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第5話:菊一文字と贋作菊一文字

不定期でごめんなさい…;

―その日の夜。

【ブレッドファミリア】の正式なメンバーとして迎え入れられたボクたち3人は、ささやかながら歓迎会を受けていた。

パン屋兼お菓子やさんだと言う、一階の店舗部分では、ブレッドファミリアのメンバー達が飲めや騒げやの大喧騒。

まぁ、にぎやかなのは嫌いじゃないけどね。




「楽しんでるかぁ~キクぅ~!!」


「酔ってますねぇ…;」


「そら飲まないと損だからなぁ~!」


「程々にしてくださいよ?お父さんが倒れたら、ボクもカノンも悲しみます。」


「おうよ♪簡単には倒れたりしないぜ!!」



それだけ言ってお父さんは楽しそうに他の皆のところへ向かった…



「…ふぅっ…



この、短い日々は毎日が濃厚だった…

まるで、最初から皆知り合いだったかのように…

そんな風に、皆と仲良くなれた…

前世を忘れた訳じゃない。

だけど、カノンちゃんはまるで、ボクの本当の妹の様に感じているし、ジェイクさんやステラさんは、お父さんやお母さんの様に感じている…


それはきっと、幸せな事。


この上無い幸運。


だからこそ――――




「ミーシャさん。」


「はい、何でしょうかキクちゃん。」


「ちょっと、夜風に当たってきますね。」


「了解です♪」


















―ボクに何かご用ですか?」


「…やっぱり気付いていたか。」


「ええ。

…やはり貴女ですか。

…【贋作がんさく菊一文字】。」



パン屋から離れて、路地裏。

後ろから付いてきている気配に声をかけると、ボクと瓜二つな顔、背格好をした少女が現れた。

ただし、髪は金属のような銀 (元と違って何故かツインテールにしている)で、瞳は紅と漆黒、正体は、ボクの模造品…【贋作菊一文字】、だった。

と言うか、アキラさんが立てたフラグ、回収が早すぎない!?;



「…思ったより早かったですね?」

※フラグ回収的な意味で


「まぁ、何故かアタシにはアンタの場所が、手に取るように分かるからねぇ!」


「そうですか…



場所が分かる、そう言ってのけた贋作は、目が笑っていなかった。

そして、彼女は、刀を抜いた。



「まぁ、アンタもアタシなら。

やることは分かっているだろ?」


「ボクは貴女とは違います。」


「…オリジナルの余裕、か?」



彼女は楽しそうにボクを見つめてくる…

オリジナル…か…

ボクは、今のボクは本当にそうなのかな…?


なぁんて、考えている暇はない。


ほぼ、武具精霊としての勘と反射で抜いた刀が彼女の刀とぶつかり合い、火花が散る。


力は…ボクの方が強い、かな…。


カノンちゃんとステータス共有している分、そして、狐装備が身体と一体化した分、ボクの方が彼女より遥かに強い。

ただ倒すことは余裕だろう。

だけど…



「一応訊きますよ?

ボクたち、仲良くできないですか?」


「はぁ?何を言っているだアンタは??」


「…。」



…出来れば、説得したい。

ボクを倒したって、貴女は貴女、ボクはボク。

決してボクには成れやしないのだから…!

だけれど、彼女はお構い無しに斬り結んでくる…!



「あははっ♪

これだよこれ!アタシが求めていたのはっ!!」


「っ!!くっ!?」



しまった…!

単純なステータスでは勝っているにしても…彼女の方がボクより技術力が高い!!

ボクの力任せの剣筋とは違い、彼女の刀は最小最速で振るわれる!!


が、逆に言えば(装備品の差で)ステータスに差があるからか、彼女の斬撃はボクの肌を傷付ける事がない……

つまり、ジェイク(おとう)さんの時と違い、ステータスの差で常時無敵(厳密には1ダメージ)状態の様なものらしい。



だけどボクの攻撃は彼女に簡単にいなされ、当たりやしない……

当たっても傷付かないボクと、そもそも攻撃に当たらない相手。

これじゃ泥仕合ー



「ーいえ、そもそもダメージが無いなら素直に防戦する必要、無いじゃないですか。」



何か、何かストレージにでも入ってないかな??

……………あ、良いのがあった!!


