Act.2-01
この日は何事もなく無事に一日が終わった。
いつものように更衣室に入り、職場用のスーツから通勤着に着替える。
更衣室の中は、女達の黄色い声が飛び交っていた。
涼香も話しかけられれば適当に合わせるものの、彼女達と一緒になって上司の悪口は言いたくなかったから、雲行きが怪しくなると、曖昧に笑って取り繕った。
そこへ、彼女達が忌み嫌う〈お局様〉が入って来た。
とたんに、煩かった室内が一気に静まり返るものだから、どうしてこうも態度があからさまなのだろうと心底呆れた。
お局様――夕純は、彼女達のことなど眼中にない。
陰口を言われていたことは察しただろうに、そんなことは全く気にする様子もなく、自分のロッカーの前までスタスタと進み、黙々と着替える。
その間、煩かった彼女達はそそくさと着替え、蜘蛛の子を散らすようにゾロゾロと出て行った。
更衣室の中には、涼香と夕純だけが残された。
初めて夕純と飲みに行った日と全く同じ状況だ。
ただ、あの頃と違い、今は夕純とふたりきりになったことに安心感を覚えている。
煩い連中がいては、夕純とゆっくり話が出来ない。
それに、うっかり彼女達の前で男の話をしようものなら、興味本位で喰らい付いてくる。
考えただけで鬱陶しいし、イライラも増す。
「私のウチに来る?」
着替え終わった夕純が、涼香の前に立っていた。
涼香はロッカーの鍵を閉め、バッグを肩にかけた。
「夕純さんのウチに、ですか?」
「そ」
「別に外でも構いませんけど……」
「どうして? 私のトコに来るのは嫌なの?」
「いえ、そうじゃなくて、迷惑じゃないですか? ご家族とか……」
「同居人なんていないわよ」
夕純はケラケラと笑った。
「私は就職してからずっと、アパートで一人暮らししてるもの。今もこの通りのひとり身だし、全然気にすることなんてないわよ」
「はあ……」
この様子だと、何としても涼香を夕純のアパートに連れて行きたいらしい。
結局、涼香は夕純の提案通り、アパートにお邪魔することにした。
そう告げると、夕純は満面の笑みを浮かべた。
「それじゃ、行きましょ。ついでにちょっと、途中でお酒でも買っちゃう?」
〈お酒〉というキーワードに、涼香はつい反応してしまう。
夕純も分かっているだろうし、夕純自身、飲みたいと思っているのだろう。
「適当に」
涼香は短く答えた。
夕純はやはり、相変わらずニコニコしていた。




