第1話:菊一文字と狐幼女
6/27…仕様の変更により菊一文字とカノンのステータスを修正
10/30…仕様の変更によるステータスの大幅修正開始
―あれ…?
ボクは…死んだんじゃなかったっけ…?
ぼんやりと再び浮上してきた意識に、不思議に思いながらも目を開いた。
すると、そこは病院のベッドではなく、何故かボクは液体に満たされた球状のナニかの中に居た…
液体の中に居るのにボクは息苦しく無くて、むしろ心地の良い感覚で…
微睡みそうになったボクは、そこで重大な変化に気付いた…!
(あれ…ボクの…アレがない…?)
男であれば誰もが股間に持つ、アレ。
それは完全に消失していて、代わりに女の子の象徴が、鎮座していた…しかも、胸もそこそこ大きく膨らんでいる。
だけど、変化はそれだけじゃない。
(髪の色が…)
日本人らしい黒髪だったはずのボクの髪は、白金になり、長く長く伸びていた…!
液体の中だから一緒に浮いてるけれど、恐らく腰の辺りまであるんじゃないかな…?
そして、ボクは鞘に入った刀を抱き締めていた…
そこで、ボクは理解した。
そう…ボクは、妹がやっていたゲームのキャラクターになっているのだと。
そのゲームは日本刀や洋剣、所謂『刀剣』が美少女として登場するゲームで、妹はその内の一振り、ゲーム的にはとっても有名な“菊一文字”を愛用していた。
菊一文字は白金のロングヘアーで、右耳の上辺りに菊の髪飾りを着けていて、右が蒼、左が翠の大きな瞳をしていて、何時もニコニコと微笑んでいる大人しい娘。
今こそ全裸だけれど、服装は菊の模様が入った空色の着物で、黒いブーツを履いていたはず。
服装が滅茶苦茶な気がしないでもないけど、あのゲームは和洋折衷…と言えば聞こえは良いけど、ごった煮だったし。
戦うと強いけれど、戦いは好まず、戦闘後には争いの多い世の無情さに泣いてしまうとか、そんな設定だったかも。
ゲームではシステム上いくらでも戦えていたけど。
後、偽者(贋作)が多いとか。
敵キャラクターの中には【贋作菊一文字】も含まれていたとは妹の言。
因に、戦いに躊躇しない分本家【菊一文字】より凶悪な性能だったらしい。
必殺技【刹那燕返乱舞】に何度泣かされた事か…と妹は言っていた。
ナニソレ厨二…?
閑話休題。
とにかく、妹はかなりあのゲームをやり込んでいたから、菊一文字はかなり強いんじゃないかな…?
もしかすると、これは暇な病室で読みあさっていたチート転生小説の様な展開…?
そう期待してステータスを見てみると…
武具精霊【菊一文字】…Lv.1
青属性
体力…440
魔力…370
力…140
防御…200
(!)俊敏…180
(!)技…290
(!!)運…2525
固有アビリティー
【???】
…ステータス、レベル1になってるけど、運だけ4桁で2525っておかしくない?
いや、そもそもこれ、この世界ではどうなの?
強いの?弱いの!?
なにこれ、中途半端にチート…?
と言うか、何故に菊一文字が氷属性っぽくなってるのだろうか…?
固有アビリティーも不明になってるし…
確かに菊一文字は一振りではなく、むしろ、【菊一文字】という銘の刀自体は存在しないとさえ言われているけれど…
もしかしたら、ボクが入り込んだ影響かもしれないね。
そうだ、装備品は…?
