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第3話:菊一文字とシュレイドの街

不定期更新です…ごめんなさい…;

6/26…ミーシャのステータスに属性表記が無かったので追記

…あれから数時間後、日暮れ前に到着出来たボク達は、門の前でジェイクさん達とは別れて検問所に並んでいた。


・・・・・あれ、よく考えたらボクとカノンちゃんはこれって結構危なくない…?


そこで、カノンちゃんと口裏を合わせる事にした。



「カノンちゃん、ここを通過する時はギルドカードを出さないで行こう。

田舎から出てきた姉妹で、身分証明書は無いって事にして。

…ボクが武具精霊だとバレたら、キミと離れ離れになっちゃうかも知れないからね。」


「えっ!?わっ、分かったよお姉ちゃん。

お姉ちゃんの言う通りにする…!」



…ちょっとズルいけど、離れ離れになりたくないカノンちゃんの心情を利用させてもらった…

なにせ、この街のギルドは今回の件の黒幕の可能性が高い。

そこにノウノウとカノンちゃんが帰ってきた何て知らせたり、ましてやボク…武具精霊を連れてきた何て知られたら、カノンちゃんが更に危険な目に遇うかも知れないからね。


…ただ、その時はジェイクさん達【ブレッドファミリア】が味方してくれそうな気がするけど。




「―次っ!!

…ん?お嬢さん達は二人だけかい??

ご両親は??」



ボクたちの担当になった門番さんの心は…白、善人だ。

ラッキーだね。

ボク達は予定通り、冒険者になる為に田舎から出てきた姉妹で、身分証明書は無いと伝えた。



「そうか…大変だったねお嬢さん。

とりあえず、身分証明書が無いなら此方で仮の物を作ろう。

後、これが各ギルドへの地図だ。

…お嬢さん達は獣人だろう?

今なら丁度、【ブレッドファミリア】の方が来ている【盗賊ギルド】がお薦めだよ。

冒険者ギルドは人族至上主義な部分があるからね…」



そう言った門番さんをよく見ると、エルフさんだった!!

ファンタジー種族に門で会う事になろうとは…



「ありがとうございます。」



そして、無事に門を通過―



「あ、それと君、…キクさん。」


「はい、なんでしょうか?」


(君、武具精霊でしょう?

だから、尚更【ブレッドファミリア】みたいなまともなグループに所属する事を強くお薦めするよ。

私も昔、リーダーのジェイクさんに助けられたからね。)



―できてなかった。

呼ばれて足を止めると、耳打ちでそう言われてしまったからだ…

やっぱり…エルフさんの前で精霊が獣人のふりしてもばれちゃうのね…

それにしても、ジェイクさんってば“ぐう聖”だね…まさに義に生きる盗賊って感じ。

だからボクはこの門番さんを安心させる為にもこう言おう。



(はい、そのつもりですよ。

何より、ボクもジェイクさんやステラさんとは寝食を共にした仲ですから。)


(成程…両人とも知り合いなら安心だね。)

「では、改めて、シュレイドへようこそ!!」


「はい、ありがとうございました♪」


「ばいば~い!門番さぁ~ん!!」



あぁ…やっぱり良い門番さんだったなぁ…

カノンちゃんとしっかり手を繋いだボクは、一先ずジェイクさん達と合流する為に【ステラの移動パン屋】を目指して歩き始めた。

地図は事前にステラさんから貰っている…


とは言え、カノンちゃんを置き去りにした冒険者とバッタリ遭遇するとも限らないから、カノンちゃんには【狐の面】と言う、頭装備でもあるお面を付けてもらった。





…やはり、それなりに大きな街だけあって、様々な魂の色がある…

表通りだから黒い魂はあまり見かけないけれど。



「…。」


「カノンちゃん…?」



気のせい…じゃないよね。

カノンちゃんは、あからさまに警戒している様子でボクの手をしっかり握っているし、

周りを(うかが)う様に視線をさ迷わせている、明らかに普通じゃない…



ボクも耳を澄ませて周りの音を拾う…が、カノンちゃんを置き去りにした冒険者とは面識がないから分からないな…


とにかく、カノンちゃんが心配なボクは彼女を抱き抱えてパン屋さんを目指す事にした。







―が、それがいけなかったのかな…?




