目覚め
真っ暗闇の中俺はそこに突っ立っていた。音もなにも聞こえない、静かな空間。
声をあげてみるが、自分の声すら聞こえない。ただ何もない空間に一人でたっていると、妙に怖くなる。
気が狂いそうで大声をあげるが、声もでない。
誰か、いないのか…?
しばらく辺りを見渡したが、暗闇しか見つけられない。いくら歩いても自分以外のものを見ることはない。
怖くてどうしようもなくなったとき、不意に背後に気配を感じた。
反射的に振り向いたそこには、あの恐ろしいゾンビの姿が....
「うわぁぁぁっ!!!」
ようやく目を覚まし飛び起きてた。目の前に、木目の壁が広がっている。
まさか夢であげた悲鳴を現実でもあげてるなんておもわず、気づけば息が上がっていた。
全身がびっしょりと汗で濡れて気持ち悪いし、きっと顔色も悪いと思う。
典型的な悪い夢を見て起き上がった人間だな、これ。夢の原因なんてあのゾンビに決まってる。
あんな恐ろしい体験を、夢でまで見るとは。本当にトラウマと言うものは恐ろしいものだ。
だからこそトラウマと言うのだろうけれど。何で夢にまで見ないといけないんだ!
見るならもっと、楽しくて幸せになる夢の方がいいだろ!!
「大丈夫?」
うわっ、びっくりした…。不意に隣から可愛らしい声が聞こえ、飛び上がってしまった。
一瞬またゾンビなんじゃないかって、防御がわりに毛布を握りしめ、声のした方へ視線を向けた。
といっても、ただ起き上がって顔を横に向けただけだが。
そこにいたのは、俺の反応に驚いて縮こまる小さな女の子の姿があった。
目を引く桃色の髪は鎖骨まで伸び、ふわりと内に巻いている。黄色い丸い瞳は柔らかい光を宿し、丸い顔とあわせてとても可愛らしい。西洋のお人形さんのようだ。
笑ったらとても、可愛く可憐なのだろうけれど。俺の行動で萎縮させてしまったようで、いまは怯えたようにこちらを見つめていた。
ゾンビと勘違いしてしまい、自分でも気づかなかったが、きつく睨み付けてしまっていたようだ。
あまりの可愛さに見とれてしまったが、我に返った。
怯えさせてしまった罪悪感がすごい!!
こんな子供にたいして、スゲー大人げないな俺!!
「...平気。」
できるだけ簡潔に、しかしそっけなくならないように伝える…のは、難しいな。
子供と言うのは、とても素直な存在だ。単決に物事を伝えた方が伝わりやすいだろう、と思ってやってみたが…俺も子供だった、そういえば。
俺の作戦はうまくいったようで、少女は安心したように笑ってくれた。
うん、やはり可愛い。子供は皆可愛いけれど、この子は特に可愛い部類にはいるな!
....と、あまりのかわいさに見とれてしまったが、このままじっと見ていても向こうも困るな。
見た感じ5~6歳くらいの少女だ。人見知りするお年頃だろう。
俺がしゃべらなくなってもじもじとこちらを見てはいるが、話しかけてこない。
恥ずかしがってるのか、俺の扱いに困っているのか。興味津々な視線を向けている辺り、無関心と言う訳でもなさそうだ。
いちいち仕草がかわいい!
無関心でなければ、話しかければ心を開いてくれるかもしれない。
「...ねえ、ここどこ?」
声をかけると、真ん丸な瞳が見開かれ驚いていた。うん、可愛い。可愛いとしか言ってないが、可愛いんだからしかたない。
少女と話したいという口実ではあったが、実際にここはどこなのだろうか。
あの怖い森ではなさそうだし、ゾンビもいない。病院でもなさそうだし、ましてや死んだ訳でもなさそうだ。
ここはどこだ?
部屋を見渡してみるが、普通の家だ。日本家屋って言うより西洋の家っぽい。
ベッドの脇にテーブルと棚があって、一応窓もある。テーブルの上にはグラスピッチャーとコップがひとつ。
床にはスリッパがおかれているので、土足文化というわけでも無さそうだな…。
木目が壁や床に見えるので、木造のログハウスみたいなものだろう。部屋を出るための扉が開いており、奥に廊下が見える。
一通り部屋を見渡してからもう一度少女に視線を向ける。
頑張って言葉を探しているようで、なにかしゃべらないとと慌てている。
「え...えっと、ここは...」
「おぉ、起きたか坊主っ!」
ようやく、少女が口を開いたのに、その可憐な可愛い声をかき消すように、どたばたと足音と豪快な声が聞こえてきた。