序章3 ゾンビとの邂逅
ゾンビと言えばホラーシューティングゲームでお馴染みのあれ。体を撃っても死なず、頭を撃ち抜かない限り動き続ける元人間だったもの。
しかし現物なんて見たことなどない。そもそもあれは架空の産物なのだから。
だがいま目の前にいる人影は、正に俺がゲームで倒しまくっていたゾンビそのものである。
火の明かりを受け、ゾンビ(?)は後ろに後退していた。
よろよろと顔を覆うように後ずさるその姿はイメージそのままだ。
ということは、吐きそうな異臭は恐らくこのゾンビからか!
他に考えようがない。ゲームでは再現できないが、実際に人が腐ると腐敗臭だってするだろう。
確かに今まで嗅いだことのない臭いのはずだ。死臭なんて嗅ぐことないからな、ふつう。
ゾンビの体はあちこち腐っていて、とてもじゃないが健康的な人の肌ではない。
目玉はちゃんと収まっているみたいだが…かわりに唇がない。
むき出しになった歯からは涎が垂れ、黄色や黒に変色してすごく不気味だ!
頼むから口を閉じてくれ!!唇ないけどさぁ!!
この距離では全体を詳しく観察できないが、できなくていい。気持ち悪すぎてみたくもない。
ゾンビは後退したものの、まだこちらを見つめていた。濁りきった目玉はまるで、獲物を観察するように俺を写している。
「うわぁぁっ」
ヤバイ、これは本気でヤバイ!
ゾンビなんてそんなの存在するはずがない!!それが今目の前にいる、それも俺を食わんとしてるみたいに!
咄嗟に黒焦げの大木近くまで走って逃げた。この数分観察していたが、奴は全くこちらに来なかった。正確に言うなら、光の傍によってこない。
だからきっと、明かりが苦手なのだと考えたんだ。
「だ、だれか...」
俺の考察は概ね当たっているのか、ゾンビが襲いかかってくる気配はない。
けれど、じっと俺を見ている現状はかわらない。
まるで獣の群れに一人放り投げられたような恐怖が込み上げる。
命の危険を感じる。
助けて、怖い。
そんな言葉は口からは出てこなかった。恐怖で体が震え上がり、うまく声がでない。
火の近くによりすぎで熱いが、そんなこと構ってられなかった。
とにかく、怖い。皮膚が多少焼けようがそんなことどうでもいい。
他の感情が全て飲み込まれて、恐怖しか感じない。
よくよく辺りをぐるりと見渡すと、火の明かりを囲むように広がる森のその間から、数体のゾンビらしき影を見つけることができた。
いやこれは、見つけなかった方がよかったかもしれない。お陰で大パニックだ。
武器もない、体力もない、子供の体。
例え大人の体であっても戦うなんて出来ないだろう。怖くて、それどころではない。
ゾンビたちは俺を襲わないでいるのは、恐らくこの火のお陰なのだ。
つまりこの火が消えれば、襲われるか喰われるか。ただではすまないだろう。
でなければ、ゾンビがずっとこちらを見ている訳がない。
あの目は、俺を人としてではなく獲物として見ているものだ。
目の当たりにしたしまった市の恐怖で、ガタガタ震え上がる。
頼む、火よ消えないでくれ!!
これが消えたら辺りは真っ暗になる。それはつまり…食われることと同義。
さらに頼む!!早く夜が明けてくれ!!
俺はただ、それだけを願い続けた。