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科学者はその日

考察してみてちょ

ある一人の科学者がその日は研究に没頭していましたとさ。

だが科学者は、己の研究において今一歩成果を見出すことができませんでした。

何度も何度も失敗を繰り返し、"そして成功"なんてことにはいつまで経ってもなりませんでした。

その代わり、彼が裏で密かに進めていた軍事兵器の研究開発は後にある国の王になるであろう男に多大な貢献をもたらし、一方科学者にはなんの利益にもなりませんでした。

それは決められた運命ですので。



科学者は今日も考えておりました。

失敗ばかりするが、このままやっていても成功は見込めないのだろうか、と。

科学者は"失敗は必ず成功に繋がる"という言葉をいつも胸に秘め、研究をしてきました。

そんなことなどあるわけないじゃないですか。なんと愚かな者ですか。運命は決まっているのです。



その日、科学者のもとに助手になりたいと申し出る一人の若き女がふと風のように現れました。

科学者は大喜びでその女を歓迎しました。

科学者には助手を雇う金などもう残されてはいなかったのです。

ですが女は、人件費などいらない。

その代わり研究が成功したらその時に金は貰っていくと言い、契約は成立しました。



ある日女は言いました。

実は連れ子がいるのです。

家で面倒を見切ることはできなくなったのでこの研究室で世話をしてよいですか、と。

もちろん科学者は大いに受け入れました。

それはその子にも自分の研究と信念を吸収して育ってもらいたいというその気持ちからでした。



子供がやってきた。

その日を境に科学者はおかしくなり始めた。

科学者は狂った思想で裏で密かに進めていた軍事開発を公に出して研究を行うようになった。

その資金は女がどんな方法でかは知らないが調達してきた。

科学者は湯水のように湧いてくるその資金を有効活用し、全て軍事開発に投じた。

その結果科学者は大成功し、高い殺傷能力と異様なまでの使いやすさを誇る軍事兵器を買い求める者が世界各地から現れた。

銃火器、爆弾、斬撃武器、精神攪乱兵器、ロボット兵器、近未来のレーザー武器に、物質消滅空間発生兵器まで。

数多くの軍事機構関連者たちはその兵器の構造を見るなり驚愕の声を上げた。

まず兵器の構造が複雑すぎ、中を見てもどんな機構か分からぬほどであったことだ。

次に加工精度である。

それは武器を作るパーツを製造するマシンにまで最大限の力を注いでいる証だった。

最後に奴らを呻らせたのは未知の物質である。

それは鋼のように硬くプラスチックのように軽い未知の物質から成るものであった。

未知の物質、名を『クレラトマリNo.32』と言う。

クレラトマリはかつて科学者が研究していた未知の物質開発の一部である。

時代の変化と共に科学者が追い求めてきた未知の物質の一部が製造可能となったのだ。



科学者の肉体は既に衰えていた。

だが狂った思想と狂乱を体で表したような言動は増す一方だ。

科学者は公には出ておらず、世界一の軍事兵器開発機構を作り上げたトップである科学者が出てこないのには皆が不審がっていた。


科学者は不治の病なのでは。

科学者は既に死んでいるのでは。

科学者は宇宙人なのでは。


という噂が立つ中、女に全ての営業を任せ、一人ベッドで衰えた体に休息を与えながらの生活を営む科学者の姿があった。

今では身の回りの世話をし、情報を一切洩らさない優秀な社員たちに面倒を見てもらい余生を寝具で過ごしているのだ。



女の連れ子は立派な青年に成長し、科学者の軍事開発を手伝うようになっていた。

そんな青年は狂った科学者を見て、人一倍悲しき気持ちでいっぱいだった。

かつての科学者を知る科学者の友人からは昔はそんな奴ではなかったと言われた。

謎であった。

一体何故この科学者はこれまでに人知を超越した思考で軍事開発に成功したのか。

母である女のせいか。

それとも青年のせいなのか。

謎であった。



数日後のある日、事態が大きく動いた。

科学者はその日、世話係の社員たちが来るとまるでずっとこの日を待っていたかのようにむくりと起き上がりいつもの口調で何かを決断するような言葉を発した。


「穢れを知らぬ恐れ無き人類は花を弄び狂った人類は、儚き屈辱と戒めの終止符を目覚ましき時刻の終焉に添えて見せましょう」


大声で怒鳴る科学者に世話係たちは恐れをなした。

科学者はいつしか手にしていた護身用の銃を世話係たちに向けて乱射した。



科学者は囚われ、企業は静かに沈んだ。



青年は科学者のデスクを調べていた。

その中にある奇妙な形の電子端末を視界に収めると、それをポケットに忍び込ませその地を後にした。



青年は研究の全てが収まった電子端末を片手に、軍事兵器の開発を新たに自分の手で進めていた。





女は風のように消えていた









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