あだ名
羊は目を見開きました。固まったまま、口は一向に開きません。
すると、羊の姿をした狼はクルリと背を向けました。
「やっぱり、嫌だよね。姿は羊さんだけど、私、そうじゃないんだもの」
どんよりとした雰囲気が漂います。
その空気にハッとした羊は、落ち込んでいる背中に手を乗せました。
「う、うれしいよ。ただ、驚いただけ。そんなこと、初めて言ってもらったから。……あのさ、ぼ、僕でよければ友だちになって」
スッと落ち込んでいた背中が伸びました。そして、グルリと回ると、背中に乗っていたはずの羊の手をスパッと両手で握り締めます。
「本当? ありがとう!」
「え、いや、こちらこそ」
羊は笑顔に照れました。
「ねぇねぇ、じゃあさ、あだ名! あだ名で呼び合おう?」
羊はポリポリと顎をかきます。数回忙しく動いていた指でしたが、ふと止まりました。
「じゃ……『みーちゃん』はどう?」
羊の皮を被った狼は、両手を上げると一瞬固まり、次の瞬間には両手で顔を隠しました。
「か、かわいい! 『みーちゃん』だなんて、かわいい。うれしい」
フルフルと震えて喜ぶ姿に、羊は喜びました。
「えへへ、狼だから『みーちゃん』だよ。気に入ってもらえてよかった」
羊の指は、再び忙しく顎に触れだします。しかし、次の瞬間、指はおろか羊はぴったりと止まりました。
「じゃあ、じゃあ、羊さんは『じ~さん』ね! よろしくね、じ~さん!」