第13話:利刀と菊一文字
…………あれから、どれだけの時間が経っただろうか?
もしかしたら、全く時間が経っていないのかも知れない。
だけど、僕は消えない。
1度、思い切り自分を殴ってみたけど、そもそも力のステータスも防御のステータスも同じだから自殺出来やしない。
まさに、村正からの制裁だ。
生き地獄だ………何も出来ない間に、きっと、カノンちゃんや、父さんや母さんは………
ミーシャやエミリー、ルドルフさん達は………
「…はぁ…見ていられないですねぇ…。」
「………誰。」
「おや?ボクが誰なのかは自分が1番分かっているのではないでしょうか。」
「…………えっ。」
聞き覚えのある声に、目を開けて声のした方を見ると……
そこには…………
「…菊一文字…。」
「はい、菊一文字です。
この世界では初めまして、ですね。隊長さん…のお兄さん?」
「……僕は利刀だよ。」
「はい、利刀さん。」
僕が名前を告げると、菊一文字は目を細めて優しい微笑みを浮かべた。
…なるほど、妹が『菊たんマジ天使っ!』って言っていたのも納得の笑顔だ。
なんて、現実逃避をしてみる。
「…で、なんでここに菊一文字が…?」
「それはですねぇ…ここが、ボクと利刀さんの心の世界だから、ですよ?」
「…………なんでもありかな。」
「元も子も無い事言いますね?」
ははは…全く。
ファンタジィな世界だからって、今度は心の世界と来たか。
いやはや、何とも……………
「それで?本物の菊一文字は僕になんの用かな?
もしかして、君も今まで菊一文字を騙っていた僕への制裁かな?」
「ははは、まさか。
ボクは、ボクの主様を………カノンちゃんを救いたいだけさ。
なんと言っても!ボクにとって彼女は最高の主様だからねぇ………!!」
「ほほう………?」
菊一文字……君って中々にいい趣味してるね?
その菊一文字は恍惚の顔で高らかに語る。
「あの大きくてモフモフの耳や尻尾!
あどけなさのある可憐な容姿!!
鈴を転がす様な心地の良い声!!!
性格も無邪気で何よりボクの事が大好きな妹属性!!!!
全てを持って!再っっ高の主様じゃないかぁ〜♡」
「…いや君ってそんなキャラだったっけ?」
正直、ドン引きなんだけど。
え、妹から菊一文字の性格を詳しく聞いとけばよかった。
「え?きゃら??ああ、君が知ってる菊一文字の事?
やだなぁ〜!容姿こそ君が決めた訳だけど、この世界での《菊一文字》の武具精霊としての性格はこのボクさ!」
「…なるほど。」
よかった、どうやら姿形だけを僕の記憶から借りたらしい。
それはそれとして…………
こ ん な ド 変 態 が 僕 と か 解 せ ぬ 。
「あれ…?じゃあ、贋作菊一文字……希夜は…?」
「え、あの子とかも最高じゃないか!
元・贋作なのにボクを慕ってきて!
しかも2つ縛り!2つ縛りの髪型だよ!?
見た目がそんな素直じゃなさそうなのに!その実ボクの事大好きなその意外性が可愛い!!
正直、何時も一緒に居て希夜ちゃんを愛でれる君が 羨 ま し い !!」
「あー………うん。」
なんか、さっきまで悩んでたのが馬鹿らしくなってきたぞ?
もしかしたらこの菊一文字がワザと道化を演じてる気さえしてきた。
「……それで、話が逸れたけど、何が目的なのかな。」
「決まってる!我が最愛の妹達を助けに行くのさ!!
村正?知らないね!!あんな洗脳で無理矢理従わせてくる寂しい奴なんかボクは願い下げだー!!」
「……つまり、味方、なんだね?」
「はぁ?あったりまえでしょーが!!
むしろ、キミのお陰でカノンちゃんや希夜ちゃんを愛でれるんだからこれからも君が主人格で居てくれないと困るね!!
身体の感覚はボクにも伝わってるからカノンちゃんに抱きしめられたりキスされたりするのがボクの世界ではご褒美です!!
グズグズしてないでさっさと身体の洗脳解くぞボクぅ!!」
「……ははっ。承知したよ、僕。」
「………ふぅ。やっと元気になったかい?
なら、ほら。」
「あっ…
また、優しい微笑みに戻った菊一文字…いや、"僕"が、差し出してきた手をとると…………
何かが割れる様な音と共に視界が真っ白に塗りつぶされたーーーー
よし、とりあえずここまでっ!!
次回更新は未定です、ごめんなさい…………




