第8話:菊一文字とミュラ兄妹
本当に不定期かつ遅い更新で申し訳ありません………
アルト君達についていきながら軽く自己紹介を済ませたボクらは、ミュラの街…へはむかわなかった。
「すまないけど、今のミュラには行かない方が身のためだよ、特に、美人なビショップのミーシャさんと、獣人であるカノンさんは。」
「…冒険者…ですね?」
「ああ、盗賊ギルドが活動規制された上に、冒険者ギルドがキリトから手厚い支援を受けて、獣人の味方である盗賊ギルドや、秩序を保つ教会がミュラからは駆逐されてしまったからね。
今のミュラは…危険な無法地帯だ。」
あー…やっぱり黒い魂の奴は盗賊ギルドや教会を忌避するんだ…分かりやすいけど、なんか微妙だなぁ…;
この世界では盗賊さん達って本当に基本的には善人の集まりなんだね…;
「わたくしは、救える方は救ってきたつもりですわ…
ですが、それも自己満足の範囲でしかないのですわ……
「アリスちゃん…
悔しそうに下唇を噛むアリスちゃんを、リィンさんが優しく抱きしめる…
多分、この3人はそうやって支え合いながら、なんとか抗ってきたのだろうな…
「…許せませんね。」
「そうですね。」
それを聞いたミーシャさんは、義憤に震えていた。
十字を切り、祈りを捧げて心を落ちつけたのか、すぐに何時もの優しい笑顔に戻ったけど。
「…それで、何か策はあるのですか?」
「…兄を討とうと思っている。」
「当然、我が家を戦場にして、血を流したくは無かったですわ…ですが、もうそんな悠長な事は言っていられませんの…
「そんな、時期は、とっくに過ぎ、た。
これ以上、の、犠牲は、許せない…
「・・・・そうですか。」
ここは、部外者のボクたちが口を挟むところではないですね…
只、アリスちゃんはあんなのでも一応兄だからか、『勿論、血を流さなくて済むのならそれに越したことは無いのですわ…』と付け加えた。
「…我が家を戦場にしたくはないが、我が家を戦場にするのは、俺達3人に地の利があるからだ。」
「勝手知ったる我が家、と言うやつですわよ。」
「冒険者、共、なら。
それで充分、対応可能。だけど、キリトは、違う。」
「兄にも地の利があるのは同じですからね。
そこで、貴女達ブレッドファミリアさんに頼みたいのは陽動ですわ。」
「その隙に、最短最速でキリトを討つ。
・・・出来れば、無傷で生け捕りにしたい。
そしたら…
「私がキリトさんの【洗脳】能力を削除すれば良いのですね?」
「はい、ビショップであるミーシャさんにはその役目を頼みます。
………なので、出来ればわたくし達に付いてきてもらいたかったのですわ…。」
「すみません…今の私は、あくまでも“ブレッドファミリアのミーシャ”です…
本来なら依頼者を優先するのが当然ですが、今回は仲間達が一番危険ですので…
「それは、承知、してる。
私が貴女でも、そう、する。
気にしないで、いい。」
「ありがとうございます、リィンさん。」
「…とにかく、ボクたちは屋敷を壊さない程度に暴れればいいんですよね?」
「へへっ!シンプルで良いじゃねぇか!」
「アタシとカノカノはアサシンプレイっすね?」
「こっそり近付いてポコンッ☆だね?」
「ああ、よろしく頼む。
作戦決行は…そうだな、キリトが油断するであろう今日の深夜…だな。」
「兄は三日坊主ならぬ半日坊主位に警戒が続かないのですわ。
それに拍車をかけている『もし敵が現れても洗脳すればいい』、なんて考え方をしている程の怠慢っぷりが尚更イライラしますわ。」
「そのくせ、隠し通路付近の部屋に人が集中していたり、警備班は警戒心が高いやつだったりと微妙に意地クソ悪いからな。
陽動をしてくれる人が居るのは大きい。」
・・・ほんとにダメ人間じゃん…。
なのに、微妙に優秀なのか。微妙に…
なんかイラッと来るなぁ…
「…作戦と言うにはあまりにもお粗末だが、どちらにせよグズグズしていれば被害者は増えていく一方だからな…
「・・・兄は、街の美人を片っ端から洗脳したり脅したりして手込めにしましたわ…それからは、街に美人が来る度…
わたくしは、もう被害者を出したくはありませんわ!!」
「子供…も、同じ…女の子…は…………
「男達は皆、強制労働や洗脳による凶化兵士にされ、近隣の街にも被害を出し始めている…
「近隣の…街…も…洗脳で………
…………美人…ねぇ…?
