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春風 ~四季の想い・第二幕~  作者: 雪原歌乃
第七話 素直になりたい
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Act.2-02

 ◆◇◆◇


 夕純の住まいは会社から徒歩十五分ほどの場所にあった。

 涼香のアパートもほぼ同じ距離だが、方向が全く違う。

 だから、夕純と一緒に帰ることは一度もなかった。


「ちょっと散らかってるけど、勘弁してね」


 そう前置きしてから、涼香を招き入れてくれる。

 夕純が先に立ち、キッチンを経由してリビングに入ると、電気が灯される。

 暗闇に包まれていた室内が、いっぺんに明るくなった。


 改めて、部屋の中をグルリと見回す。

 一人暮らしにしては広い。

 というより、2LDKと言っていたから、むしろひとりよりもふたりで暮らすのにちょうどいい。


「無駄に広いでしょ?」


 涼香の心中を察したのか、夕純は肩を竦めて苦笑いする。


 涼香は、「そんなことはないです」と内心慌てて取り繕ったものの、心の中を覗かれて気まずい気分だった。


 だが、そんな涼香に対し、夕純は気分を害した様子はない。

 むしろ、楽しそうにケラケラと笑っている。


「別に気を遣わなくていいのよ。だって、当の本人が無駄だって思ってるんだから」


「誰かと住む予定とかあるんですか?」


 つい、よけいなことを訊いてしまった。

 しまった、と思ったが、夕純はやはり、「ないない!」と、笑いながら両手と首を同時に振った。


「ちょうどいい物件がここしかなかったってだけよ。ま、誰かが一緒に住んでくれたらいいんだけどねえ。例えば涼香とか?」


「――いや、私は他人と住むのは苦手ですから……」


 また、馬鹿正直に答えてしまう涼香。

 何故、夕純が相手だとこうもボロが出てしまうのか。


 そして、墓穴を掘り続ける涼香が夕純には楽しくて仕方ないらしい。

 「涼香ってば面白い子ねえ!」なんて言いながら、今度は腹を抱えて笑い出した。


「だから好きなのよ。私にも全然遠慮なしなんだもの」


「――すいません……」


「謝らなくっていいってば」


「はあ……」


「って、立ち話も何だったわね。ほら座って! 私は料理がらかっきしだから、なーんもおもてなしは出来ないけど、お酒とつまめるものはたくさん買ったんだから、これで存分に飲みましょ?」


 そう言って、夕純は自分より背の高い涼香の後ろに回り、肩を掴んでその場に座らせる。

 それから、夕純も涼香の左斜めに移動して腰を下ろした。


「まずは飲んでリラックスよ、リラックス」


 夕純はビニール袋からビール缶を一本取り出し、それを涼香に渡してきた。


 涼香は無言で会釈して受け取り、プルタブを上げた。


 夕純も涼香に続いて自分用にビールを取り、同じように開ける。


「それじゃ、かんぱーい!」


 ふたりきりの空間に、夕純の高い声が無駄に響き渡る。

 涼香は曖昧に微笑を浮かべながら、夕純の缶に自分の持っているそれをぶつけた。


「ああ、染みるわあ……」


 ビール缶から唇を離した夕純が、至福の表情を見せる。

 よほど喉が渇いていたんだな、などと思いながら、涼香はちびちびとビールを飲み続けた。

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