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序章4 希望と絶望の朝

 それから、十時間が経過したのではないだろうか。詳しい時間はわからないが、とにかく長い時間、俺はそこにいた。


 光の届かないところにいけば奴等がいる。そう思うと眠ることもできなかった。


というより眠るなんて悠長なことなんてできるほど心にゆとりもない。


 火の熱もあり喉が乾き、腹も減った。少しでも火の側を離れたくないせいで体を長時間硬直させていたせいで、全身が痛い。


 何より極限の恐怖状態で精神と体力も削られていたため、パタリとその場に倒れた。


気が狂いそうだ。このまま、また死ぬのであろう。


ゾンビに食われるくらいならましかもしれない。ぼんやりとそんな考えが頭をよぎった瞬間...


 辺りに暖かい光が差し込んできた。


それが夜明けの光だと気づくのには少し時間がかかったが、ぼんやりとしていた意識が、少しだけ覚醒した。


ゾンビたちはよろめきながら森の奥へとよろよろと向かっていく。やはり光に弱いようだ。


 辺りを囲っていた驚異が去って、緊張が解けた。


もう立ち上がる元気はないが、完全に脱力している。よかった、これでなんとかなる...と。


 しかし現実は甘くはなかった。


俺のいるこの場所は少し開けていたため日光が通ったが、森の奥深くには光があまり届かない。


遠くにはなったが、ゾンビの唸り声は聞こえている。


 俺のこの状況は何一つ変わっていなかった。


 あぁ、ダメだ。死ぬ。


 このままこの場所にいても飢えて死ぬだけだ。


だからといってここを離れれば火の光源は届かない。


松明を作ろうにも残り火では、このどのくらい広いかもわからない森で持つかもわからない。


遅かれ早かれゾンビに襲われて死ぬ。


 完全に詰んでいた。


もうだめなんだ。自分のおかれてる状況もわからないまま、俺は死ぬのだ。


 俺は静かに目を閉じる。もうなにも、考えたくない。


怖い思いもしたくない。痛いのもいやだ、覚醒した意識も、徐々に薄れてきていた。


あぁ、もう、どうでもいいや....いっそ眠れるように死にたいよ…。


 パンッ、ドンッ


 すべての現実から逃げるように意識を手放そうとした瞬間、耳なれない発砲音が響いた。


これは、銃の音だろうか。映画なんかで聞いたことがある音だ。


 ゾンビの次は銃か。テロリストか誰かか?


もうなんでもいいから、静かに休ませてほしい。なんて、考えてしまった。


もう疲れててなにも考えたくないのだ。


「おい誰か来てくれっ!子供がいるぞっ」


 遠くで聞こえてくる声が無理矢理意識を覚醒させた。


煩いなぁ、もう寝かせろよ。こっちは寝てないし疲れてるし、しんどいんだ。


つかもう詰んでるんだから、なにやっても無駄だろ。


 どかどかと数人の足音が聞こえ、さすがにうっすらと目を開けた。


眠るには、うるさすぎたのだ。


「よかった、まだ意識があるぞ。寄生もされていないな。よく頑張ったぞ坊主っ!もう大丈夫だ」


 誰かが俺を抱き起こしてくれた。うっすらとみえた人影は、ゾンビじゃなくておじさんっぽい。


声も聞こえるが、視界も声もぼんやりしていて聞き取り難い。とりあえず俺は女なのだが、反論する元気もない。


 もう大丈夫?なにいってるんだ。向こうにはゾンビがいるんだぞ...。


でもよく見ると、ぼんやり見えるおじさんたちは武装しているようにも見える。


もしかしてさっきの発砲音は、この人たちだろうか?


 とにかく、助かったのか?それを確かめるすべは、もうなかった。


何故ならもう疲れはてて、その場で意識を失ったからだ。


例えこの人たちが危ない人であったとしても、もう意識を保つほどの気力がない。


この先どうなるかわからない不安を抱えながら意識を手放した。


 こうして、俺の物語は幕を開けた。恐怖と絶望と死を思い知らされる、忘れることのない記憶として刻むこととなりながら。


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