「あの、アルトさん。」
「どうした?キク。」
「・・・ここは、敢えてボクとミーシャさんだけに行かせていただけないでしょうか…?」
「なんだと?」
「早く、解決したいのでしょう?」
「だが、部外者であるお前達だけに任せる訳には…
「なら、貴方達は貴方達で、最初の作戦通りに隠し通路からの潜入をお願いします。
ボクとミーシャさんは…
正面から、堂々と、領主様の館を訪問します。」
「・・・なるほど。
私とキクちゃんを囮にする訳ですか…
「ええ。
ボクとミーシャさんは、キリトの洗脳が効きませんから。」
ミーシャさんは自らが魅了魔法や結界を使えるから、ボクは装備品の効果で洗脳を無効化出来るから。
この人選が妥当で、一番被害を出さないものなんだ。
だって、今の話だと襲いかかってくる敵の中には街の人も居るって事になるのだから。
ならば、ノーキル制圧を目指さなきゃ!!
「目には目を、歯には歯を。
ではありませんが、洗脳には魅了をぶつけてみようと思います♪」
「………分かった。
だが、無理はするなよ?」
「はい。
いざとなったら…容赦なく、斬ります。」
夜。
月明かりが優しく照らすミュラの街を、修道服に身を包んだうら若き乙女が二人、歩いていた。
方や、慎ましい服装にも関わらず何処かコケティッシュな雰囲気を漂わせ、
方や、見習いの如く微笑ましさと初々しさを漂わせ、
二人は歩いていた。
やがて、二人は街で一番大きな屋敷に辿り着く。
―まぁ、要するにボクとミーシャさんは、領主の館に来ていた。
「ごめんください。」
「…ここは領主の館だ。薄汚れた旅人が何の用だ?」
にべもない…
出迎えた男達は、ボクらの格好が旅の修道者だから、露骨に嫌な顔をする。
全く、これだからコイツらは…!#
でも、ミーシャさんは流石の寛容さでそれを受け流し、さらりと目深に被っていたフードを取って微笑む。
その瞬間、男達が息をのむ。
ボクもフードを取ると男達は更に色めき立った。
「こんな夜分に申し訳ございません。
教会を探していたのですが見つからず、このような時間になってしまいました…
ですので…大変厚かましいとは思いますが、領主様のお屋敷に泊めていただきたいのです…
「そっそうゆうことなら案内しよう!ついてきてくれ!!」
「ありがとうございます。」
因に、魅了魔法はまだ使っていない。
ミーシャさんの顔とスタイルで籠絡しただけだ。
と言うか、それだけで籠絡とかチョロすぎでしょ…
すんなりと屋敷内に侵入できたボクたちは、そのまま領主様(と言うことになっているキリト)の所まで案内してもらう事にした。
もうチョロいチョロい。
ミーシャさんが頼んだらあっさりと案内してくれた。
・・・まぁ、敵だったとしても洗脳でどうにかなるって認識なのかも…だけど。
……やたら豪華な部屋に案内されたボクとミーシャさん。
出された紅茶は…ミーシャさんが祈りで解毒・解呪してから飲む。
ミーシャさんは本物の聖職者だから特に不審な行動では無いし、更にビショップだからどんなに強力な毒や呪いであろうと解除可能だ。
でも、祈りで良くなるのは毒や呪いが無くなるってだけで味は…不味い。
ミーシャさんや希夜ちゃんが淹れた紅茶の方が遥かに美味しい。
ミーシャさんも同じなのか、一瞬顔をしかめてすぐに笑顔でお茶を淹れ直しに立った。
「あの、折角ですので私の淹れたお茶をお出ししても宜しいでしょうか…?」
「えっ…?
