狼の皮を被った羊
「ほら、食えよ」
「なんだよ、狩りが下手だっていうから分けてやろうってのに、食わねぇのか」
罵声のような声。
目の前には死肉。
「折角、助けてくれているのに……ご、ごめんなさい」
一匹の狼が食料を前にして、去っていきます。
「なんだ、あいつ」
むしゃむしゃと食料を貪ります。血を垂らす中、ふと一匹が顔を上げました。
「あいつも変わり者だったけど、そういえばあの変わり者を見なくなったな」
むしゃむしゃと食べていた狼も口が止まります。そして、ふと思い出したように、
「ああ、ああいうのは……どっかで生きているさ」
と、微笑みました。
さて、食料を前にして立ち去った狼は泣いていました。
泣きながら草を口に頬張っています。
「初めて見たよ。草を食べている狼だなんて」
狼はドキっとしました。
ふり返ると、そこにいたのは一匹の羊です。
「な、なに言ってるんだい? 君こそ……狼に声をかける羊なんて初めて見たよ」
すると、羊は首を傾げました。
「そう?」
羊は狼に近づき、くんくんと匂いを嗅ぎ始めます。
「ななな……なに?」
驚く狼に対し、羊は鼻を離すとにっこり笑いました。
「ふふ、おもしろい。狼のふりをした羊さん?」
「ちちち……違うよ、違う。僕は狼だもん」
手をジタバタさせる狼に対し、羊はふふふと笑います。
「ごまかせないよ。だって、私、本当は狼なの」