確かあのゲームは頭、胴、右手、左手、腰、足、アクセサリーと7つも装備できる装備ゲーらしいし。
装備品(現在武器以外無効)
武器…菊一文字(自分自身の為、変更不可。)
頭…白狐耳の飾り(Lv.MAX)
胴…蒼の羽織(Lv.MAX)
右手…蒼の籠手(Lv.MAX)
左手…黄金の籠手(Lv.MAX)
腰…白狐尾の飾り(Lv.MAX)
足…駿足ブーツ(Lv.MAX)
アクセサリー…技巧の指輪(Lv.MAX)
・白狐耳の飾り(青属性)
┗力に600の補正、装備と同属性なら900の補正。
┗得意技の威力上昇
┗青属性へ属性変更
・蒼の羽織(青属性)
┗体力に350の補正、同属性なら525の補正。
┗防御に100の補正、同属性なら150の補正。
┗氷結無効
┗カウンターフリーズ(防御成功で相手を氷結)
・蒼の籠手(青属性)
┗力に1000の補正、同属性なら1500の補正。
┗フリーズ(通常攻撃に凍結を付与)
・黄金の籠手(無属性)
┗力に1000の補正。
・白狐尾の飾り(青属性)
┗防御に600の補正、同属性なら900の補正。
┗装備習得技の威力上昇
┗青属性へ属性変更
・駿足ブーツ(無属性)
┗力に500の補正。
┗俊敏に50の補正。
┗回避性能強化
┗回避距離強化
┗ジャスト回避成功で一定時間無敵
・技巧の指輪(無属性)
┗力に500の補正
┗技に100の補正
┗会心撃ダメージ2倍
武具精霊【菊一文字】…Lv.1
青属性
体力…440(+525)=965
魔力…370
力…140(+4400)=4540
防御…200(+1050)=1250
俊敏…180(+50)=230
技…290(+100)=390
運…2525
あ、これ装備チートだ。
属性も装備品のせいみたいだし。
他にもチート級装備品や装備技がストレージに沢山ある…
妹がどれだけやり込んだかは知らないけれど、とりあえず攻撃力重視で装備品を鍛えていたのは分かった。
とは言え今は装備品は無くて全裸。
つまり装備品は効果が無い。
早速刀で球状のナニかを斬りつけてみたけれど、何も意味がなさそうだ…
諦めたボクは、微睡みに身を任せた…
―んぅ…?」
次に目を覚ましたのは、誰かの声が聞こえたから。
この、謎の球状以外には何もないはずの部屋で、女の子のすすり泣く声が聞こえた…
けれど、不思議と恐怖は感じなかった。
もしかしたらこの身体になった事で心の在り様も変わったのかもしれない。
とにかく、その声の主を確かめる為にボクは声のする方へ顔を向けた。
すると―
「うっ…ぐしゅ…これからどうしよぅ…装備品は何もない…お金もアイテムも全部盗られた…偶々転移罠に嵌まったからモンスターからは逃げれたけど…えぐぅっ…
―狐耳と尻尾が生えた小さな女の子が泣いていた。
でもやたら説明っぽいね。
自分自身で状況を整理していたのかもしれない。
ただ、ボクが言えるのは1つだけ。
“この娘を主にしたい”
そんな欲求だった。
もしかしたら、それが今の、『武具精霊』に転生したボクの性なのかも。
と、軽く思考をしていたら彼女がボクに気付いたみたいだ。
「きゅっ…!?」
「…。」
まぁ、残念ながらボクは液体の中だから喋れない訳だけど。
だから代わりに親愛を込めて微笑んでみた。
そんなボクと目があった彼女は、しばらく固まっていたけれど、正気にもどっ―
「きゅ~っ!!?
はだかの女の子!?あなた大丈夫なの!?
はっ、早く出してあげないと…!」
―て無いね。
何かドタバタしだした。
あ、何かスイッチ的なの押した。
わぉ。
球状のナニかが開いて液体と共にボクは流れ落ち、それと同時に装備も有効になったのか自動的に装備された…
液体は装備をすると同時に乾いたし、本当になんだったのだろうか…
まぁとりあえず、この世界で初めての呼吸は普通に出来た。
「…ふぅ。
呼吸は普通に出来るんだ。」
「あわわっ…大丈夫なの…?」
「ん…?
あぁ、ありがとう主様。
ボクはこの通り、何ともないよ。」
「えっ!?
主…様…って…?わたしが…?」
ふふっ…いい感じに混乱してるね。
とにかくこの娘の武器になりたいし、このまま押しきってしまおうか。
「そう、キミが最初にボクを目覚めさせた。
だからキミがボクの主様だ。
ボクの名前は【菊一文字】、これから宜しくね?」
「あっ…うん…わたしは【カノン】、よろしくね、キクイチモンジさん…?」
「長いから【菊】って呼び捨てでも良いよ?」
「えっ…でも、キクイチモンジさんの方が年上っぽいし…
「なら、菊ちゃんならどう?