(…後をつけられてる…?)



狐耳が、一定の距離で付いてくる足音を拾った…

どうしようか…このままパン屋さんまで行って、ジェイクさん達に迷惑をかけるのは―

いや、ダメだね、それは違う。

こう言うときは、キチンと大人や、仲間を頼らないと。

なにせ、ボクはほぼ非チートだと判明したのだから。



(カノンちゃん、恐らくパン屋さんまであと少しだから走るよ。)


(…。)こくり



カノンちゃんが頷いたのを見たボクは、残りの道を一気に駆け抜ける為に走り出した!!


すると、足音も慌てた様子も無く付いて―



「うみゃみゃっと!!」


「っ!?」


「おやおやこれは冒険者さん?

女の子をストーキングしてナニをしてるんっすか~?」


「…。」


「…ほうほう、無言で逃走っと…ますます怪しいっすねー…



こようとしたところに猫耳の少年…いや、少女が割り込むと相手は何も言わずに逃げていった…

突然割り込んできたのは―



「助かったよ、エミリー。」


「いやいや~これ位良いっすよ~!

ちょいとキクっちとカノカノが気になったからアタシが勝手に迎えに来ただけっす♪」


「ふふっ…それでも、ありがとう。」


「ありがとう、エミちゃん!!」


「へっへ~♪」



うん…やっぱり、【ブレッドファミリア】の人達は温かいなぁ…



「じゃあ、残りの道を案内するっすよ~♪」



そこからはエミリーが付いていたのもあってか、何事もなくパン屋さんへ到着出来た…



「ほいっ、到着っす!!

まだリーダー達は奴隷商人や奴隷達の引き渡しで時間かかるっすから、テキトーに寛いでてくださいっす♪」


「何から何まで助かったよ、エミリー。」


「へへっ♪お二人ももう仲間みたいなもんっすよ♪

んじゃ、アタシは近くに居るっすから何かあれば呼んでくださいっす!」




そう言ってエミリーは奥に入っていった…

因に、今のボクは警戒心MAXだから、当然の様にエミリーにもステータス看破や魂の見極めをして本人である事を確認している。

…尤も、相手がステータス看破妨害系のスキルを持っていた場合は…終わりかもしれないけれど。


だからボクは寛ぐふりをしつつもしっかりカノンちゃんは膝に乗せて抱き締めている。



「…お姉ちゃん?」


「んっ?なんだいカノンちゃん。」


「お姉ちゃん、怖いの…?」


「…えっ…?」


「今のお姉ちゃん、周りは全部が敵って…感じだから…。

そんなお姉ちゃんの方が怖いよ…。」


「カノンちゃん…



ああもう…上手く行かないなぁ…

だけれど、ボクは一般人より少し強い程度の武具精霊…勝てるところは装備と技の豊富さだけだからね…

それに、今のこれは、ゲームっぽいけれど現実の世界だ…

何か失敗して、カノンちゃんを失っても、リセットボタンなんかありはしない。


数多(あまた)の物語の主人公達は“まぁどうにかなるだろう”や“気の赴くままの行動”や“成り行き”で成功してきたみたいだけど、ボクは、そこまで楽観的に考えられない…!


それに、自分自身が病死しているから、死ぬ事の辛さは嫌と言うほど分かっているつもりだ―



「お姉ちゃん!!」


「カノン…ちゃ…んむっ?」



―何て、思考の海に沈んでいたら、カノンちゃんが力一杯ボクに抱きついて、キスをしてきた…

全身に、カノンちゃんの温もりと魔力が染みていく…

心が、落ち着いていく…



「ぷは…笑おうよお姉ちゃん!!

