チートです。
そんなエミリーさんと合流して、ボクたちは次の街へ歩いていくのだった…