“あるもの”を見つけたボクは、下手に抗うのを止め、納刀した。

それを見た贋作は刀を振るのは止めないが怒った様子だ。

まぁ、1ダメだからボクからしたらちょっと痒いだけなんだけどさ。

………普通に考えたらライバルキャラと言うか強敵設定のはずの贋作の攻撃力が低いのは何故かは分からないけど。



「なんだ!?逃げるのかオリジナル!!」


「いいえ?違いますよ。」



そも、相手の動きを止められれば良いんだ。



「抜刀術【雷切】ッ。」


「っ!?」



元のゲームでは小ダメージ+スタン効果(5秒)の効果があるスキルだ。

発動した途端、贋作は動きを止めた。



「では。サヨナラですッ!」


「ぐぁっ…!?」



そしてボクは無防備な贋作に死なない程度に思い切り腹パンした!!

男女平等パンチッってね!!

……いや、使い方違ったかな??



「か………かはっ……はふっ……あ………ぁ………


「おや…?今のを受けてまだ意識があるのですか?

(ステータスに差があるのに)案外タフですねぇ…。」



まぁ。こっちも殺す気ではやってないしね。

出来れば共存したい。 甘いとか言われるかもだけど、さ。



そんな贋作は刀は取り落としたものの、しばらくフラフラとしていたけど……?



「……指弾【回復弾】」


「……は?」



握りこんでいた拳を解き、いきなり人差し指と親指指でピストルの形をすると自身の腹に宛がってそう言った!?

待って!?贋作がそれ使えるとか元のゲームじゃ有り得なかったんだけど!?


困惑するボクに対して、回復したことで一息ついた贋作が顔を上げた、そしてー



「おい、オリジナル!!」


「っく!?」



贋作が飛び付いてきた!!

いきなりの事に咄嗟に対応出来ず、倒れ込むボクと馬乗りになる贋作、しかし贋作はニコニコと笑っていた。

え、何??可愛いんだけど!!?


もはや混乱の極みなボクは疑問をそのまま吐き出した…!



「え、なんでいきなり笑ってるのですか!?」


「は?そりゃあ、だってアタシ、アンタの事が好きだし。」


「…はぇ…?;」


「寧ろ…その…襲いかかっちまってすまないね…;

アタシは、戦いになると自分を見失いがちなんだよ…



そう言った彼女は、本当に申し訳なさそうな表情(かお)で…

ボクは思わずマヌケな声を出してしまった…;

彼女はそんなボクへ手を差し伸べて起こしてくれた。



「言っとくが、アタシにはアンタを殺すつもりはないぞ?

…だって、『アタシはアンタ、アンタはアタシ』。

アンタが居るからアタシが生まれた。

感謝こそしても、恨むなんてオカトチガイって奴だろ?」


「はっ…?えっ……?;」



困惑するボクを他所に、彼女は困った様に笑う。



「…まぁ、アタシは所謂(いわゆる)失敗作(エラー)】って奴みたいなんだよ。

だから、アンタの事が大好きだし、【癒しの力】なんて使えるんだと思う。」


「わぉ…;」


「それで…その…他の贋作(姉妹)に見つかる前に、アンタの側に駆け付けたんだが…どうやら間に合った見たいでホッとしたぞ。」


「あの…じゃあ、何故ボクに斬りかかってきたのですか?;」


「えっ?そらぁ、仲間になるなら実力を示さなければならないよな?

それで、どうだった!?アタシを護衛にしてくれるか!?」




とりあえず、悪い娘じゃ無いみたい…?;

魂を見極めてみたら、贋作としては有り得ない位に高潔な魂だった…;

ホンッットボクはチートや規格外な人を引き寄せるねぇっ!?;

とにかく…!



「…うん…ボク的にも貴女とは戦いたくなかったので喜んで!!」


「~っ!!嬉しいっ♪

よろしくなっ!お母様!!」


「ぶっ!?;」


「えっ?だって、アンタはアタシの母親みたいなもんだろ??」


「えー…;

いや、まぁ…そうかも…ですが…;」



でも心は男な上にボクはまだ前世込みでも15~6歳位だよ!?;

母親なんて…;



「あの…せめて、姉って事にはなりませんか…?;」


「えーっ?

まぁ…良いけど…じゃあ、お姉様で♪」



わぁい!!;

ダメだこれ!!;

そんなキラキラした目で見ないで!?;



「うぅ~っ…;

わかりましたよぅ…;

もう、お姉様で良いですよ。」


「ははっ!!

ありがとな、お姉様っ♪」




こうして、ボクには変わった妹が一人増えました…?;


はぁ…どうなることやら…;








それから、贋作菊一文字さんを連れて帰ってくると、早速ニコニコ顔のお母さん(ステラさん)に捕まりました。まる。



「で、キクちゃん?

