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シュゼリア王国から花束を

文学少女は悪夢を見る

作者: 紫音

……どうしてくれようか?


授業が終わり、『キュリア=ランスター』は王立図書館に駆け込んだ。

顔見知りの司書『ティート=ティノール』さんと軽く挨拶を交わし、目的の本棚へと向かう。いつもは大好きな恋愛小説が並んでいる本棚へと一直線に向かうのだけど今回の目的は他の本棚。

そう私はあのにっくきあの幼なじみ()『ガラッド=オニキス』に制裁を加えるために様々な戦術(嫌がらせ)の方法を探す必要があるんです。


なぜ、そのような事をすると?


それは決まっています。私は根暗な文学少女。

目立たず、細々と自分の趣味だけを追求して行きたい女。

それなのにあの黒い幼なじみはそんな私を人目の付く場所に引っ張り出そうとするのです。


良いですか。私は根暗な文学少女なんです。人目の付く場所で多くの人の視線が集まるような場所に引っ張り出されてはショック死してしまいます。

それなのにあの男は私を引っ張り出そうとするのです……嫌がらせにしてもかなり悪質です。


あの憎たらしい幼なじみの顔を目に浮かべながら、有効な嫌がらせがないか本を手にお気に入りの席に陣取ります。


「……ティート、この子、どう言う子なんだい?」

「えーと、本人曰く、根暗な文学少女です」

「根暗な文学少女? 確かにずいぶんと良い趣味をしている」

「いつもはこんな物を読む子ではないんですけどね。キュリアちゃん、少し良いでしょうか?」


……身体を揺すられて本の世界からゆっくりと現実に戻ります。

顔を上げると苦笑いを浮かべるティートさんとどこか銀髪で赤い瞳をした軽薄そうな男性が立っていました。


「な、なんですか? この軽薄そうな人は!? あなたのような人がこの神聖な王立図書館に足を踏み入れて良いはずがありません!!」

「面白い子だね」

「ちょっと変わっているんです。幼なじみの男の子のせいでキラキラしている男性は苦手と言うか、拒絶する傾向にあります。でも、昔から多くの書物を読み漁っているためか、多くの文字、言語を習得しています。そのため、レスト先輩も外交部に入れたいって言っていますし」