そんな顔のお姉ちゃんなんて、みたくないもん!!」


「・・・ははは。



本当にカノンちゃんは10歳児なのかなぁ…

純粋すぎてあぶなかっかしいのに、今はこんなにも頼りになる主様…

もう少しだけ、肩の力を抜こう…ボクは、一人じゃ無いのだから。



「―いやはや、美しき姉妹愛かな。」


「あ…ルドルフさん…お恥ずかしい所をお見せしました…


「なに、気にする必要は無い。

まぁ、ケーキでも食べて落ち着いてくれ。」



そう言ってルドルフさんが出してくれたのは、チョコレートケーキとカフェオレだった…。



「ケーキには少し酒が入っているが、酔う程では無いはずだ。

子供でも食べられるぞ。」


「ありがとうございます、ルドルフさん。」


「ありがとうルドルフおじちゃん!!」


「うむ、ゆっくりしたまえ。」



―全く、こんな良い人達相手に何を警戒していたのやら…

ボクは微苦笑してケーキを一口…

あ、本当だ…何やらアルコールの風味がふわりとした。

けれど、チョコレートによく合っている。

カフェオレも砂糖が少なめなのか苦味が強いけれど、ケーキが甘いから丁度良い…



「おいしいね、お姉ちゃん♪」


「うん。」



あまりの美味しさにあっという間に完食し…て…あれ…?

何だか、視界が…ぼやけて………………………………













「あれっ!?お姉ちゃん!?」



―突然眠ってしまった菊一文字に、カノンは慌てた。

が、訳知り顔のルドルフはそんな菊一文字を優しく見つめている。



「…眠ったか。」


「えっ?おじちゃん、お姉ちゃんに何かしたの!?」


「うむ。

ケーキには酒が入っているが、酔う程では無いと言っただろう?

ただしそれは、キクがヒトであれば、だがな。」


「…?」



分かっていない様子のカノンに、ルドルフは優しく笑って、説明する。



「ははは。

キクは武具精霊なのであろう?

ワシにはお見通しだ。

ケーキに入っている酒は、精霊が摂取すると酔うものなのだよ。」



因に、ルドルフが二人がキスしていた事に言及しなかった理由もそこにある。

武具精霊とその主が魔力補給や精霊の気分を落ち着かせる為にキスをする事を、彼は知っていた。



「…なるほど~、だからお姉ちゃんは寝ちゃったんだね?」


「うむ。

ここで再会したキクは、最初に会った時より気を張り過ぎであったからな。

まるで、手負いの獣の様で見てられなかった。

ジェイクを見て何か思う処があったのであろうな。」


「お父さん…?」


「…最早自然にそう呼ぶか…子を欲しがっていたジェイクの奴が聞いたら喜びそうだな。」


「うんっ!嬉しそうだった!!」


「中々やるではないか、カノン。」


「(?)えへへぇ♪」



カノンはなぜ褒められたか分かってない様子だが、褒められたのは分かるので嬉しそうだ。

逸れた話を戻す為か、ルドルフはわざとらしく咳払いをした。



「とにかく、キクにもここ、【ブレッドファミリア】に居る時は年相応…と、精霊殿に言って良いかは知らぬが、その様に振る舞ってほしいものだ…


「そうだねぇ…

お姉ちゃん、わたしの事を心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっと警戒し過ぎだったねぇ…


「・・・カノン、つかぬことを訊くが、キクとはどこで出会ったのだ?

ワシの見た所、キクは幼い見た目だが上位精霊とお見受けするが。」


「んー…?