そのツインテールで同じ顔をしている娘は誰なのかなぁ~?」


「ボクの双子の妹です。」



嘘は言ってない。

今の彼女は間違いなくボクの妹だ。



「どっ…どうも!アタシは妹のg―

希夜(きよ)一文字です!!;」



あっ…危ない…;

彼女が贋作菊一文字だと分かったらめんどくさい事になる…!!;

因に、希夜って言うのは妹にすると決めた時点で彼女に与えようと思ったあざなだ。

夜に出会った、希な贋作菊一文字…そうゆう意味だ。

が、お母さんにはお見通しだった様で―



「…贋作(がんさく)ね?その娘は。」


「っ…!;」


「隠さなくても良いのよ?キクちゃん。」


「うっ…あの…彼女は…悪い娘ではありませんよ…?」


「もしかて、アタシは何か不味いことを…?;」



どうしよう…!;

贋作菊一文字は、ギルドから発見次第討伐する様に言われているらしいし…!;


ボクは彼女を守るように前に出た、けれどお母さんは困った様に笑っただけだ。



「…それは、ステータスを見たら分かるわ。」


「じゃあ…!」


「…『名前変更魔法』。

まさかこの魔法の話が出て直ぐに使うことになるなんてねぇ…


「あはははは…;」


「えっ…?えっ…?」



大体アキラさんのせいってことでお願いします。


…お母さんは、贋作さん…いや…希夜ちゃんを改めて見つめながら、訊いた。




「ねぇ、贋作菊一文字ちゃん?

あなたは、新しい名前、欲しいかしら?」


「はぅえっ!?そっ…そりゃあ、お姉様がアタシに考えてくれた名前が貰えるなら…


「そう…なら、これで条件が揃ったわね。」



お母さんは、それだけ確認すると、虚空から杖を取り出した。

それは、先端にデフォルトされた黒猫の装飾が付いていて、その猫の目の部分に薄緑色の綺麗な玉がついているお母さん愛用の杖だ。



「では、今から『名前変更の儀式』を始めるわ。

まぁ、儀式と言っても、これは本人が受け入れてさえいれば簡単に済むものよ。」


「お願いします、お母さん。」


「お願いします、えーっと…?」


「私はステラよ。

盗賊団【ブレッドファミリア】のサブリーダーであり、キクちゃんの母親代わりをしているわ。」


「…じゃあ…改めて…ステラさん、よろしく頼みます…!」


「はい、任せてね。

じゃあ…キクちゃん?この子の新しい名前を詳しく教えて頂戴。」


「えっと…こう書いて…希夜(きよ)と読みます。」



ボクは、お母さんが取り出した紙…?

に、お母さんから渡されたペンで名前を書いて渡した。



「なるほどー…キクちゃんと同じで極東の国の名前ね。」



そして、お母さんは目をつむり、ボクが名前を書いた紙を巻いた杖の先端を希夜ちゃんの額に軽く当てる…



『我は願う、かの者の真名を、新たに刻む事を。

―かの者の望みし名は、《希夜》―

今、魂にその名を刻まん―


「…!」


「―はい、終わりよ♪

これで貴女の名前は『希夜』になったはず。」


「…あ。」


「うん、間違いなく名前が変わりましたね。」



因に、『希夜』となった彼女のステータスはこんな感じ。



菊一文字の妹【希夜】…Lv.18

緑属性

体力…327

魔力…185

力…395

防御…114

俊敏…220

技…324

運…255


アビリティー1【失敗作(エラー)・銃剣士】

┗剣技が中途半端になる代わりに銃が使える(Sランク適性有り)

└『指弾(エナジー・ショット)』可能。


アビリティー2【ヒーラーソウル】

┗対象に触れるだけであらゆる治療が可能、全治癒魔法使用可能。



はい、チート!!;

希夜ちゃん刀の武具精霊なのに性能が色々と刀じゃない!!;

銃をメインに刀も使えて味方の治療もできる?

それは、刀としての仕事が補助(サブ)って事!?;

しかも、アビリティー2つ持ってるとかなんなのこの娘っ!?;


その希夜ちゃんは瞳を潤ませてボクに抱き付いてきた…!



「―お姉様がくれた、アタシの…アタシだけの名だ!!こんなにうれしいことは無いよ!!」


「…うん、希夜ちゃんが喜んでくれて、ボクも嬉しいですよ。」


「うふふ♪なら今日からあなたも【ブレッドファミリア】のメンバーね!」


「えっ?