ボクもキミの事はカノンちゃんって呼ぶから。」
「あっ…それなら…うんっ♪宜しくね、キクちゃん!!」
「ふふっ…宜しくね、カノンちゃん。
じゃあ、契約の証として、接吻…キスを、しよう。」
「えっ!?///」
「…イヤかい…?」
「うっ…ううん…優しく…してね…?///」
「…大丈夫、力を抜いて―
ボクはカノンちゃんの顔を両手で優しく包み込むように持ち、そっと唇を重ねた…
「…んぅ…ちゅ…くちゅ…
「んっ…はふっ…はふぁぁ…///
カノンちゃんはされるがままなので充分になる位に彼女の口内に舌を這わせて魔力を認識、ボクに馴染ませてゆく…
やがて、完全にカノンちゃんの魔力がボクに馴染んだのを感じたからカノンちゃんの唇から自分の唇を離した。
「…ふふっ、これで、契約完了だよ。」
「ふぁい…///」
こうしてボクは狐耳の女の子、カノンちゃんを半ば強制的に主にした。
ゲーム的に表現するなら
▼菊一文字は無理矢理カノンと契約した!!
と言ったところかな?
さて、ここで主様のステータスを確認してみよう。
契約者【カノン】…Lv.13
10歳
赤属性
体力…131
魔力…105(+150)=255
力…72
防御…81(+151)=232
俊敏…91(+1)=92
技…108
運…10×測定不能
装備品
武器…無し
頭…無し
胴…インナー
右手…無し
左手…無し
腰…お気に入りのリボン
足…くつ
・お気に入りのリボン(Lv.1)【カノン専用】
┗カノン専用、カノン以外には装備不可。
┗魔力と防御に150の補正。
┗幸運の加護?
→危機に陥った時に良い事が起こる…かもしれない。
・・・カノンちゃんの方がレベルが高い割りにステータスが低いね。
それに、仮にも冒険者がしている様な格好じゃないよね。
一応、知識の中にある情報的にはここはダンジョンの中みたいだし。尚更子供がこんな所にこんな格好で居るのはおかしい。
気になるし主様が心配だ…
「ねぇカノンちゃん。
何故、危険なダンジョンの中で装備を何も着けてないの?」
「あぅ…それは―
何とかフワフワした感じから戻ってきたカノンちゃんから詳しく話を聞くと、どうやら彼女はパーティーメンバーに裏切られたらしい…
野宿で寝ている間に装備品を始めとする持ち物全て(売れないもしくは使えないと判断されたインナー、リボン、くつは除く)を盗られてダンジョン内に放置されたとか。
それから、宛もなく、だけど出口を目指して歩いていたらモンスターの群れに遭遇、逃げる途中で転移罠に嵌まり偶然この部屋に跳ばされて来たみたい…
多分、加護の影響かも?
「あはは…だけど、仕方無いよね…わたしは、レベルの割りにステータスが低いんだもん…
「…カノンちゃんのステータスは低い方なの?」
「…うん…。」
そう言ったカノンちゃんは耳もぺたんと倒して落ち込む…
でも、そんな事は無いと思うんだよねぇ…だって、彼女の固有アビリティーは…
固有アビリティー
【大器晩成】
┗レベルアップ毎の能力上昇値は4で固定、レベルが10を越える毎に上昇が+4。
レベルが50に達すると全ステータスが2倍になり上昇値が25で固定される。
あー…でもこの世界での平均値はLv.20前後…
死に物狂いでLv.50にして大器晩成が発動する頃には冒険者引退だとしたら…死にスキル…いや、死にアビリティーって奴かぁ…
でもさ、これって、ボクと出逢ったから彼女は…
うん。
カノンちゃんは大切な主様だもの、ならボクがバッチリサポート―
菊一文字の固有アビリティーが覚醒!!
【ステータス付与】
┗主のステータスが菊一文字との合計値になる(菊一文字自身が装備している装備品による上昇値は乗らない)。
主の武器も【菊一文字】固定化。
わぉ。
いきなり主様強化計画が終わっちゃったよ。
流石チート。
って、違うか…
だって、ステータス共有に装備品効果は含まれないし。
契約者【カノン】…Lv.13
10歳
赤属性
体力…131+440=571
魔力…105+370(+150)=625
力…72+140=212
防御…81+200(+151)=432
俊敏…91+180(+1)=272
技…108+290=398
運…10+2525=2535×測定不能
でも、多少はマシになったかな?
運に関しては多少レベルじゃないけど。
そうなると運以外は平均的冒険者レベルかそれより低いくらい…かな…とにかく、ボクが強くなればカノンちゃんも強くなるみたいだし、頑張ろう。
そう決めたボクはこの部屋を出る事に―
いや、まてよ…?