お父さん…ジェイクさん達に会った近くのダンジョン…?」


「…。

嘘は言ってないようだな。

尤も、カノンに嘘がつけるとは思わんが。」



因に、ルドルフの【嘘の見極め(それ)】はスキルでは無く自身の経験による直感だ。

まぁ、対カノンに関しては大抵の人が嘘を見抜けそうだが。



「そうか…あのダンジョンにキクの様な上位武具精霊が居たとはなぁ…

まぁ、上位ともなると主を自分の意思で選ぶ様になる。

カノンは幸運だったのだな。」


「そうなの?」


「ああ。」

(この様な純粋な子供だからこそ、キクは主に選んだのであろうな…。

主を第一に考えるのは流石武具精霊、ではあるが…ワシ等にはまだ心を開かぬか…。

そんな精霊に早くも頼られ始めているジェイクとステラは凄いな…。)



因に、ルドルフは別にカノンと菊一文字を利用しよう等とは考えていない。

純粋に偶然知り合った幼子(おさなご)達が心配なのである。

心配だからこそ、子供の頃から知るジェイクとステラの元に置いておくのが一番だと、

カノンがこの調子では、恐らく菊一文字だけでは彼女や菊一文字自身を守りきる事は出来ないだろう、と考えているのだ。


菊一文字本人は勘違いしているようだが、ルドルフからしたら菊一文字は充分規格外の存在であり、それを扱い、武具精霊から渡された装備を身に(まと)うカノンも同じく規格外、それも、一歩間違えれば操りやすい殺戮兵器と化すだろうと見ている。


ただ、最初にステータスチェックをした相手が悪かったのだ。

ジェイクやステラの様な高ステータス人間がそう何人もいてはたまらない。

この世界の人間の平均ステータスは3桁以内、良いとこどれか1つが1000以上行っていればエリートなのだから。

それを考えるとジェイクもステラも大概チートなのだが。



「まぁ、ワシの話はそれだけだ、ジェイク達が帰ってくるまでゆっくりするが良い。」



そう言ってルドルフは追加のタルトを持ってくるとカノンの向かいに座り紅茶を飲み始めた。



「はむっ…ん~っ♪タルトもお~いし~い!!」


「フフッ、気に入ってもらえて何よりだ。」



このルドルフ、扱う武器や渋くて(いか)つい見た目の割りに甘党である。

先程のケーキは勿論、タルトも彼の手作りだ。



しばらく二人がまったりしていると、ようやくジェイク達が帰ってきた。



「はぁーーあ!!疲れた!!

やっぱし俺様に事務仕事は似合わねーぜ!!」


「お疲れ様、ジェイク。

けどアナタに手伝ってもらえて私は楽だったわ。」


「まぁ…一応俺様もリーダーだからなぁ…。」



なお、ここまでテンプレとか言ってはいけない。

が、今回からは違う要素がある。

それは―



「―おっ!!

キクとカノンじゃねーか!!」


「おかえりなさい!お父さん!お母さん!」


「~っ!!」



感動に震えるジェイク。

なまじ顔が整っているだけに端から見たらちょっとした変質者である。


―と、菊一文字が目を覚ました様だ―











…う…ん…?

はっ…!しまった!?ケーキは敵の罠だった!?



「っく!!」



飛び起きたボクは素早く刀を抜いて臨戦態勢に入ろうとした…けど…あれ…?



「よぉキク。

なに驚いてんだ?」


「…あ…ジェイク…さん…?」


「おう。」


「じゃあ…ここは…?」


「私のパン屋兼ルドルフさんの菓子屋よ?」


「・・・・・。」



そうは言われても、この場に居るルドルフさんはボクを眠らせた張本人だし、油断は出来ない…



「む…まぁ、ワシはキクに睨まれても仕方無い事をした。

すまなかったなキク、だがワシは、怯えているお前が見てられなかった…とだけ言わせてくれ。」


「おじちゃんを怒らないで?

本当にお姉ちゃんを心配してただけだから!!」


「ん?何があったか知らねぇがおやっさんは理由も無しにキクが怒る様な事はしねぇぜ。」


「…カノンとジェイクさんがそう言うなら…。」



まぁ、改めてルドルフさんを【見極め】ても善人を示す白…だしね。

それに、ケーキも美味しかったし。



「…ルドルフさん、許してあげるから、今度はちゃんとした美味しいケーキを下さいよ?」


「あぁ、それでキクの気が済むのなら、とびきりのをご馳走しよう。」


「約束ですよ?」


「うむ、約束だ。」


「…話はまとまったか?」


「あ…はい、ごめんなさいジェイクさん。」


「いや、気にすんな!!