「へー、それは良い事を聞いた。有能な人材はどこも欲しがるからね。まさか、レストがそんな事を考えているなんてね」


どこかであの幼なじみと被る笑顔に拒絶反応が出てしまい。一気に窓際に逃げてしまいました。

男性は苦笑いを浮かべながらティートさんとお話をしていますがその会話には聞いてはいけない言葉が混じっていた気がします。


「キュリアちゃん、落ち着いてください。紹介します。こんなのですが『レオンハルト=シュゼリア』王子です」

「ティート、こんなのって酷くないかな?」

「レオンハルト様? ……こんなのが?」

「……キュリアちゃん、君も言うね」


ティートさんが苦笑いを浮かべたまま、男性を紹介してくれるのですが男性はこの国の第1王子様だと言うのです。

式典などで遠目からそのお姿を見た事はありますがその時とは明らかに違っています。式典の時は凛々しいお姿でまさにこの国を背負って立つ方だと見受けました。

それなのにそれがこんなに軽薄そうに笑う軽い男性だったなんて……


「……凛々しい王子さまなんて、所詮、物語だけの話。現実なんてこんな物、現実には夢も希望も詰まっていない」

「ティート、本当にこの子、大丈夫? フロースより、後ろ向きな子、初めて見たけど」

「大丈夫です。すぐに元に戻りますから、レオンハルト様、王子様らしく、彼女を席までエスコートしてください」

「わかったよ。お嬢様、お手を」


現実が受け入れられず、脳が妄想に逃げ込もうとします。

身体を丸め、ぶつぶつと1人だけの世界に入り込もうとするのですがそんな私に向けてレオンハルト様から手が差し出されます。

レオンハルト様の様子は根暗な文学少女の私にはキラキラと映ってしまい、身体が拒絶反応を起こしてしまいます。


「止めて、似非王子!?」

「……とりあえず、落ち着こうか」

「キュリアちゃん、信じられないかも知れないけど、本当にこの国の次期国王様ですからね。あまり失礼な事をしてはいけませんよ」


レオンハルト様の手を払ってしまった私にティートさんは呆れ顔でため息を吐く。

確かにその通りなのですがなぜか身体が拒絶するんです。私にも意味は解りません。


「とりあえず、落ち着いたかな?」

「そうですね。この距離なら、何とか行けます。失礼な事を言ってしまい。申し訳ありませんでした」


近づくと身体が拒否反応を示すようでテーブルを挟み、レオンハルト様と距離を取ります。

ティートさんはお仕事があると言って戻ってしまったため、まさかのレオンハルト様と2人っきりです。

レオンハルト様はあまり異性に拒絶をされる事はないようで力なく笑っています。

冷静になれば自分がどれだけ失礼な事をしたか理解できたため、メガネを外した後テーブルに額を擦りつけて謝罪をします。

相手はこの国の次期国王様なんです。私のような平民を処罰する事など簡単なんです。


「別に良いよ。それに私は君に頼みたい事があったわけだし」

「私に頼み事ですか?」

「うん。ティートにお願いしようと思ったんだけど、彼女が君の方が詳しいって言うからさ」


レオンハルト様は処罰する気は無いと笑った後、小さく口元を緩ませました。

それは私を罠にはめようとするあの男の姿と重なるのですがレオンハルト様とあの男は違うはずです。

それでも、相手はこの国の王子です。そんな方が私のような何の特技もない地味な根暗な文学少女にお願い事をする理由に見当など付きません。


「私にですか?」

「ああ。ちょっと、用事で隣国のスタルジックまで行ってくるんだけど、その国の王女様にお土産でも持って行こうと思って。お礼はするからさ」

「……王女様にお土産ですか?」


レオンハルト様の言葉が理解できずに首を傾げてしまいます。

王女様へのお土産など平民の私では想像もつきません。貴族や王族への贈り物ならレオンハルト様の方がお詳しいはずです。


「私では役に立たないと思うんですけど、王女様ですよね? 宝石とかドレスはまったくわかりませんよ。なぜなら」

「根暗な文学少女だからかい?」

「そうです。ですから、力にはなれそうもありません」


力になど絶対になれるわけがないと首を横に振るとレオンハルト様は楽しそうに笑う。

最初は軽薄そうな人だとは思いましたが、この方にとってはこれが当たり前のようです。

釣られるように顔がほころんでしまい、レオンハルト様は私の顔を見て優しげな笑みを浮かべてくれます。

これが年上の余裕と言う物なんだろうと思います。


「そうでもないんだよ。私も会った事はないんだけど、舞踏会とか公式の場には出てきていないんだ。そこから推測するにあまり身体が強くないのではと思ってね。ありきたりかも知れないけどそう言う子が望むのは小説かな? と思ってね。年代もキュリアちゃんと同じ年くらいだし」

「色白い文学王女ですね!! それは萌えます!!」

「……とりあえず、落ち着こうか。ここは図書館だし」


レオンハルト様は贈る相手の事を考えて本をお土産にしようと決めていたようです。

それでティートさんに相談したようで私に矛先が向いたようです。

しかし、身体の弱い王女様……本当にそんな方がいるなら、会ってみたい。一気に妄想が膨れ上がり勢いよく立ち上がってしまいました。

私の様子にレオンハルト様は小さくため息を吐かれます。その声で正気に戻った私は慌てて迷惑をかけた他の利用者に頭を下げた後、席に座り直します。


「用件はわかりました。お手伝いさせていただきます」

「ありがとう。助かるよ。お礼はその手の書物が良いかな? 王城の書庫にはここにはない物もあるし」

「いえ、スタルジックの恋愛小説が良いです!! スタルジックの文字も読めますから、シュゼリアに入ってきていない恋愛小説をお願いいたします」

「……わかった。探せる時間を作ってくるよ。それじゃあ、さっそくお願いできるかな?」


考えた結果、断る理由もなさそうなため、承諾します。

レオンハルト様はお礼を言うと立ち上がり、私がテーブルに並べていた嫌がらせを実行するための本を重ねて行きます。


「あ、あの」

「さすがに女の子にこんなに重たい物を持たせるわけには行かないよ。それでどこに運べば良いのかな?」

「き、きらきらしないでください!?」


何をするつもりかと尋ねるとレオンハルト様はさわやかな笑顔を見せて言います。

その姿はまるで物語の中の王子様そのものなのですが本物に免疫のない私の身体は拒否反応を起こしてしまいます。


「そんなつもりはないんだけどね。キュリアちゃん、これからも会う機会があるんだから、なれてくれないと困るよ」

「……会う機会があるんですか?」

「お礼がいらないなら良いけど」

「……努力します」


拒絶反応を見せてもレオンハルト様はすでに私の反応になれてしまったようで苦笑いを浮かべているだけです。

確かに第1王子であるレオンハルト様と知り合いになれば貴重な他国の恋愛小説も手に入れる事が出来るかも知れない。

何とかなれようと思いますが……正直、なれる気はしません。


「そう言えば、街中でレオンハルトは不味いから、ハルトと呼んでくれるかな? 友人達はみんなそう言うし」

「そ、そんな事、恐れ多くてできません!? レオンハルト様をそのように呼べるわけがありません」


レオンハルト様はイタズラな笑みを浮かべながら、私をからかうようにご自分の友人だと言います。

根暗な文学少女の私が第1王子の友人と言う大きすぎる肩書きなどは要りません。小心者の私はそれだけで死んでしまいそうです。

大きく首を振って見せるのですがレオンハルト様はわざとらしく口を尖らせます。


「えー、言ってくれないと私は何をするかわからないよ。自分で言うのもなんだけど、厄介な人間に目を付けられたね」

「……それは脅迫ではないですか?」

「どうだろうね。それより、急がないとね。私もスタルジックに行くまで準備も多いから」

「わ、わかりました」


レオンハルト様の様子にため息が漏れるのですがこの方には敵わない事が理解できました。

本当に厄介な人に目を付けられた気がします……私は根暗な文学少女なのに目立ちたくないのに……


……どうしてこうなったんでしょう?


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