・・・そりゃあ、構わねぇが…
あ、魅了使った。
そこまで嫌だったんだ。
まぁボクも嫌だけどさ。
ミーシャさんが改めて淹れた美味しい紅茶を飲みながら待っていると、
金髪デブ…キリトが現れた。
昼間の襲撃の時には顔を見られなかったし、キリトは警戒する様子がない。
それどころか、ミーシャさんを見た瞬間にイヤラシイ顔になる。
どうせクズい妄想でもしてるんだろうな。
「はじめまして、私がこの館の主にして領主、キリト・ミュラです。」
「…旅の修道女をしています、ミーシャと申します。」
「同じく、ボクは妹のキクです。」
「ミーシャ殿にキク殿。
私は貴女達を歓迎しましょう。
さぁ、客室に案内しますのでどうぞごゆっくり。」
・・・・・うん、拍子抜けするほどお間抜けさんだねぇ?
・・・ただ、それも計算の内である可能性も否めない…キリトは中々に厄介かも。
…案内された客室は、見たところなんのへんてつも無い普通の部屋に見える…
ただ、お香の様な変な臭いがするけど。
「・・・ミーシャさん。」
「…はい。」
ミーシャさんも結界の効果か何かで気付いているらしく、相互関知魔法により場所を察知しているアルト君達が隠れている方に然り気無く近付く。
そこはベッドが置いてあり、お香はそのサイドテーブルに置かれていた。
(これは…暗示にかかりやすくしたり、力が入らないようにするお香…ですね。
大方これで私とキクちゃんを無効化するつもりだったのでしょうが…)
ミーシャさんが祈りを捧げると、お香は普通の香りを放つのみになる。
当然、キリトもソレに気づいた。
「おやおや、勝手なことをされては困りますねぇっ!?」
「「…。」」
そしてアビリティーを使用してきた、けれど、ボクもミーシャさんも洗脳は無効だ。
「でもまぁ…これでお前達は俺の女だな。
フヒヒヒヒ………ナニをしてやろうか―
「―【紫電エナジーショット】!!ですわっ!!」
―だけど、ボクとミーシャさんが動くよりも早く、金髪のロングヘアーで、不思議の国な格好をした女の子がキリトに斬りかかり弾き飛ばした!?
その手に持つのは【菊一文字】!?
放った技は…ボクが最後に使った装備技と希夜ちゃんの得意技の合体技…!?
彼女は―
「アリスさん!?」
「ごめんあそばせ?わたくし、もう我慢の限界でしたの。」
そう言ったアリスさんは切っ先をキリトに向けながら言い放つ!!
「今まで街や旅の女性をクイモノにされて鬱憤がたまっていたのに、更に知り合いになった女性までキリトの毒牙にかかるのは見過ごせませんわ!!
ここで即刻斬り捨てますっ!!」
「因に、この部屋に応援はこないぜ?」
「お姉ちゃーん!お待たせー♪」
「希夜ちゃんにカノンちゃん!!」
「へへっ♪ざっこい冒険者なんかアタシ達で倒し尽くしてやったぜ♪」
「いやいや、制圧早くないですか!?;」
「俺とリィンも別方向から制圧していたからな。」
「アルトさんにリィンさん…!」
ミーシャさんも驚きの表情で固まっていたけど、すぐに真剣な表情に戻り、覚悟を決めたのか杖を召喚した…!
ミーシャさんの手に現れたのは、先端にデフォルメされた星(☆)が付いた杖。
その名も―
「―スターレイン。
あなたの心、浄化します。」
「グヌヌ…!だがッ!!」
キリトは懐から何やら玉を取り出して地面に叩き付けた!!
だけど、何も起こらなかった。
「残念っすねー。
今この部屋は転移禁止なんっすよ~。」
「エミリーさん!」
「アタシの七星剣からは逃げられないっすよ!!」
そして、エミリーさんは素早くキリトに近付きその顎を撃ち抜いて気絶させた…
「今っすよミーシャん!!」
「はいっ!!【ピュアハート】!」
わぉ。
ミーシャさんから放たれたデフォルメされたピンクのハートがキリトを包み込んだ…
そのハートはキリトの中へと吸収されていき…
ハートが消えるとキリトの魂は真っ白に浄化されていた。
うん、ミーシャさんチート過ぎっ!!;