キクに仲間が誤解されたままは嫌だからな!!」



あぁ…ジェイクさん、本当にまぶしい位にぐう聖…

そんなジェイクさんは話を変える様に少しテンション高めな声をだす。



「とりあえず、今日の所はキクとカノンはここに泊まってくんだろ?」


「あ…



しまった…宿の事をすっかり忘れていた…

表情(かお)にもそれが出ていたらしく、ステラさんがイイ笑顔になる。



「あらあら、宿が無いなら尚の事ここに泊まっていきなさいな。」


「…すみません、宜しくお願いします…」



…なし崩し的に【ブレッドファミリア】のアジトにご厄介になる事に…

何だか申し訳ない…けど、ステラさん達が嬉しそうなら良いかな…








またもや二人のベッドにお邪魔して一晩明かしたボクとカノンちゃんは、

スッキリ爽快な素晴らしい朝を迎えていた。



(ふかふか…)

「う…ん…?」


「おはよう、キクちゃん。」


「あ…おはやぅ…ごじゃいます…ステラしゃん…


「や~ん♪朝から可愛い~!!」


「むぎゅぅ…



ステラさん…ふわふわで温かいなぁ…

って、あれ…?



「っ!!

ステラさん!!パン屋の準備はどうしたんですか!?」



意識がハッキリしてきたら、パン屋の朝は早い事を思いだした!!

ボクを抱きしめてくれているステラさんを慌てて引き剥がすとステラさんは笑顔のまま、ボクの頭を撫でてきた…



「安心しなさいな、私達【ブレッドファミリア】のメンバーは約半分がパン屋の従業員よ?

それに、パンは遠征中に作り置きして魔法庫に入れてあるから大丈夫♪

だから今日の私はお休みよ。」


「…人数が多いって良いねぇ…;」


「うふふ、皆良い子達よ~?」

(まぁ、それでも普段はお休みなんて無いけれどね…

でも、折角だから今回は甘えちゃった♪)


「ん…ふぇ…おはよぉぅ……


「おはよう、カノンちゃん。」


「ぁ…ぉかぁしゃぁ~ん…♪」


「あらあら、カノンちゃんはあまえんぼさんね♪」


「えへへぇ~…おねぇしゃんも…おはよう…♪」


「うん、おはようカノンちゃん。」


「ん…ぐ…はよ…んぉ…?

珍しいなステラ…パン屋は良いのかぁ…?」



…そこに、寝起きのカノンちゃんやジェイクさんが加わって、何時もと少しだけ違う朝を迎えた…!


皆で朝御飯を食べたボク達は、ステラさんの付き添い(冒険者ギルドへ行くと言ったら『やっぱりね…なら私も付いていくわ。』と言ってくれた)で…冒険者ギルドに来た…!

目的は勿論ギルドに対する【魂の見極め】。

ステラさんにはカノンちゃんがギルドに裏切られた可能性がある事を伝えておいた。


そこで、ギルドに顔がわれてるカノンちゃんには、ステラさんのお下がりだと言う、目元が隠れる修道服を着てもらった。


…そして、二人には外で待機してもらって、ボクはギルドへ踏み込んだ。



(…。)



ボクが入った途端、周りの視線が突き刺さり、獣人と分かると嘲笑が混ざった視線や憐れみなんかの視線に変わる。

魂は…白や黒、灰色…様々だ。


どうやらエルフの門番さん(善人)が言っていた通り、獣人等はやりづらいらしい。

そして、【見極め】では善人を示す白な魂のはずの人の中にも嘲笑する人が居るから、それがこの世界の常識で、【ブレッドファミリア】の皆が特別…なのかもしれない。


あっ…白の魂を持つダークエルフさんが居…た…って知り合いじゃないかな!?;



