集合
もう一度目が覚める頃には、他の子供たちも起きてくる時間だった。
現在、14時。俺の世界だと7時くらいか。
こうやってこの長時間眠れることを考えると、俺の体は、この世界に既存しているようだ。
いくら時間が早く感じるからといって、知能力...頭が他のやつより早く回るわけではなさそうだ。
思考スピードは早いかもしれないが、だからって学力が上がるわけではない…ようだ。
例えば100円のものが5割りで売られています。さていくら?という計算があったとしよう。
俺の思考は5割りは半分だ!ということはすぐに理解できる。
だが100円の半分の数字を、計算で出すには学力的なスピードが出てくる。
思考と知能は別なのだ。
なので100割の5割引は50円、という答えを出す時間は、前の世界とあまり変わらない。
実際やってみたが、やりおえて時計を見ると、想像していたよりも時間がかかっていた。
知能低下なのか、俺がバカなだけなのか。
まぁ6歳程度の子供だ。才能の差はあるだろうが、ある程度は延びるだろう。
というより、伸びてもらわないと困る。
とりあえず着替えることにしよう。服が昨日のままだ。
さっき吐いてしまったから、喉が少しイガイガする。
玄関前のグロッキーな光景は、恐らく先生が片付けただろうな...つくづく、申し訳ない。
先生の使っていた棚...時計や花瓶の置かれたそこに、書き置きが残されていた。
"服は一番下に置いている"
誰の字かは判断できないが、状況からニール先生だろう。
几帳面に並べられたアルファベットは、綺麗に並べられている。
...ん?アルファベット?
今さらりとスルーしかけたが、俺英語は読めないぞ?
英語の成績だけ異常なほど悪かった。
なんならアルファベットをみるだけで、拒絶反応が起こるレベルだ。
それなのに、今はすんなり読める。どうなっているんだ?
辺りを見渡して、アルファベットが並ぶものがないか探してみる。
来たときには気づかなかったが、部屋の奥に本棚があった。
俺は着替えを棚から引ったくり、急いで着替えると本棚の前へと足を運んだ。
着替えは先日渡された、タートルネックとポケットが多数あるズボンだった。
どうやらその日のうちに洗ってくれたようだ。
...さて、ファッションチェックの次は語学力チェックだ。
本棚は天井まで続いている大きなものだ。見上げると少し首が痛い。
見ると、アルファベットだらけの背表紙が並んでいた。
ハード系のカバーばかりの本は、どれもおしゃれなデザインをしている。
背表紙しか見えないが、赤や青の表紙に、金色やら銀色やらの装飾模様が施されていた。
...おっと、ついつい見とれてしまった。
これでも前職...いや生前職は製版業に勤めていたのだ。
本やらの類いは見ていて勉強になる。まぁこの世界にまだ製版というものがあるのなら、一度覗いてみたいものだ。
探してみたが、背表紙に日本語は一切なかった。当たり前なのだが、アルファベットばかり。それも俺の知らない羅列だ。
よくこれが読めるな、俺...前世だったら、多国語しゃべれるってだけで自慢できるレベルだから、俺も胸を張れただろうに。
中には読めない背表紙もある。
それはアルファベットというよりも、ラテン語やらの字形に似ていた。
しかしそれも数えるほどで、殆ど読むことができた。
この世界に日本語の概念があるなら、一気に二ヶ国語を話せすことができる、というアドバンテージを取得していることになる。
日本語どころか日本があればの話だが。
そうやって本棚をじーと眺め、いざ本を見てみようと、手を伸ばした途端…。
「おっきろーーー!バルーー!!」
ぼすりっ
すごい勢いで誰かがベッドにダイブした。
音で振り返ると、そこにはベッドに埋もれているクリスの姿があった。
...先に起きていてよかった。寝ていたら、あのスーパーダイブを食らっていたのだろう。
俺の代わりにダイブを食らった毛布が、沈み込んでいる。
あぁならなくて本当によかった。
「ん?あれ?」
ベッドに手応えがなく、顔をあげたクリス。
部屋の奥で何やってんだこいつ、的な目をつけている俺とバッチリ目が合う。
途端に顔が真っ赤になっていく。ダイブしたり赤くなったり、忙しないやつだ。
いや感受性豊かな子供というべきか。
「おまっ、起きてるなら降りてこいよっ!?せっかく俺が丁寧にお越しに来てやったのに!」
どたばたとベッドから這い出すと、走りよってくるクリス。
なるほど、こいつの丁寧な起こし方は、寝ているやつの上にダイブするのか。
覚えておこう。
「悪い、気づかなかった。皆起きてるのか。」
悪のりをしてもいいが、さすがにそこまで親しくはないので、冷静に対応しておく。
まだ子供らしく反応する方が難しいため、徐々にならしていこう 。
「そうだぞっ!皆待ってる!スクリトフが朝飯置いてくれてるから、皆で食おうぜ!」
冷静に対応しておいたはずなのだが、クリスは気にしておらず、ニッと笑って俺の手を引っ付かんだ。
なんというか、元気っ子だな。
彼と比べれは、俺はかなり表情の固いやつに見えるのだろう。とりあえずおとなしく着いていく。
さて…この世界の朝食が、口にあえばいいが…。