1つの可能性を閃いたボクは、ストレージからボクの使っていない装備を取り出してみた。
「ねえカノンちゃん、この籠手って装備できる?」
「えっ…?キクちゃん、今何処から出したの??」
「…ボクは武具精霊だからね。」
「なるほど~!!」
…カノンちゃんが素直な子で助かった…
どうやらこの世界ではストレージは一般的では無いらしい。
と言うか、まだカノンちゃんはステータス共有に気付いてないのかな?
「とにかく、それを装備してみてよ。」
「うんっ。
っしょ、着けれたよ~♪」
素直に装備するカノンちゃん。
いや、確かにボクはカノンちゃんの武具精霊にはなったけど、もう少し疑うとかしないの??
まぁいいや。
もう一度ステータスを見てみると―
契約者【カノン】…Lv.13
10歳
赤属性
体力…131+440=571
魔力…105+370(+150)=625
力…72+140(+1500)=1712
防御…81+200(+151)=432
俊敏…91+180(+1)=272
技…108+290=398
運…10+2525=2535×測定不能
「・・・・・。」
あ、これはあれだね。
Lv.50目指さなくてもとりあえず装備品で補えちゃうね。
ボクはカノンちゃんに合う装備を片っ端から装備してあげた。
その結果―
契約者【カノン】…Lv.13
10歳
赤属性
武器攻撃力…【菊一文字】7652*30%
体力…131+440(+300)=871
魔力…105+370(+150)=625
力…72+140(+2900)=3112
防御…81+200(+1990)=2271
俊敏…91+180(+50)=321
技…108+290=398
運…10+2525=2535×測定不能
装備品
武器…菊一文字(攻撃力4540、クリティカル率30%)
頭…耳飾り(狐獣人用)(力+900、必殺技強化)
胴…紅の胸当て(防御+340、火傷無効)
右手…紅の籠手(力+1500、火傷付与)
左手…護りの籠手(防御+1500、被クリティカル無効)
腰…お気に入りのリボン(魔力&防御+150、加護?)
足…俊敏ブーツ(力+500、俊敏+50、回避性能強化、回避距離強化、ジャスト回避無敵)
アクセサリー…真・命の護符(体力+300、1日3回まであらゆる死を肩代わり、1日に3回以上肩代わりで破損)
そんなチートステータスになった。
このダンジョンは初級~中級、まぁこのステータスなら難なく脱出出来そうだね。
「…じゃあカノンちゃん、そろそろここを出よっか?」
「えっ…?でも…
「大丈夫、ボクがキミの剣になり、キミの事を守るから。
それに、今のキミにはちゃんと武器があるよ。
ほら、心で念じてみて?」
「…。」
ボクに言われるがまま、カノンちゃんが瞳を閉じて胸の前で祈る様に手を組む…すると、カノンちゃんの前にボクが扱うものより小さな、短刀タイプの菊一文字が現れた。
それでもその菊一文字の攻撃力はボクの【力】の値(共有分、装備品分含む)がそのまんまに与えられているから十分にチート武器だったりする。
何より、この刀はカノンちゃん以外には使えないし、カノンちゃんを斬る事は出来ない。
「わぁ…これ…キクちゃんとお揃い…?」
「そうだね、むしろ、ボク自身と言っても過言じゃ無いよ。」
宙に浮く状態で現れた刀を手に取った彼女は、その軽さに驚いた。
「すごい…!手に馴染むよこれ…!それに、まるでわたしの身体の一部みたいに重さを感じない…!」
「ふふっ♪気に入ってくれたかな?」
「うんっ♪ありがとうキクちゃん!!」
うんうん。
やっぱり主様の喜ぶ顔を見るのは嬉しいね。
さぁ、改めてダンジョンを脱出しよう。
真っ白な部屋は、ボクが目覚めた影響なのか扉が出現していたのでボクが先に開けて外の様子を伺う…
「…魔物は居ないみたいだね。
さぁいこう、カノンちゃん。」
「うんっ♪」
無邪気に笑ったカノンちゃんはそのままボクの腕にしがみついてきた…
「…あの、カノンちゃん…?」
「えっ…ダメなの…?」
「……。」
確かストレージには遠距離攻撃技もあったよね…
ボクの得意技は抜刀術【燕返し】(瞬速の三連撃)、必殺技は抜刀術【刹那一文字】(突進技)だから腕にしがみつかれると出来なくなっちゃうんだけど…
主様にそんな寂しそうな表情をされたら…
「いや、構わないよ。
近くに居てくれた方が守りやすい。」
「えへへっ♪ありがとう!」
武具精霊として断れる訳無いでしょ?(言い訳)
まぁとりあえず、遠距離攻撃技で攻めよう、基本的に遠距離攻撃はクセが強くて威力が低いのだけれど。
候補としては投擲術【苦無】や【曼珠沙華】、【苦無】に関してはご存じのクナイを真っ直ぐに投げる技、【曼珠沙華】は火傷効果もある炎を纏ったクナイを投げる技、両方とも敵にほぼ一瞬でヒットする数少ない素直な遠距離技だ。
他にもあるにはあるが、使いづらい。
―おっと、魔物かな?