「スノウさん!?;」


「あ、来たねキクちゃん。」



スノウさん。

さっき言った通りの善人なダークエルフさんで、【ブレッドファミリア】のメンバーである。

白銀の髪に蒼の瞳で無表情(常にジト目)の幼い見た目な人(ただし、100歳を軽く越えている)で、諜報等の潜入捜査担当のアサシンさんである。



「・・・・・。」



後ろに居るはずのステラさんを見ると、ピースサインを額にあてながらのウィンク、そしてチロリと舌を出す…所謂“てへぺろ”をしてきた。

意味がわかってないのか、カノンちゃんも真似をしていた。

前を向くとスノウさんが満面の無表情でサムズアップをしていた。

うん、オキヅカイアリガトウゴザイマス。


まぁ、ステラさんもスノウさんも善意100%だからね、仕方無いね。


とりあえず、そのスノウさんと一緒にギルドの受け付けに来た。

スノウさんはあからさまに『後輩の付き添いですよ?』感を出しながらボクの右斜め後ろに立った。



「ようこそ、冒険者ギルドへ。

ご依頼ですか?」


「えっと、新規登録に来ました。」


「では、此方の用紙に名前と種族と得意武器をご記入ください。」


「…。」



この受付嬢は…灰色の魂。つまり中立だ。

他の受付嬢も中立。

イマイチ釈然としない。


ボクはわざと字が読めないフリをしてみる。

…受付嬢は『やはり獣人は低脳だな』と言いたそうな小馬鹿にした様子になる。

うん…やはりこのギルドは黒かな?

そう判断しようとすると、右側の受付嬢さんの魂が、灰色を突き破って白く輝きだした!?



「…やっぱり…可愛い獣人ちゃんを見て見ぬふり…なんて出来ない…です…!

貴女は私と代わりなさいッ!この子の受付は私がやります!」



そう言ってボクの目の前に居た受付嬢を無理矢理退かした受付嬢さんは優しい、安心させる様な笑顔でボクに話しかけてきた。



「貴女、大丈夫でした?

字が読めないなら私が代わりに読みますし、書けないなら代筆もしますよ?」


「…ありが…と…!?」



だけど、その瞬間、ギルド全体の雰囲気が変わった。

スノウさんと受付嬢さん、そしてステラさん、カノンちゃん…ボクも含めた5人以外の全員が武器を構えた…!?


そして、その中の一人、黒い魂の人間がニタニタしながら出てきた。



「へッへッへッ…アンタはこれで、もう何10回目の規約違反だろうなぁ…?

いい加減、ギルドマスター様もお怒りだから処刑させて貰うぜぇ…?」


「…最後に言い残す事は無いかしら?ミーシャ。」



更に、ボクをあざけ笑った受付嬢が白い魂の受付嬢さん…ミーシャさんの首元にナイフを突き付けていた。



「私は、間違った事を何もしていません。

あなた達が殺したカノンちゃんにしてきた事だって、間違ったつもりはないです。

カノンちゃんを殺した事も!カノンちゃんの為に用意した冒険者達を殺した事も、私は死んでも恨み続けてやる!!

死んでも私は!獣人の味方で在り続けるッ!!」



だけど、ミーシャさんは、誇らしげにそう言ったので―



「グッ!?」


「「…合格 (ですね)。」」


「―えっ?」



―それを見たスノウさんが投げたナイフが嘲る受付嬢の手に刺さり、ボクが投げたクナイは黒い魂の人間の手に刺さった。

二人が武器を取り落とすと同時に、既に動いていたステラさんがミーシャさんを保護、そこからボクとスノウさんで周りを牽制しつつギルドの出入り口まで下がると…

ステラさんがミーシャさんを背に庇いながら声を張り上げた!!



「―私達は【ブレッドファミリア】!