良いんですか!?お母さん!!」


「良いじゃないのよ~!

だって、キクちゃん達は明日には出ていっちゃうんでしょう?

なら、希夜ちゃんも私達の仲間って事にしておいた方が変な虫が付かなくて良いわ♪」


「なるほど…



確かに、希夜ちゃんの癒しの力は誰だって欲しがるよね…

最悪、無理矢理何処かの組織に所属させられてしまうかも知れないし…



「希夜ちゃん、あなたは早速明日からキクちゃん達の旅の仲間になってもらいたいわ。

良いかしら?」


「勿論!!アタシは最初からそのつもりだ!!」


「決まりね♪

じゃあ…正式な登録は明日からだけれど、ようこそ、ブレッドファミリアへ♪」


「よろしくお願いします…!大姉様!!」


「おっ…おおねえさま…?;」


「えっ?だってステラさんはお姉様のお姉様…だよね…?」


「いやぁ…どちらかと言えば…母親ぁ…ですかねぇ…?」


「では、お母様と呼んだ方が…?」


「うふふ♪気にしないで、希夜ちゃんの好きな様に呼んで良いわよ?」


「じゃあ…アタシも、お母様、で良いのかな…?」


「良いわよ~?うふふ♪こんなに直ぐに三人目の娘が出来るなんて♪」



お母さんは満更でもなさそうだ…

幸せそうに微笑んだお母さんは、希夜ちゃんの手を引いて中に戻って行ったから、ボクもそれに続いて―

ん?

希夜ちゃん、入る直前にチラリとこっちに振り向いて、人差し指を伸ばし、親指を立て、他の指を握り、銃の形を作って撃つ動作をした…??



「・・・希夜ちゃん、何かしたのでしょうか…?」












―この時の彼女が、冒険者ギルドからの刺客を『指弾』でこっそり倒していた事を知るのは、大分後になってから、だった。
















翌日、盗賊ギルドで諸々の処理を済ませたボクたち四人は、カノンちゃんの本当の両親を探すのと、ミーシャさんをこの街から連れ出す為に隣街へ向かう門の前に立っていた。

―カノンちゃんの両親を探す旅、それは、現状一切の手掛かりも無い状態だ。

一先ずカノンちゃんの生まれた村の実家…を目指してみる事になっている。



「―この数日間、本当にお世話になりました。」


「良いのよキクちゃん♪

私もジェイクも、本当の娘が出来たみたいで楽しかったから♪」


「つーかお前らはもう俺様達の娘だぜ?

だから、何時でも帰ってこい!!」


「…ありがとう、お父さん、お母さん♪」

「ありがとうございます、お父さん、お母さん。」


「―ええ。」


「―おうっ。

ミーシャも、気を付けてな?」


「はい、ありがとうございました♪

私もブレッドファミリアのメンバーとなったからには、それに恥じない生き方を目指しますよ!!」


「ああ、お前はウチのメンバーとしてやってく資質は充分にある。

キクとカノンを頼んだぞ!!」


「希夜ちゃん、勿論あなたもよ?

しっかり、二人を守ってね?だからと言って、自分をないがしろにするのは無しよ?」


「はい♪」


「任せといて!お母様!!」




さぁ、ここから、ボク達の本当の旅が始まる…!










































―意気揚々と四人が出ていった後、ルドルフが門の影からそっと出てきた。



「よぅおやっさん。

何で隠れてやがった?」


「なに、こんな老いぼれが出る幕では無いと思ったまでよ。」


「またまたぁ~♪

本当は、自分が居たら引き留めてしまうから、でしょう?」


「………お見通し、か。

そうだな……正直、ワシはあの四人だけでの旅は反対だ。」


「…まぁ、な。

希夜の奴はともかく、キクもカノンもミーシャも、旅の経験は無さそうだ。」


「それでも、可愛い子には旅をさせろ、でしょう?」


「…だが、ワシはお前達の側から離すのは賛同しかねる…過保護と言われればそれまでだが。」


「「本当に過保護だと思うが(わよ)。」」


「…。」


「で、おやっさんはおやっさんで菓子職人だから同行できねーから代わりに娘をやったんだろ?

ガッツリ手作り菓子持たせてよ~?」


「…フン。」


「まったく…おやっさんは不器用なんだよ。

ちったぁ素直に『行ってこい』って言えば良いんだ。」


「それが、ワシの性分だからな。

さぁ、ダラダラと喋っていないで仕事に戻るぞ若造共。」


「はいよ!!」


「はぁ~い♪」











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