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紅の邪神は向日葵に

長らく正体不明だった謎の人物の正体が今明かされる。

私は名を持たない。

かつて私はある大きな民族の戦士たちによって、神と崇められる存在であった。

彼らの念じが強すぎたのだろう。

私の思念は具現化し、ヒトの肉体を授かった。

いくら神と言えども、その上に立つものはいくらでも存在するのだ。


だが、一つ問題があった。

ヒトの肉体を授かることで、私の神としての能力は貧弱なものへと変わっていったのだ。

それによって彼ら戦士たちは戦いにおいて、いまいち功績をあげられずに悩んでいた。

私の力は戦士らの士気を上げ、天候や風向きを操り有利な戦況を作り出すことにあった。

他の民族との食料、人知を巡った交戦が絶えなかったために悩んだ長老が生贄の少女らを焼べることで、神として私が生まれたのだ。

それが今や神としての能力が薄れた私にはどうすることもできない。

神を利用した結果と言えばそれまでなのだろうが、私は彼らを愛している。

穏やかで人情あふれる彼ら民族は、それを統べる神としての誇りでもあったのだ。



今日も奴らが攻めてきた。

次第に本営地である村に近づいている。

私はヒトの身でありながら必死で守った。

お前らの邪神様はどこに行っちまったんだ

などと奴らが騒ぎ立てる中も必死で守った。

確かに神などもういない。

何故神は私にヒトの体を授けたのだろうか。

嫌がらせだとしたら許せない。

この身で一体何をしろというのだろうか。

疑問は増すばかりであった。


いつのことだろうか。

数多の戦いで疲弊し、野に寝そべっていた私に声をかけた一人の少年がいた。

「ひまわりあげるよ、ねえちゃん」

おおそうか、ありがとう。

と貴重な花の譲渡に戸惑っていたのだが、なんとか礼は言えた。

それは綺麗な花だった。

この村ではあまり見かけない大きな花だった。

花弁は大きく、大らかな太陽を彷彿とさせた。

その綺麗さゆえに、貴重な花なのだろうなということが一目でわかった。

なぜだろうか。

とてもうれしかったのだ。

少年の穏やかで人情あふれる目を見ると、この村の為ならば、この身が焼かれても良いと思えたのだ。

今分かった。

気のありようで全てが決まるのだ。

長老や、生贄の少女たちがそうしたように。

村の戦士たちが願ったように。


己の力を信じよう。

神としての力は薄れているだけで、消滅したわけではない。


向日葵の花を片手に、戦場へと出向く。

案の定戦士たちは力を失い、息も絶え絶えだった。

私は全身全霊で戦いに臨んだ。

戦士たちの士気を上げ、雨を降らせ、雷を落とした。

雨は地面をぬかるみに変え。

雷は敵の命を奪い。

士気が上がった戦士たちによって丘の下から這い上がる敵を一掃した。

まさか私も、ここまでの力を取り戻せるとは思っていなかった。

一度の失敗で力が使えぬと感じていたらそこまでの能力だったのだ。

全てはあの少年の優しさあってのこと。


私たちは次々に押し返し。

とうとう相手村へあと一歩というところだった。

物資補給のために私たちは一度村に戻った。



懐かしの村へ戻ると、惨劇が繰り広げられていた。

穏やかで人情あふれる村人たちが。

畑が。

家畜が。

すぐ近くの森が。

焼き払われ。

人々の泣き叫ぶ声がさながら矢のように飛び交っていた。

あの少年が泣きながら私の方へと走ってきた。

私は手を伸ばした。

だが、それも虚しく少年の頭に滑らかな石のような高熱の物体が目には見えぬスピードで飛来し、それを打ち抜いていた。

私は言葉も出なかった。

目の前で動かなくなった少年をただただ見ていることしかできなかった。

戦士の一人が少年のもとへと駆け寄った。

父親だったらしい。

私も連られて駆け寄った。

私は泣きわめいた。

泣きながらもその少年の手を握り、必死に願っていた。

ただ死んでほしくなかった。

それだけの願いだった。

それだけの大きな願い。

伝わるだろうか。

私は泣き続けた。

金切声と空気を切る音が交差する非常な現実を横目に見ながら。







私はもうどれくらい生きたのだろうか。

そう、私は今更気づいたのだ。

神は如何なることがあっても死なぬことに。

知らぬうちに新たな狂神としての能力もこの手に収まっていた。

姿を変え、人を狂わせる能力。

だが私は恨む。

呪う。

忘れることのできないあの惨劇。

私が最も愛した彼らの悲劇。

それを引き起こした奴ら。


私は分かった。

あれは何かを。

長らく生きてきて、やっと分かった。

いつまでもこの眼に焼き付くあやつらの正体が

私は見ていたのだ。

事の終焉。




村から飛び立つ謎の円盤を


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