第10話:菊一文字と???
話が短めです…
相変わらずの不定期更新…;
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………
はっ!?
ボクは何を…?
気付くとボクは、天蓋付きの豪奢なベッドに寝かされていた…?
「…あたまが…ボーッと…しますね…………
直前の事が思い出せない………
そもそも…ボ ク は 誰…?
「・・・ボクは…?」
その時頭に過ったのは妹の顔…
妹……律……ボクの……大切な妹……
『利刀お兄ちゃん、大好きー♪』
そうだ…ボクの名前は…リト…利刀だ…!!
途端に視界と思考がクリアになる。
そして改めて周りの状況を確認する。
どうやらボクは何処かの部屋に居るようで、すっかり日は昇っているらしい。
そして、今のボクは武具精霊の【菊一文字】だ。
手のひらは女の子のモノで、狐耳も尻尾もある。
胸元にはもう慣れ親しんだ質量があり、意識すれば手に刀が出現する。
「・・・。」
とにかく、状況を確認する為にも部屋を出よう。
そう思い、ベッドから出ると――
「…全裸じゃないですか、やだー。」
妙にスースーすると思ったら装備品が全部無くなっていた…
まぁ、尻尾に結んであるリボンだけは残ってたけどサ…
囚われの姫【菊一文字・利刀】…Lv.18
青属性
体力…929
魔力…1052
力…1150
防御…1372
俊敏…415
技…487
運…2525
装備品
武器…菊一文字(自分自身の為、変更不可、クリティカル率48%)
頭2…なし
胴…なし
右手…なし
左手…なし
腰2…カノンとお揃いのリボン(魔力、防御+150、加護?)
足…なし
アクセサリー…なし
あ、と言うか称号を見るにボクはあれから冒険者共に捕らえられた…と言うことになるのかな…?
…………わぁ。
なんてこったい…;
と言うか、わざわざ全裸にした冒険者共はロリコンですかコノヤロー…;
とにかく、代わりの装備品を―――
「おやおや、ようやくお目覚めですか?」
「っ…!?」
誰っ!?
と言うか、いつのまにっ!?
と言うより………
「…キミは…誰…?」
「誰?それはボクの台詞ですよ。
ボクは菊一文字です。
そう言う貴方こそ誰でしょうか?
ボクの名を騙るニセモノさん?」
そう言った彼女は、ボクと全く同じ姿…
腰下まで伸びた白銀の髪、右が蒼、左が翠の大きな瞳…儚げな笑顔を浮かべる穏和そうな顔…
だけど、狐耳と尻尾は生えてない。
そんな…菊一文字がボクの前に立っていた…
「ニセモノ…?
そっ…そんなはずはありませんっ!!
ボクが菊一文字のはずですっ!!ステータスにも…
「ステータスが、どうかしたのでしょうか?」
転生者【利刀】…Lv.ーー
ー属性
体力…1
魔力…0
力…1
防御…1
俊敏…1
技…1
運…0
「うそ………
「分かったでしょう?
貴方は、所詮はニセモノだったのですよ。
ボクこそが本物の菊一文字です。」
勝ち誇った笑みで刀を構えた彼女は…そのままボクを―――
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
はぁ…はぁ…ゆ…夢…?
再び気付くとボクは、真っ白な部屋……
前世で見慣れた病室に居た……
「あ…お兄ちゃんっ!!」
「へ…?あ…律…?」
「お兄ちゃん…よかった…お兄ちゃん死ななかったんだよ…!助かったんだよ……!」
「そんな…ボクは…ボクは確かに死んだんじゃなかったんですか!?」
ボクがそう、律に問いかけると、律は全くわからない、と言った表情でボクに答える…
「えっ…?
何を言ってるのお兄ちゃん…お兄ちゃんは、助かったんだよ…?
もう、死ぬだなんて、脅えなくて良くなったんだよ…??」
「そんなはずはありませんっ!!
ボクは早くカノンちゃんの元へ―
「お兄ちゃん、カノンちゃんって誰??
それに、何でさっきからわたしに対して敬語なの??」
「あ…いえ…ボクは…ボクは…………?
あの…ボクは…誰でしょうか…?」
ボクは再び自分の手を見下ろす、その手は白くて華奢で、胸元にも質量がある。
「誰…って…利刀お兄ちゃん…でしょ…?」
「違います…違いますよ…今のボクは…菊一文字…です…女の子…菊一文字…カノンちゃんの…護刀…
「お兄ちゃん………
そんなボクを見る律は…律からは…?