現れたのは…おやおや、いきなりオークかい?
でも、初戦だから油断はしない。
まだ此方に気付いていない豚さんの頭や背中に向かってボクは【曼珠沙華】を4発放った。
因に、全ての技にはクールタイムが設定されていて、強化する事で威力を上げたり、クールタイムを短くしたり、技のストック数を増やしたり出来る。
この『ストック数を増やす』、がミソで、増やせば当然その数だけクールタイムを無視して連続で技を放てる。
最大ストック数は3、合計4連続で放てる訳だ。
…そんなボクに、“魔力”のステータス何て要るのかな…?
っと、オークはどうなったかな?
『ブモォォォ…!!』
どうやら燃え盛るクナイが脂に引火したみたいだね。
さしずめ“上手に焼けました♪”って所かな…?
こんがりと美味しそうな香りを漂わせながらオークは絶命した。
と言うか、オークって食べれるの?
「ねぇ、カノンちゃん―
「なぁに?キクちゃん!!」
「…食べれるんだ。」
―と思ったら既にカノンちゃんは手早くオーク肉をさばいていた。
そう言えばまだお腹が空いてないか訊いてなかったものね、
って言うか菊一文字の初使用がこんがりオーク肉の解体って…;
遠距離技で瞬殺…ボクの刀としての意義が無いような…?
因に、こんがりオーク肉は大変美味でした。
是非塩コショウ何かで味付けして食べたいね。
少女と幼女なボクらにはオークは大き過ぎて食べきれなかったから残りはストレージに仕舞った。
ストレージの中には…食料としては
【カレーライス】【パン】【肉じゃが】【刺身】【ステーキ】【サラダ】等の料理、
【飴】【蜂蜜】【クッキー】【チョコレート】【ショートケーキ】等のおやつが入っていた。
飲み物系統は【牛乳】【ココア】【ビール】【ワイン】【ウィスキー】等。
これらは本来、キャラクターとの好感度を上げる為のイベント、“会食”に使う食事アイテムだ。
でも今は貴重な食料だね。
今はそこに【こんがりオーク肉】も加わった。
どうやらストレージの中は時が止まっているらしく、取り出してみたカレーライスはホカホカで、サラダはみずみずしかった。
他にはイベントで集めたらしい衣装もあるし、夏イベントで手に入れたらしいテントと寝袋、ランタンとかも入っていた。
…ダンジョン探索、結構快適ではないだろうか?
それに、つくづく思うけど今まで戦った事もないボクがオークやオークの死体を相手に恐怖心を抱かなかったのは…やはり武具精霊になったから…なのかなぁ…
いや、でもカノンちゃんは10歳の割りには魔物の死体や解体に慣れてるみたいだし…流石冒険者…と言った所かな?
「よし、お腹も膨れたし、出口を目指そう、カノンちゃん。」
「は~い♪」
それから何時間経過したのかは分からないけれど、ボクたちは難なく地上にたどり着いた。
【苦無】と【曼珠沙華】だけで対抗出来た辺り、やはり初級~中級と言った所だったのだろう。
尤も、それは装備品のお陰なのだろうけど。
因に、基本的に魔物はボクが倒していたのでボクのレベルはガッツリ上がってたりする。
白銀の狐っ娘【菊一文字】…Lv.15
青属性
体力…844(+525)=1369
魔力…808
力…1129(+3500)=4629
防御…1201(+150)=1351
俊敏…360(+50)=410
技…454(+100)=554
運…2525
契約者【カノン】…Lv.14
10歳
赤属性
武器攻撃力…【菊一文字】8738*30%
体力…139+844(+300)=1283
魔力…113+808(+150)=1071
力…80+1129(+2900)=4109
防御…89+1201(+1990)=3280
俊敏…99+360(+50)=509
技…116+454=570
運…10+2525=2535×測定不能
んん…?何やら一部ステータスに違和感が…?
それはそうと、どうやらこの調子だとカノンちゃんは冒険者になったその日に裏切られたっぽいね?