【義】によってミーシャさんの身は私達が預かるわ!!」



―【宣言】。

これも盗賊ギルドのルールの1つ、【合法誘拐】の為の儀式だ。


盗賊ギルドに認められた【義】にのっとった

誘拐は、国に認められた手続きの要らない【保護行為】である。

…当然、事後報告でギルドに違反と見なされれば処罰されてしまうけれど…

でも、ステラさん達は盗賊だ。

盗賊に【捜査令状】や【逮捕令状】等の【令状】は必要ない。

全ては自分のチームの【義】を通すまで、なのだ。


そして、スノウさんもステラさんに続いて宣言する。



「…我々の【義】は獣人の味方の味方。

ミーシャはワタシ達の客人、キクとカノンに便宜をはかってくれた。

よって、ミーシャは我々がいただいていく。

不服ならば、かかってくるが良い。」


『…。』


「…腰抜け共め。」



決まりだね。

ギルドは黒、この受付嬢…ミーシャさんは白。

そうゆうことだったらしい。

それに、カノンちゃんは一緒に居た冒険者さん達に裏切られた訳じゃ無いらしい。



とにかく、ボク達はミーシャさんを連れてアジトへ帰還した。









「…一体…何が起きたのですか…?」


「お姉さん!!」


「…!

カノン…ちゃん!?生きていたのですか!?」



状況が掴めず、混乱していたミーシャさんは、カノンちゃんの姿を見ると顔を綻ばせた。

そして、本当に嬉しそうに抱きしめて頬擦りする。



「幽霊じゃない…

うぅっ…良かった…良かったですぅ…♪

カノンちゃんは…生きていたのですね…!」


「うんっ♪

それにね、わたしにお姉ちゃんができたの!!」


「お姉ちゃん、ですか…?」


「キクです、よろしくお願いしますね、ミーシャさん。」


「まぁ…!貴女がお姉ちゃんですか…!素敵ですね…!」



ボクを見るミーシャさんの瞳はキラキラしている。

本当に…良い人だなぁ…

そんな良い人を助けられて良かった…


そんなミーシャさんの容姿は、草原の様な緑髪に紅い瞳の、春の日差しの様な優しい雰囲気のお姉さんだ。

…胸が、ステラさんと一二を争う程ご立派だね。


と、そのステラさんがニコニコしながらミーシャさんに話しかける。



「落ち着いた?ミーシャさん。」


「あ…ありがとうございますシスターさん。

あぁは言いましたが、やはり死ぬのは怖かったので…///」


「いえ、お礼ならキクちゃんとカノンちゃんに言ってちょうだい。

二人が私達の客人でなければ、私達【ブレッドファミリア】は動かなかったわ。」


「・・・・・【ブレッドファミリア】…!?」



あ、ミーシャさん固まった。

…そして、震えたかと思うとまた目を輝かせた!



「感激ですぅ!

まさかあの獣人の味方である義賊集団!【ブレッドファミリア】の皆さんに助けられるなんて!!」


「あらあら、私達は有名ね♪

それで…あなたはどうするつもりなのかしら?

もうあのギルドには戻れないでしょう。」


「決まってます!

私はキクちゃんとカノンちゃんに付いていきますよ!!

こう見えて私は攻撃魔法と治癒魔法の両方が使える【ビショップ】なので♪」


「わぁ~!!すご~い♪」



高位聖職者(ビショップ)】…。

この世界では攻撃魔法と治癒魔法、その両方を扱える者をそう呼ぶらしい。




獣人好きのビショップ【ミーシャ】…Lv.20

人間:女

20歳

白/黒属性

体力…1500

魔力…3000

力…25

防御…500

俊敏…100

技…480

運…313


アビリティー【セイント・マジック・ユーザー】

┗魔力が極端に上がりやすく、攻撃・治癒両方の習得速度、練度上昇率に極大補正。

体力・防御・技も若干上がりやすくなる代わりに力が極端に上がりにくくなる。



…えっ?

なんだろう…このチートアビリティー…?;

ボクはチートなヒトと知り合うチートなの!?;



「キクちゃん、カノンちゃん、これからよろしくお願いしますね♪」



こうして、チートなビショップさんである元受付嬢、ミーシャさんが仲間になった…;



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