「利刀…お姉ちゃん…!」
「律…?」
「お姉ちゃん!!
―――お 姉 ち ゃ ん !」
律からは狐耳と尻尾が生えてきて、髪も狐色に染まっていく……
「起きて…起きてよ…お願いだからぁ…起きてよぅ…キクお姉ちゃん……また…ひとりぼっちは嫌なのぉ………
そうだ、ボクは…守らなきゃ。
大切な…大切な………“妹”を…………
ダケドボクノイモウトハダレダッケ?
「…………ハッ!?」
ううっ…こうして目覚めるのは何回目…?
まるで、出口の無い迷路をさ迷っているような気分だ……
生きている事を確認する為に、手を握ったり開いたりしてみる。
感覚は確かにある。
耳も尻尾もふわふわふさふさ。
胸元には柔らかくも弾力のある二つの膨らみ…
意識が目覚める度に身体を…何度も、何度も確認した。
まるで、さっきからボクをボクとして認識できなくさせようとしてくる………そんな気がするって、本能が囁くから。
まるで、ボクをボクじゃ無くそうとしてくるから。
『そうだ、これは、きっと、ボクを洗脳しようとしてるんだ。』
分かってるさ、ボクは【菊一文字】。
数多の【刀】タイプの武具精霊の中でも屈指の強力な存在。
そりゃあ、冒険者だってボクを求めるだろう。
でも…でもね…………
『ボクは…ボクはカノンちゃんの………!』
うぁぁあぁあぁ!!
瞬間―ボクの中のナニかが、音を立てて崩れてしまった様な…そんな気がした。
『そうだ、僕は…僕はぁぁっ!!』
「っチィィッ!!」
これで、何回目の覚醒だろうか?
周りはさっきまで居た夜の外壁周辺、隣には僕に寄り添う希夜。
今度こそ感覚が間違いなくクリアになっていく。
「…希夜、僕はどれくらい寝ていた?」
「…ほんの数分だぜ?お姉様…。」
「冒険者共は…?」
「何とか退けた…
お姉様から貰った武器が役に立ったぜ…
そう言った希夜は満身創痍、と言った感じだ。
僕が不甲斐ないばかりに………
「ごめんね希夜…僕のせいで君には苦労を掛けた…
「………へへっ…気にすんなよ、アタシはお姉様の役に立てりゃあ満足なのさ。」
「…ありがとう…帰ろうか…。」
「ああ。」
希夜は、多分気づいたかな。
だけど敢えて触れずにいてくれるらしい。
……今の僕は少し怖いんだ。
さっきの泡沫の夢。
そのせいか僕は、“利刀”としての自分が目覚めてしまった………
交差する魂【菊一文字(利刀)】…Lv.18
青属性
体力…1754×1回死亡無効(称号パッシブ)
魔力…1052
力…4650
防御…1722
俊敏…465
技…587
運…2525×測定不能(リボン覚醒)
今のボクは…菊一文字であって菊一文字ではない。
いや、本当は最初からそうだった。
夢で僕自身を否定されたけど、それはあながち間違いでは無いのかもしれない…
そんな事を考えている内に、門を通り過ぎ、領主の舘が近付いてきていた…
「んじゃ、アタシはここで。」
「うん、おやすみ、希夜。
…あ…そうだ、希夜。」
「なんだい?お姉様。」
「希夜は、僕が僕でなくなっても味方でいてくれるかい?」
僕のそんな問い掛けに、希夜は何時もの快活な笑みを浮かべて返してくれた。
「…当然だろ?
アタシは、最初から中に居るアンタに気付いていたさ。」
「えっ…!?」
「へへっ♪アタシは最初からお姉様の味方だって、最初に言ったろ?」
そう、笑った希夜は、それから真剣な表情で僕の手を握ってくる…
「安心しな…皆に嫌われても、皆が敵に回っても、アタシだけはずーっとお姉様の味方でいるからさ♪」
「…ありがとう、希夜。」
そんな希夜に勇気付けられた僕は、希夜と別れてカノンと二人で使っている部屋に帰ってきた…
そこには、何時ものようにベッドにもぐって寝ているカノンが居た。
だけど……今の僕は、そんなカノンを主や妹としては見れなくなっていた………
「カノン・・・。」
……いけない。
そんな、芽生えてしまった感情にフタをする様に僕は休眠状態に移行した…