いや…転移罠に嵌まったらしいから、本当はもっと浅いところに居たのかも…?
「ねぇ、カノンちゃんはいつから冒険者をしているの?」
「2~3ヵ月前から…かな。
冒険者になるには10歳以上ってルールがあるから、本当はお父さんとお母さんが帰ってこなくなってすぐに冒険者になりたかったけれど。」
「ふむふむ。」
「それで、最初は一人だったけれど、わたしとパーティーを組みたいって人達が現れて…わたしの事を心配してくれていた受付嬢さんも一人より安全だからってオススメしてくれたから一緒に行動してたの…
「だけど、そいつらはクズだった…と…?」
「あはは…ばかだよねぇ、わたし…でもね?」
話している内に泣きそうな表情になっていったカノンちゃんは、だけど、ボクに抱きついて太陽の様な笑顔になる。
「そのお陰で、わたしはキクちゃんと出逢えた♪
ありがとうね、キクちゃん…ううん、キクお姉ちゃん!!」
「…えっ…?」
「…ダメ…?」
「あ、ううん、ダメじゃないよ。
ただ、何でお姉ちゃんなのかな、と思ってね。」
「えっ…だって、キクちゃんもわたしと同じ…ううん、わたしよりつよい白狐族なんでしょ…?
だから、お姉ちゃんって…
「あ…。」
そっか、今のボクには白狐耳の飾りや白狐尾の飾りで見た目が狐獣人っぽくなってるんだ…
「…ごめん、ボクは白狐じゃないよ…
そう言いながら装備を解除しようとしたけど―
▼白狐耳と白狐尾は外す事が出来ない!!
なんだってー?
何度試しても、耳や尻尾を引っ張っても…
▼白狐耳と白狐尾は身体と同化している!!外す事が出来ない!!
「っく…!痛い…
「…ごめん、なさい…キクちゃん…
そんなボクの様子に、自分が獣人であることが恥ずかしいのだと思ってしまったカノンちゃんがしょんぼりしてしまう…
ボクは慌ててフォローした。
「ちちっ、違うよ。
ボクは本当に狐獣人じゃなかったんだ。
だから、キミの夢を壊すのは申し訳無いけど、嘘はつきたく無いしボロが出ると思ったからで―
違う…ね…ごめん、カノンちゃん。
ボクは狐だよ。キミと同じだ。」
「でも…キクちゃんは獣人が嫌なんでしょ…?」
「嫌なわけ無い!!嫌ならキミと契約しないよ!!」
ボクは速攻で否定した。
だって、ボクはカノンちゃんだから契約しようと思ったのだし、獣人に嫌悪感なんかあるはずないっ!!
証拠としてボクのステータスを見せた。
当然、装備枠には狐耳が表示されている。
装備品
武器…菊一文字(自分自身の為、変更不可。)
頭…白狐耳の飾り(身体同化、他の頭装備(獣人用含む)を更に装備可能)
→頭2…なし
胴…蒼の羽織
右手…蒼の籠手
左手…黄金の籠手
腰…白狐尾の飾り(身体同化、他の腰装備(獣人用含む)を更に装備可能)
→腰2…なし
足…駿足ブーツ
アクセサリー…技巧の指輪
えー…なにこれ。
ボクの装備チートが止まらない…?狐耳同化しちゃってるとかなんで?
もしかして、ボクがカノンちゃんと契約したから…?
狐獣人の魔力が装備品であったはずの付け耳や尻尾を本物にしてしまった…?
「・・・・・。」
「…これで、納得してくれる…?
ボクは元々、人型の武具精霊だった…って。」
「…うん…だけど、今は狐で、わたしのお姉ちゃん…でしょ…?」
そう言ったカノンちゃんは…
縋る様な視線を向けてくる…
そうか…寂しかったんだ…カノンちゃんは…
その姿に、前世の妹の姿が重なる…
ボクは、そんなカノンちゃんをしっかりと抱きしめた。
「こめんね、カノンちゃん。
こんなボクで良いのなら、ボクはキミの姉で在るよ…
「うんっ…うんっ…!お姉ちゃん…お姉ちゃん…!!」
ダンジョンを無事に抜け出せた事で、気が緩んだのかも知れない。
カノンちゃんは今まで無理をしていたのだろうね…
ボクに縋るカノンちゃんは、年相応の女の子だった…
だから、ボクは改めて思う。
彼女は、絶対にボクが守り抜くんだって…!