序章 転生最初から詰んでいた
まるで海を漂っているような、浮いているような沈んでいるようなそんな浮遊感が体を包み込んでいる。
体も動かせないし、目も開けられない。いったいどうしたのだろう。
えっと、何があったんだったっけ…あぁ、そうだ..車に跳ねられたんだ!!
親より先に死んじゃったんだから、親不孝ものだよな…あーあ、もう少し長生きしたかった!
....ん?死んだ?
…あ、そうか、死んだんだっけ。…何でまだ意識あるんだ?
死んだらそこで、終わりじゃんか!!え、もしかして死ぬってこうやって意識だけ取り残される形なの!?
え、やだよ!!動けもしないとか地獄しかな…
コロゴロビシャァァ!!!
ぎゃあぁああああ!
鼓膜を破壊するような大きな音が目の前で炸裂した。
ビックリしたっ!思わず変な悲鳴をあげてしまったじゃないか!!
なんだよ一体!?
でかい音のせいで耳が痛いし、キーンと耳鳴りがする。
耳鳴りが収まった頃に、ぷっつりと浮遊感が途絶えた。体の重心が、何か凸凹した物に預けられる。
これは…地面に横になってるのか?
「い...つ...」
くそ…脳みそががんがん揺れているみたいで気持ち悪い…。
頭を抱えて頭痛を和らげ…あれ、体が動く?いやいや、声も出ている。
ということは目も開けられるのでは?…あ、開いた。
目の前にぼんやりと緑色の草が広がってた。案の定地面に寝転んで空を見上げている形だ。体全体で自然を感じるとは、こういうことを言うんだろうな。
…って、そんなことやってる場合じゃねぇ!
ゆっくりと上体を起き上がらせ、辺りを見渡す。
視界もクリアになり、目の前の光景を理解できるようになった。
…で、一言で言うなら、鬱蒼とした森だな、ここ。
辛うじて前が見えるくらいの明るさで奥までは見通せない。
空も暗くて星が見えるから、今は夜だな。
ほんのり辺りを照らしてくれているのは…黒く燻って残り火で残りの体を燃やしている大きな巨木だ。
この大きさだと森で一番でかいんじゃないか?
少なくともこのでかさの木は、樹齢が何百年もあるご神木とか、そういうものでしか見たことがない。
誰かに燃やされた訳じゃなさそうで、根本以外が真っ二つになってる…。
奇妙な燃え方で、多分落雷じゃないか?さっきのすさまじい音も雷と言われたら納得するし。
焦げた臭いと、残り火の明かりをぐるりと囲むように、真っ暗な木々が覆っている。
どうやら少し開けた場所らしい。キャンプとかするにはもってこいだろうけど、何でこんなところで寝てたんだ?
状況を理解するのも大事だけど、そここはどこなんだ!?
なんでこんなところにいる!?
混乱ぎみに立ち上がるが…なんかおかしい。
…視線が、とても低い。
十年くらい前はこれくらいの身長だったような気がする。
いやいやまてまて、全脳内細胞を頑張って働かせても、追い付かないほどの勢いで色々なことが起こっているぞ。
なんなのだ、この状況。
一旦落ち着こう。そう思い、大きく深呼吸。
冷たい空気が、肺を満たしていく。しかし肺活量があまりない。
上を見上げると空が遠く、下を向くと地面が近い。
あぁ、そういえば高校生が子供になる漫画とか、あったな。
きっとあの主人公もこんな気持ちだったのだろうか。
…じゃなくて!一体どうなっているのだ!?
これは明らかに、子供の体だ。
鏡がないので姿は見えないが、明らかに大人の体つきではない。
そしてさらにもうひとついうなら股間に違和感がある。感じたことのない違和感。
思わず、股間に手を当ててみる。女の子がそんなところに手を当てるなんてはしたない、なんて気持ちは一切ない!
その違和感を握ってみるが…。
...冗談抜きで痛い。一旦冷静になれるほど、ものすごく痛い。
例えようもない痛みが体を襲った。
あぁ...人体急所とはよくいったものだ。これはたしかに急所だ。
世の男性方はこの痛みと向き合っているのか...なるほど、たしかに金的はしちゃいけないな。
それを今、身をもって体感してしまった。